非日常は希望になるが
世界は常に変わり続けている。誰かの手によって。たとえそれが観測されることがなくとも。
キンコンカンコン、とチャイムが鳴り響く。
「あーあ、今日もつまらない一日だったなー。ほんっとに変わったことが起きないし」
と声を上げる少女は、同じことしかない代り映えのしない日々に退屈していた。彼女は、それこそ、毎日世界の色が変わってしまうような日々を望んでいた。
「そりゃあそうじゃない?非日常っていうのは普通自分からはやってこないだろうしね。だから期待してるだけじゃ駄目だよ、流観」
正論ど真ん中な意見を出すのは、非日常を求める割に自分から行動はしないらしい少女、時川流観の友人である不知琴音。流観は大きく伸びをすると、携帯電話を取り出し、いじり始めた。流観は今のご時世では珍しく、ガラパゴスケータイを使っている、時代遅れ系女子なのだ。
流観は、正論を言われたことに私だってただ待ってるだけじゃないんだぞ、と頬をふくらませた。仕返しをしてやろう、と思ったところで琴音が携帯をいじりだすのを見て、流観はニヤリと悪い笑みを浮かべ、
「また調子のいいこと言っちゃってー。彼氏ができたからって、調子乗ってるんじゃないのー?今だって、ほら」
と言った。流観は友人から琴音に彼氏ができたという話を耳にしていたのだ。
「え?何言ってるの?今メールしてるのは友達の一人だしそもそも私に彼氏なんていないよ」
「恥ずかしいからごまかしてるの?このこのー。こっちはしってるんだからね、ねー、かな」
流観は近くにいた、友人で琴音の話を広めた張本人である皆川香奈見に同意を求めた。香奈見は一拍の間を置き、顔に疑問符を浮かべ、えっ?と声を上げた。
「私、そんな話一度も聞いたことないよー。流観ちゃんの気のせいじゃないかなあ」
あれれ?おかしいなあ……とつぶやきながら流観は自らの記憶に誤りがないか確かめた。しかしどう考えてもはっきりと記憶が残っているので、
「そんなはずないよー。私、かなが言ってるのこの耳で確かに聞いたもん」
と、はっきり言った。しかし香奈見にはそのようなことを言った記憶どころか聞いた覚えすらないようで、
「私、そんなこと言ったことがないどころか聞いたこともないよー」
否定した。それに合わせるように琴音も否定をする。
「いや、いないって。神に誓ってもいいよ。絶対にいない!いやまあいてほしいんだけどさ……ケータイ見せようか?」
「ふっふふん。それじゃあ遠慮なくー」
流観は琴音の手の中の携帯電話を覗き込んだ。しかしメールや着信履歴にそれらしき人の名前がなく、驚いた。
「あ、あれ?あれれ?おかしーなー」
言葉に焦りを表しながら、自身の言っていたことに誤りがあったことに対する弁解の言葉を探している流観に、琴音と香奈見は腹を抱えて笑いながら、
「き、今日はいつにもましてふふっおかしいね」
「そうかな?私にはくふっいつも通りにおかしく見えるけどくふふっ」
流観は友人のからかいに顔を真っ赤にし、私はいつも普通だからっ!と怒りながら帰るための荷物をまとめ始める。友人二人は、流石にからかいすぎたかと小声で話し合ったが、いつも自分たちがからかわれることが多いので、これは当然の結果だと結論を出し、ともに帰るために流観と同じように荷物をまとめ始めた。
三人は、学校から外へ出ると、今日は何をしようかと話し始めた。
いつものファミレスに行こう、そこでさっきの恨みを晴らしてやると流観は言う。返すように、いやいや今日は寒いし、もう帰ろうと琴音は言う。琴音は流観が単純な人間で、一晩経ったら大抵の怒りは忘れてしまうのだということを知っているのだ。
結局香奈見にも同調され、流観は仕方なく帰ることに同意した。
夜、流観は己の母に、今日の不思議な出来事を話した。友人から聞いた、普通なら忘れないような話を、話してきた本人に振ったら、その話が事実ではなかったどころかそんな話知らない、とからかう様子でもなく本気で言われたということを。
それを聞いた流観の母は、本来ならば娘の記憶力を疑うところであるというのに、やはり母娘であると言うべきか、どこかズレたことを言うのだ。
