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4.デバフ勇者の違い

亜人は人族とは異なる。

魔族としての要素を持っているので、頭の天辺から足のつま先まで構造が違うなんて事もある。

エイダはその違いを痛いほど理解していた。

普通の人は髪を振り回すだけで岩など粉砕できないし、爪を振り下ろして鉄を引き裂けはしない。

強靭な魔族であればある程、その性質は魔族のものへと傾いていく。

そして何より、エイダは竜人である。

元である竜族の寿命がどれだけのものなのか、詳しくは知らない。

ただ人族の何倍も生きるだろうとは理解していた。

そしてその血は、彼女の体内に色濃く受け継がれている。


見知らぬ女性達の会話は、彼女の心に大きな違和感を抱かせる。

傷付いたとか、そういった直接的な話ではない。

言葉では言い表せない、奇妙な感覚が包み込んだ。

一体これは何なのだろう。

経験のない違和感に考え事をしていると、いつの間にか彼女は馬小屋に辿り着いていた。

商人達や神官が扱う馬が、小屋の中で身体を休めている。

中央には馬に軽く乗るための敷地もあった。

広い柵の中で何頭もの馬がウロウロとしている中、心当たりのある人物が見えてくる。


「ありがとうございます! まさか、暴れ馬まで鎮めて下さるとは!」

「いえ、皆さんが無事なら何よりです」


商人に感謝されている人物は、間違いなくオスカーその人だった。

大した事ではないと言いつつ、彼は軽く首を振っている。

そして彼らの前には眠りについた一頭の馬がいた。

恐らく何かの拍子で暴れた馬を、彼がデバフで沈静化させたのだろう。

目当ての人物を見つけたにも関わらず、何故か彼女は前に進めずにいた。

するとオスカーの方がそれに気付き、近づいてくる。


「あ、エイダ。服の仕立て直しは、もう終わったの?」


彼の様子に変わった所はない。

しかし、エイダは知っている。

オスカーの身体は、とてもじゃないが万全な調子ではないと。

ザカンの手によって今はどうにか均衡を保っていられるが、それ無くしては長くは生きられない。

デバフを使い、零式を行使すれば更にそれは悪化する。

望んでもいない長寿を持つ自分とは、全然違う。

そう考えていると、チクリと胸の内が痛みを発した。

何が起きたのだろう。

剣で斬りかかられても痒くもない身体が反応し、思わず彼女は両手で胸を抑えた。


「いたい」

「え?」

「何だか、いたいの……」


何故か分からない。

理由が分からない。

ぼんやりとそのままの感情を吐露してしまう。

するとオスカーも気になったようで、目線を合わせるようにしゃがみ込み、彼女に触れようとする。


「胸が痛い? それは診てもらった方が……」


瞬間、ドキリと胸の内から音が響く。

痛みではなく、血の脈動が全身で感じられたような感覚だった。

訳も分からず、エイダは反射的に身を庇いながら、後ずさってしまった。


「っ……だ、大丈夫。大丈夫、だから」

「そ、そうなのか? 無理をしてないならそれでも良いけど、何か変だと思ったら直ぐに言いなよ? 幾ら丈夫な身体だからって、調子を崩さないとは限らないからな」

「……ん」

「折角、聖夜祭が近いんだし。こういう時は、万全の調子で臨みたいよな。実際に聖夜祭に参加するのも始めてだから、少し期待してるんだ」


本人が大丈夫だと言っているなら、それ以上の詮索はするつもりはないようだ。

オスカーは特に何を思う訳でもなくその場で立ち上がり、軽く背伸びをした。

そうして聖夜祭の事を考えながら、晴れ渡った空を見上げる。


「祭りの終わりには、手製の灯を渡されてさ。皆で空に浮かべるみたいなんだ」

「空に?」

「うん。由来までは知らないけど、天に届ける、って意味があるのかもしれないよ。多分、綺麗なんだろうなぁ」


彼も聖夜祭について別の人から聞いたのだろう。

娯楽にあまり触れて来なかったためか、何処となく楽しそうにも見えた。

勇者である以前の、一人の青年の姿。

そこに、己を悲観している様子は全くなかった。


「エイダはキラキラしたものが好きだし、きっと気に入ると思うよ」

「そう、なの? もしそうなら、エイダも見てみたい、かも」


歯切れ悪く彼女は答える。

どう接すればいいか分からなくなっている中、あくまで彼は普通に接してくる。

亜人を知っているのなら、竜人が長寿である可能性にも、きっと気付いている筈だ。

そこでようやく彼女は、自分が僅かに罪悪感を抱いていると気付いた。


「ねぇ、オスカー……」


考えが纏まらないままに声を掛けようとしたが、それより先に神官が現れ、オスカーを呼び止めた。


「オスカー様。ローファン司教がお呼びです」


彼からしても、それは待ちに待っていた報告だったようだ。

早かったな、と内心で言っているように目を丸くする。

そして一度だけエイダを見てから、少し誤魔化すような仕草をした。


「おっと、あの件のことかな。悪い、エイダ。ちょっと司教の所に行ってくるよ」

「あ……うん……」

「散歩するのは良いけど、迷子にならないようにな」


軽く謝りながらそう言って、踵を返して神官の後ろをついていった。

呼び止めることは出来ない。

残された彼女は、伸ばしかけた手をゆっくりと降ろした。

結局、自分は何を言おうとしたのだろう。

罪悪感を紛らわすために適当な言葉を見繕っても、何の意味もないのは分かっている筈だった。


「好きなもの、聞けなかった……」


ついでに本来聞くべきだった事柄すら抜け落ちてしまった。

エイダはもう一度、胸の辺りを抑えた。

チクチクとしていた痛みは引いている。

代わりにあるのは、どうしようもないモヤモヤ感。

心の中で何か大きなモノがつっかえている。

今までにない感覚に、彼女は戸惑うしかなかった。

一体どうすれば良いのか分からず、その場に暫く立ち尽くしてしまう。


「あのぉ。いいですかぁ?」


すると不意に幼い声が後ろから聞こえて来た。

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