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夜が明け、作戦司令室に7人のALICEの姿が揃った。

ヴェロニカは作戦開始前に今一度全員に作戦の内容を伝えた。

「いい。改めて作戦を簡潔に伝えるわ。私達は帰還を望む義勇兵1000人を連れ、エクスシアドームから大型空宙戦艦(おおがたくうちゅうせんかん)にて地球に降下する。その後は空宙戦艦を拠点とし、後続の部隊が来るまで時間を稼ぐ。後続部隊が到着し次第、ALICEである私を含めた5名、ナタス、ロベリア、チガヤ、エリカは末妹の封印を執行する。尚、補給物資に関しては後続部隊が到着する迄、拠点となる空宙戦艦にしかないから、無駄な消耗は極力避けて、効率的に拠点を防衛しつつ敵勢力を殲滅する。モミジ、アカネの両名はセラフドームにて、敵対勢力が侵入した場合に備えて待機となるわ。敵が侵入した場合には迅速に対処し、殲滅。いいかしら?」

「……ホントに簡潔だな。流石の吾もビックリだ」

「僕はシンプルでいいと思う」

「私は、末妹の封印は看過できません……が、ヴェロニカさんの言う事を信じます。とにかく天使(こども)たちには指一本触れないで下さいね」

「月のことはアカネたちに任せといてね!」

「……アカネ、心配」

「作戦は前日に説明されているから問題ない。ワタシは司令に従うだけ」

「では、各員配置につけ。コレより地球人類殲滅作戦を開始する」

ヴェロニカの号令とともに、全員が迅速に行動を開始する。

洗練された動きはベテランの兵士であることがよく分かる。

ヴェロニカ達はセラフドームからエクスシアドームへ移動するため軍が管理する地下の高速連絡列車を使用して、一般市民が移動に30分程かかるところを半分ほどの時間で到着した。

無論軍で管理されているので、軍港まで直通である。

高速連絡列車を降りると目の前には大きな両開きの鉄扉が現れ、上部のセンサーから青白い光が浴びせられる。その光は一瞬で誰かを識別し、軍の登録データベースに載っているかを一瞬で導き出す。もしここで登録が無ければ機密保持の為射殺されるが、ALICE達は生きた月の秘密兵器でもある為、ここで弾かれることは先ず無い。

識別が完了し重そうな鉄扉がゴゴゴっと音を立てて開いていく。

そこを潜ると目の前に空宙戦艦が鎮座している。このドックはドームの外にあるため、地下に作られ、上部には頑丈なハッチが3重で施されているのだ。

既に出航の準備を済ませ、甲板に待機していた高揚する1000人の義勇兵達に出航を言い渡し、ヴェロニカ達は艦の司令室に入った。

「エンジン始動、エアロック開放せよ!」

ヴェロニカの号令に呼応して戦艦ドックの上部のエアロックが解放され、3重になっている巨大なハッチが開く。重厚に閉ざされた鉄門扉が開くと、艦の真上には星の海が広がる。

尾部と底部のエンジンが轟音を上げ赤熱し、推力を生み出す。そして船はゆっくりと月を離れ、進路を人類の故郷である地球へと向ける。この行為そのものが、再び人類を衰退させるとしても……。





それから丸一日の航海を経て、ヴェロニカ達は地球の大気圏へと突入する。

本艦が大気の層とぶつかり、摩擦熱が発生する。それこそが、地球への到達を困難たらしめる要因でもある。

高度が下がっていくとともに、船体の温度は上昇していくが、もちろんそこは対策をしている。

本艦は大気圏突入時に、船体が100℃を下回る様に自動で冷却を開始する。

また船体への揺れも最小限で抑えられるように配慮もされており、西暦2000年代初頭の技術より、遥かに肉体的、精神的ストレスは少ないと言える。

厚い大気の層を抜けると、そこには真っ青な空が広がっていた。

「――この光景は……」

青く澄んだ海に、自然が溢れ、青々と萌える大地。ヴェロニカ達ALICEが最後に見た地球はこんなに青くなかったのだ。

大気にも、大地にも、海にさえも放射能が撒き散らされ、人はおろか生物が生きられる環境とは思えなかったからだ。

空は淀み、大地は汚れ、海は枯れ、その母性を失った。

彼女達が見たのは世界の終焉に等しかった。自分たちの守ろうとしたものが守れず、壊れていく。

力を手にして尚、その崩壊を止められず、大勢の人が亡くなった。

明日を生きる。そんな当たり前の事が許されなかった。

炎で焼かれて。瓦礫に潰されて。四肢を切られて。弾丸で穿たれて。死んだ。唯そこで生きていた。それだけなのに。

家族も、友人も、恋人も。助けたかった誰かが。唯そこで生きていたかった。そう叫んでいたのに。

ALICE達の胸にはそれぞれの思いが巡る。

後悔も、哀しみも、憎しみも。全てが入り混じる。

思想も、理想も、願望も。全てが拒絶された世界と彼女達は戦ったからだ。


目標着艦地点は現在の地球人類が最も多いとされ、過去にユーラシア大陸と呼ばれた大陸の中心に当たるとされる都市である。その都市こそがALICE8号機がいる可能性が最も高い場所だ。