「それって何か面白いことが起こる前兆じゃない?いいわねえ、私もそういう経験してみたかったわ」
「やっぱり?私もそう思ってたの!明日も何が起こるかわからないし、周りを注意深く見ようかな」
こうして、母娘の会話はヒートアップしていった。
「いや、流石にそれは妄想が過ぎないか?流観が勘違いしてただけじゃないのか?」
という父の言葉が耳に入って来ないほどには。
朝、流観は学校に着くなり、スマホをいじっている琴音を見て、驚いた。流観は時代の流れに鈍感なところがあり、それはスマホとはなんぞやと数日前に言うほどだったからだ。
「おっはよー。琴音ー、ケータイスマホに変えたの?いつの間にって感じでびっくりしたよ」
流観の言葉に、琴音は困惑の表情を浮かべた。
「何言ってるの?結構前から私このスマホだよ?っていうか何よケータイスマホに変えたのって。ずっとスマホじゃん、私」
「何、冗談?琴音はいっつもガラケーの時代遅れ系女子でしょ?……あっ、つい本音が」
「昨日もいつも以上に変だったけど、今日もそれと同じくらい変だね。私、どっちかっていうと時代進んでる系だと思うんだけど」
よく見ると、琴音の服装も心なしか今どきのものになっている。いや、どちらかというと一部時代が進みすぎているファッションのところもある。
流観は気がついた。これは、まさか昨日の琴音の彼氏の話と同じ現象ではないのか、と。流観は自分の気分が高まっていくのを感じた。
「ふふっ……ふふふふ……ついに待ちに待った非日常だ……」
「うわっ、ちょっと大丈夫?なんかキモいから先行ってるね」
その日の学校で、琴音のスマホやファッションに気がついたのは、流観だけであった。流観は、いよいよ自分に非日常がやってきたのだ、と目を輝かせる。
「朝から思ってたんだけど、さっきから非日常非日常ブツブツ言っててなんかヤバい人間に見えるよ?かなもそう思わない?」
「たしかにー。なんか、今日は不審者みたいだよー、流観ちゃん」
しかし彼女達の言葉は流観の耳には入らない。なぜなら流観はこの先何が起こるのか、妄想するので忙しいからだ。
「まあいいんだけどさ、今日はどこいく?」
「じゃあいつものファミレスがいいな!今日はいっぱい話したいことがあるし」
正気に戻った流観が、要望を出した。
「何言ってんの?やっぱり頭おかしくなっちゃった?私たちがいつも集まってるのはあのショッピングセンターのフードコートでしょ?」
琴音が指さした先は、流観にとってはファミレスがあったはずの場所で、しかしそこには建ってから少なくとも5年は経っているような外見をしたショッピングセンターがあった。
「そもそもファミレス行くんだったら電車で隣町に行かなきゃいけないしねー。昔はあのショッピングセンターの土地のどこかに建ってたらしいんだけどねー」
「まさか、過去かそれに近い何かが?それを私はわかる?もしそうなら……私は、私は……あああ」
流観は、これまでに起こってきた出来事が、過去、もしくはそれに近しい何かが変化することで起きていて、それを自分だけが観測することが出来るのではないか、と考えた。
突拍子もないことではあるが、理由付けをするのであれば、周りの人間が皆流観を騙していると考えるよりは、流観にとっては納得ができるものであった。非日常を目の当たりにした流観の興奮は、最高潮になっていた。
「どうしたの?大丈夫?」
「ごめん二人とも!ちょっと用事が出来たから、帰ってていいよ!」
「え、え?」
ショッピングセンターへと駆けていく流観を、二人は呆然と見つめていた。しばらくした後、二人は我に返った。
「な、なんだったんだろうね。さっきからなんかおかしかったけど」
「さあねー。まあ、流観ちゃんのことだし、明日には元に戻ってるんじゃない?」
「そうかもね。まあ、流観にも言われたし、今日はさっさと帰っちゃおうか」
二人は、流観ならばそのうち治るだろう、それもそうだねー、と放置することにし、帰路についた。
三人称視点の練習も兼ねた作品です。なのでおかしな点がございましたら指摘していただけるととてもありがたいです。




