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これは、西暦が新しい時代―――新西暦へと変わるまでの話。
先ず、新西暦へと変わる500年程前、とある国が他国へと軍事侵攻を行った。
その発端は、とある国が軍事力を持たない代わりに、自国の高い技術力で他国を牽制し、他国から危険視されていた。そして、その国に対してテロ行為が執拗に繰り返された。
故にその国は高い技術力を兵器の製造へと転用し、完全人型自動軍事兵器『機人』を作り上げた。
機人は瞬く間に人間を圧倒し、勢力図を塗り替えた。
それもそのはず。兵器は壊し、殺すもの。それを相手に、いくら武装していても人では勝てなかった。
過去に完全自律型人形用務機械『オートマタ』や、完全人型家事用機械『アンドロイド』、人と機械を繋ぎ合わせて作られた『サイボーグ』等、様々な人形、人型機械が機人の討伐に当てられたが、全て機人よりも過去に作られた機械。
そもそも兵器とは相容れない。そもそも作業用機械では兵器には勝てない。
せいぜいが侵攻を遅らせる程度、要は壁だ。
その間に機人に有用な兵器を製造する為、機人を持たない各国が技術の粋を集め人知を超えた知識を造りあげた。
その時には、当時七十億も居た筈の地球人口のおよそ十分の九もの人々が、亡くなっていた。
人の脳の形をしたソレは、人のものよりもかなり大きく、その大きさは人の脳と言うにはあまりにも巨大。そして巨大な人の脳を模ったソレは、東方の神話に残された知の神の名を与えられた。
ソレは『オモイカネ』。人の持たない知恵を持ち、人を超えた知識を持つ存在。
オモイカネは言うなればAIを超えた意思を持つシステム。自身で思考し、自身で最適解を開示し、最速で解決する。
オモイカネは人の持ち得ぬ知識で常識を塗り替えた。
その一つが『コア・エネルギー』と呼称されるもので、平たく言えば電池だが、その規模が桁違い。
兵器や乗り物の動力となる電力等を圧縮し、掌ほどの大きさで、数年分の電力となる。
そのコア・エネルギーを動力として、機人を凌ぐ機人を作り上げた。
それを七機も。
二丁の拳銃を手に、敵を撃ち滅ぼす者。ヴェロニカ。
大剣を手に、立ち塞がる敵を慈悲にて断切る者。ナタス。
多才な火器で、敵を灼き尽くす者。ロベリア。
雷槍を持ちて、全てを穿つ者。チガヤ。
大砲を担ぎ、大地を灰燼へと帰す者。アカネ。
持ち前の怪力と大斧で、全てを打ち砕く者。モミジ。
あらゆる状況下において、勝利を収める者。エリカ。
この七機は『ALICE』と呼ばれ、迫りくる何千何万という機人達を悉く討ち滅ぼした。
そしてALICEは首魁を討ち取り、各国首脳達は安堵した。
だがしかし、世界に平和が訪れた訳では無かった。
機人の動力が核燃料であったため、それが大気を、大地を、海を汚染した。また大気汚染の影響は著しく、気温が上昇してしまったために、北極の氷は解けて無くなり、6つあった大陸のうち2つの大陸は海に沈み、小さな島々は地図から消えてしまった。
それをいち早く察知したオモイカネは、ALICE達に環境改善システムを搭載。
それと同時に生き残った人類を、地球から最も近い星、月へと移住させるべく超弩級星間航行船を建造。
それについても、オモイカネの発明、加重力装置によりドーム内部は地球と同じ重力に保たれていた。
ドームの建造や、人類が移住するための設備などは大量のアンドロイドが導入され、急ピッチで造られた。
すべての人口を移住させて満足な生活を送らせるために、ドームは全てで7つ建造された。
そしてそのドームを建造する最中に、人類にとって、大きな発見があった。それは長い長い年月をかけて、その歳月そのものが結晶になった時間の鉱石。『時石』だ。
オモイカネは数年をこの鉱石の解明に費やした。
その結果、純粋に時間をエネルギーに変換する技術を生み出した。
だが、その技術は人類に扱いきれる代物ではないと判断され、オーバーテクノロジーとして、オモイカネの記憶にのみ留められた。
そしてそのテクノロジーによって、新たなALICEが創り出されることになる。
時石を核とする8体目のALICEは、他の7機のALICEと違い、たった一機だけで他の7機が有する環境改善システムを搭載していて、一機であっても汚染された環境を修復でき、更には他の7機の様に戦闘もこなすことができる、完成されたALICEであった。
この事を知った人類は、8号機に環境を改善させたいと地球への帰還を願った。
月のドームでの何不自由ない生活は確かにいいものであったが、人類は宇宙にでても、故郷である水の星を忘れることはできなかった。
人に作られた意志であるオモイカネは人類の総意としてその意志を汲み取り、8号機を地球へと送り込み、たった一機で200と余年をかけて、以前ほどとはいかないがなんとか人が住める環境にまで回復することに成功した。
それから人々は地球環境への不安以上の希望を抱いて地球へと帰還した。
月に残ったのは、当時の三分の一の人口と、7機のALICEとオモイカネだった。
8号機は人類が帰還してからも環境を治し続けた。否、治し続けるしかなかった。
地球へと帰還した人類は、変わり果てた大地に街を作り、地球にも月のような生活ができるようにと産業を発展させていったのだ。
しかし、そうすることによって再び地球の汚染が進んでいったのだ。
このままでは地球を再生するどころか、滅ぼすに違いない。それに気付いた月の人類は、遂に地球の人類を殲滅することを目論んだのだ。
それが西暦から新西暦へと変わる100年程前の事だった。
月の人類は人口こそ地球の人類に劣るが、オモイカネのお陰で地球を遥かに凌ぐテクノロジーをもち、更には7機のALICEも保有していたので、侵攻へと踏み切るのにそう時間は掛からなかった。
だが、侵攻が始まる前夜。
故郷を思い、ALICE達は迷っていた。この選択こそが最善なのかと。




