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12.魔将の宣戦布告

境海きょうかい。魔族と人族を分かつ、忌まわしい境界線」


ザイヴナートとの最後の通信を終えたエスゼリクは、天からの日差しに眉を顰めながら、視線を前に向ける。

広がるのは人族と魔族の領土を分ける広大な海、境海。

地平線の向こうに憎き人族が蔓延っている。

そう思うだけで、彼の思考に怒りが満ちていく。

絶やさなければならない。

途絶えさせなければならない。

二度と同じ過ちを繰り返さないためにも。

すると彼に付き従う蛇型の魔族、サーペント達が頭を垂れて報告する。


「エスゼリク様、準備が整いました」

「良かろう」


一匹のサーペントが口に咥えていた黒い光球を放し、宙に浮かばせる。

これは所謂、黒魔導による通信手段。

他魔将達と連絡を取っていたものと似ているが、これは一方的にこちらの話を通すものだ。

高い所から低い所へ水を流すのと同じ。

そして見下すべき相手は、決まり切っている。

エスゼリクはゆっくりと黒い光球に近づいたが、それを背後で見守る者がいる。

銀色の毛並みを靡かせる九尾の狐、ギンコだった。

既に封印は解かれ、元の姿に戻った彼女は複雑な視線で見届けていた。


「エスゼリクよ、本当に始める気か?」

「どうした。まさか、止める気ではないだろうな?」

「……そんなつもりなど、毛頭ないわ」

「ならばせめて、己れに手を貸せ。刻印が解除された今、貴様が死ぬ理由はなくなったのだからな」


それが今出来る最善の役目だと伝える。

ギンコは視線の程を崩すことなく、もう一度エスゼリクの姿を目で捉えた。

氷のように透き通った鱗。

同色の巨大な翼を広げ、白銀の爪と牙を携えた、彫刻のようにすら見える生命体。

そこにいたのは、ただの魔族ではない。

自身よりも巨大な、一匹の竜。

魔族最強種と謳われながらも、魔将へと昇華した竜族の頂点とも呼ぶべき存在だった。


「さぁ、凍てつけ! 卑劣な海域を、絶対の氷結へと変えよ!」


宣告と共に、エスゼリクは魔力を解き放った。

冷え切った力が周囲に伝播し、境海を岸辺から呑み込んでいく。

瞬く間に広がる海原は凍り付いていった。

二つの領域を分け隔てていた領域を、凍土へと変貌させていく。

この速度であると、数日と経たず境海の全ては氷結し、人族の領域にすら及ぶだろう。

そしてそれこそが、エスゼリクの手段でもあった。

浮かび上がっていた黒い光球に向けて、彼は宣言する。


『人族の重鎮者共よ! 聞け! 我が名は、魔王・エスゼリク!』


黒魔導によって、エスゼリクの声は人族の領域に届く。

場所は二か所、オルテシア王国の王都と神都パラミナの大修道院だ。

声だけを飛ばすとは言え、空間転移に近い大掛かりな術式故に数分が限度。

だがそれだけあれば、こちらの意志を伝える事は十分に可能だった。

彼は怒りの感情と共に声を張り上げる。


『貴様達は、我が同胞を晒し上げる非道を行った! 蛮行を勝利の余韻のために正当化する、その愚者にも劣る下劣な下等民族め! 傲慢で蒙昧な己を恥じるが良い! 時は来た! これより我々は、貴様達人族の領土へ侵攻する! 何れ貴様らの地にも、我が力が及ぶことだろう!』


パキパキと、氷結した大地が音を立てていく。

周囲のサーペント達も息を呑み、一気に下がっていく気温に僅かに身震いを起こす。

これが魔将として、竜族としての力。

莫大な魔力によって凍り付く境海を見て、無知な人族であっても否が応でも理解するだろう。

十数年前に起きた先代の勇者と魔王との戦い、それが再び開戦したという事を。

あの時は人族の手によって魔族の領土は荒らされたが、今回は逆。

圧倒的な力を以って、人族の領土を蹂躙する番だ。


『命宿らぬ零度の果て、見果てぬ永久の凍土に絶望を抱き、そして息絶えるが良い! 希望の光も、灯も、決して宿らせん! 貴様達人族は、ここで等しく滅びる運命なのだ!』


そうしてエスゼリクは光球を凍てつかせ、そのまま破壊した。

居場所を逆探知される前に処理したのだろう。

彼らが取るべき行動は単純明快。

境海が完全に氷結化した後、従者達と共に海を渡り、人族を抹殺する。

倒す相手も、数も、考える意味はない。

思うままに敵対する者全てを薙ぎ倒し、圧殺する。

此処にいる者全てが、命を賭けるだけの覚悟を終えていた。

そんな中、ギンコは真っすぐに水平線の向こうを見つめる。

彼女の脳裏には大灯台で死に別れたカイツェル、そしてオスカーとエイダの姿が浮かんでいた。


「オスカー、そしてエイダよ。お主達は、必ず妾達の前に現れるのじゃろう。じゃが、しかし……」


彼女だけが唯一、この場で躊躇いを抱いていた。

臣下達は魔族解放のために喜んで命を捧げ、己も後を追うつもりだった。

しかし大灯台にて、カイツェルに生きてくれと懇願され、そしてオスカー達の弱点も知った。

彼らがどれだけの覚悟を持って戦いに挑んでいるのか、気付いてしまったのだ。

故にギンコには、オスカー達の姿がとても神々に操作された人形とは思えなかった。

自分の意志を持ち、自分の意志で歩み続ける。

そこに人族も魔族も関係はない。


「妾は知らなくてはならない。お主達が、神に操られし者なのか。かつての彼女と同じ、神に背きし者なのかを……」


生き延びてしまった自分がすべき事は、一体何なのか。

やはり、彼らと分かり合うことは出来ないのか。

彼女は自問自答を繰り返し、迷い続ける。

エスゼリクはそんな彼女の考えを見抜いたかのように、鋭い視線を向けていた。

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