違う場所にいても
部屋に帰ってきた丸井と美咲。
玄関のドアを閉めると、外の街の音がふっと遠くなる。
丸井が靴を脱ぎながら言った。
「疲れたでござろう」
美咲は首を横に振る。
「ううん」
そして少し笑った。
「楽しかった」
コートを椅子に掛けながら続ける。
「すごい素敵な人たちだったね」
丸井は少し照れくさそうに頭を掻いた。
「拙者の自慢の仲間でござる」
その言葉を聞きながら、美咲はソファに腰掛け、今日の時間を思い返していた。
普段会社では見ることができなかった丸井の熱い部分。
こんな一面があったんだ。
コウスケさんは、とにかく明るくて爽やかで、盛り上げが上手。
ユリさんは美人で、リーダーみたいにみんなをまとめていて。
たまに訳の分からない例えをするけど、不思議とみんながついていく。
ユウさんは静かで大人しいけど、みんなのことをよく見ている。
何より純一さんのことをよくわかってる。
純一さんの言った通りの人たちだった。
そして。
純一さんは、昔から真面目で芯が通っていて、一途な人。
少し風変わりではあるけど。
毎日が楽しく感じられるのは、この人がいるからかもしれない。
その時、キッチンから声が聞こえた。
「美咲殿」
「はい?」
「コーヒー淹れたでござるが、飲むでござるか?」
「あ、ありがとう。いただくね。」
丸井がカップを2つ持って戻ってくる。
テーブルに置かれたカップから、ゆっくり湯気が立ち上る。
美咲はカップを手に取り、一口飲んだ。
少し苦い。
でも、どこか落ち着く味だった。
丸井も隣に腰を下ろし、静かにコーヒーを飲む。
さっきまでの賑やかな時間が、少しずつ遠くなっていく。
外では夜の車の音がかすかに聞こえる。
しばらくして、美咲がぽつりと言った。
「また会えるといいね」
丸井は自信を見せるように答えた。
「きっとまた会えるでござる」
「皆、それぞれ違う場所にいても」
「拙者たちは、そういう仲間でござる」
美咲は小さく頷いた。
ふと、部屋の棚に目が向く。
そこには、古いレーサーズボックスが置かれていた。
長い間使われていないはずなのに、
どこか大事にされているのがわかる。
今日の話は、ほんの一部なのだろう。
きっと。
まだ語られていない時間が、たくさんある。
でも、それでいいのかもしれない。
思い出というものは、
全部を語らなくても、
ちゃんと残っているものだから。
丸井が静かに言った。
「今日は来てくれてありがとうでござる」
美咲は笑う。
「こちらこそ」
「連れてきてくれてありがとう」
丸井は少し照れながら、でもどこか誇らしそうに言った。
「拙者は――」
少しだけ考えてから続けた。
「本当にいい仲間を持ったでござる」
「彼らと美咲殿を会わせられたことが幸せでござる」
部屋の時計が、小さく音を立てた。
丸井はぽつりと言った。
「今日は、いい日でござったな」
美咲は小さく頷く。
コーヒーの湯気が、窓の向こうの夜へ消えていった。




