冴えない社員
ジョンを主人公としたスピンオフ作品になります。
前作から引き続きお読みいただいている読者の皆様、本当にありがとうございます。
また、本作からでもお楽しみいただける内容になっております。
もしお気に入りいただけましたら、前作とも深く関わる物語となっておりますので、そちらも併せてご覧いただけますと幸いです。
会社に入って数年。
ジョンは相変わらず、会社では浮いた存在だった。
朝。
会社のエレベーター前。
女子社員が2人、楽しそうに話している。
「昨日さー、駅前のカフェ行った?」
「行った行った!めっちゃ良かったー」
エレベーターの扉が開く。
そこに立っていたのはジョンだった。
剃り残しのある無精髭。
伸びた髪。
暑いレンズの丸メガネ。
女子社員の会話が、ぴたりと止まる。
「……」
2人は一瞬だけ目を合わせると、
そのまま無言で乗り込んだ。
エレベーターの中。
静かだった。
ジョンは何も気にしていない様子で、
ぼんやりと階数表示を見ている。
「……」
女子社員たちは携帯電話を見ながら、
小声で話す。
「ねえ、この人……」
「しっ」
丸井純一。
女性社員からは丸いメガネとあだ名をつけられている。
ジョンは気づいていない。
というより、
そもそも気にしていない。
会社では、だいたいそんな感じだった。
部署に入ると、社員たちに挨拶をする。
「おはようでござる」
男性社員からは普通に挨拶が返ってくる。
「おはようございます」
「丸井さん早いですね」
しかし女性社員から返ってくるのは、
目も合わせない小さな挨拶だけだった。
「……ざいます」
それ以上会話が続くことはない。
昼休み。
男子社員たちが話している。
「丸井さん、競馬どうでした?」
ジョンは弁当を食べながら答える。
「拙者の本命は来たのでござるが、相手が抜けたでござる」
「またですか!」
「丸井さん、いつもそれ言ってません?」
「本命は当たるんですよね?」
ジョンは少し誇らしげに言う。
「自身が納得できることが重要なのでござる」
「いやいや、馬券は当てないと意味ないですよ!」
男子社員たちは笑っていた。
ジョンは、
男性社員には普通に好かれていた。
仕事も悪くない。
遅刻はしない。
サボりもしない。
頼まれた仕事は、きっちりやる。
上司に怒られることも、ほとんどない。
ただ――
女子社員とは、
ほとんど会話がない。
ある日。
総務の女性がコピー機の前で言った。
「……あの人、何考えてるかわからないよね」
「わかる」
「なんか、ちょっと怖い」
「でも別に何もしてこないよ?」
「それが逆に怖いんだって」
ジョンは、そのすぐ後ろでコピーを取っていた。
「……」
気づいているのか、
気づいていないのか。
ジョンはいつも通りの顔で、
コピーをまとめていた。
机に戻り、
そのまま仕事をこなす。
そこへ女性社員がやってくる。
「丸井さん、課長から渡すように言われたので、ここ置いときます」
ジョンが返事をする前に、
女性社員はもう振り返って歩いていた。
ジョンは特に気にした様子もなく、
書類に目を通す。
仕事を終えて帰宅すると、
パソコンの電源を入れ、ネットサーフィンをする。
それが最近の流れだった。
ニュースを見て、
競馬サイトを見て、
掲示板を少し眺める。
気づけば、夜はすぐに更けていく。
部屋の棚には、
1つのショーケースが置かれている。
その中には、
ミニ四駆が並んでいた。
あの頃、熱中したマシンたち。
少し色あせているが、
今も大事に保管されている。
ジョンはケースを少しだけ眺める。
「……」
そして何事もなかったように、
パソコンの画面へと視線を戻した。