その都市は内陸部の為、艦を碇泊させておく港が確保できないが、そこは問題ない。

何故ならば空宙戦艦は空中であっても碇泊出来るからである。

空宙戦艦は大気圏を突破し、大陸都市から東部に30km程離れた地点に降下した。ここから敵の中央都市を目指して降下、進軍していくこととなる。

そして早くも艦の索敵レーダーに反応があった。

「報告!敵戦艦が本艦の12時方向と6時方向に展開されています!このままでは挟撃(きょうげき)されます!」

「数は?」

「12時方向に熱源5、6時方向に熱源3!接近してきます!」

此方(こちら)は一隻だ。数は圧倒的に敵が勝る。だがヴェロニカは慌てず、冷静にそして迅速に命令を伝える。

「各員、艦隊戦用意!砲手は配置に付け!射程に入り次第敵艦に向けて砲撃、撃沈せよ!」

「ん、吾達がこの地点に降下することを予想して配置したのか。だとしたら敵の指揮官はお前の更に上をいく切れ者だな。吾達は空中戦はできないから相手のしようがねぇよなぁ―――」

「ロベリア、エリカはフライトマシンに搭乗して!ロベリアは後方の敵の迎撃、エリカは前方の敵を!ナタスは本艦に近づく敵部隊の迎撃!チガヤは乗組員の保護、及び救護!」

「えっ!吾出撃?!」

「了解した」

「分かった!」

「お任せください」

エリカとナタスは指示を聞くなりカタパルトデッキへと走り出し、チガヤは艦内の救護室へと向かった。

不服そうなロベリアに向けてヴェロニカが檄を飛ばす。

「ロベリア。強襲は貴女(あなた)の得意分野でしょう?」

「……はいはい、やりゃいいんだろっ!ったく人使い荒いんだよなぁ指揮官様は!今夜は一杯付き合えよ!」

そう言い残してロベリアも気怠そうに文句を言いながらカタパルトデッキへと走っていった。

ヴェロニカは去っていくロベリアの背中に「考えておくわ」とだけ返し、休むことなく指示を出す。

「本艦を90度回頭!敵艦に主砲を叩き込め!敵からの反撃もある、フォトンによるシールドを張れ!右舷カタパルト、VX-02、03、07を出す!速やかに発艦の用意!」

ヴェロニカの的確な指示により速やかに艦は回頭。敵艦を捉え主砲を打ち込んだ。

空に一筋の閃光が放たれ、敵艦に直撃する。

黒煙を上げるがまだ落ちてはいない。

敵艦も砲火を放ってくるが、コチラの射程のほうが長く、当たりはしない。

「砲撃を緩めるな!敵艦を全て沈めろ!」

艦隊戦に於いて、ヴェロニカ達は敵を圧倒している。次々に敵艦に突き刺さる閃光。

その威力に一隻、また一隻と被弾し、沈んでいく。

敵艦が接近を試みようとするも、ロベリア達が駆るフライトマシン、正式名称VXシリーズBellatrixCaelivaga(ベルラトリクス・カエリウァガ)に阻まれ、近づく前に撃沈されていく。

VXは形状こそバイクの様な乗り物だが、ただの移動用の乗り物ではない。最高速度はマッハ4。コレは人では耐えられないが、彼女たちであれば地球の重力下であっても耐えられる。

更に小型ではあるが、前方にはフォトンを高圧縮して打ち出すビーム・キャノン、尾部には対フォトン対策として実弾のミサイルを10発も装填したミサイルランチャーも装備されている。

その上、各ALICE達に合わせた専用の武装も搭載されている。

そのおかげもあってか、初戦はヴェロニカ達が1時間もかからずに敵艦8隻を全て沈め、圧倒的勝利を収めることとなる。

ただ、撃沈した敵艦は付近の山脈へと墜落し、末妹が浄化した大地を燃やし、汚してしまう事になった。

後続隊が到着すれば遅かれ早かれの結果だったのかも知れないが、やはり自分たちの手で――という部分で自分自身に矛盾を感じずにはいられなかった。

ヴェロニカの心の中に再び疑問が湧く。私は一体何をしているのだと。

しかし義勇兵達は初戦闘、初勝利という流れからか、そんな事を気にする様子もなく、ただ勝利に舞い上がっていた。その上この勝利は指揮官であるヴェロニカのお陰なのだと。

本来であればヴェロニカ自身が兵士を鼓舞し、士気を高めなければならないはずなのだが、今の彼女にはそれがとても不快だった。

司令室でヴェロニカが難しい顔をしていると、チガヤがやって来た。

「ヴェロニカさん、少しよろしいかしら?」

「ええ、大丈夫よ。どうしたの?」

チガヤはどうやら今回の戦闘で此方があまりにも圧倒的だった事が気になっていたらしい。

その根拠はと言うと、先ず月と地球の技術力に乖離があるとはいえ、別次元と言うまでは離れてはいないはずだということ。

2つ目が艦隊戦において、砲火が届かないのにもかかわらず撃ち続けていたこと。そしてVXに搭乗していたロベリア達に対しても、対空砲火を使用していない点だ。

「――罠?」

「その可能性もありますし、唯の自動迎撃システムだったのかも知れません」

チガヤの言う事に一理ある。

たしかにコレが敵の罠であるならば、これは陽動若しくは囮かも知れない。

ヴェロニカは思い立ったように立ち上がり、ロベリア達にことの詳細と推察を伝えて艦を任せる事にして、先程撃沈した敵戦艦を調べることにした。

幸いな事に敵艦が墜落した辺りは目指している都市の反対側なので、敵にも気づかれにくいだろう。

「悪いけどチガヤ、私に少し付き合ってくれるかしら?」

「ええ、分かりました」

ヴェロニカはVX-01に、チガヤはVX-04に跨り先程敵艦が墜落したと思われる山脈へ向かった。

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