後編
第二王子フランシス、第三王子ローランドはわたくしの双子のお兄様です。こちらも王妃様の息子でわたくしの異母兄でございます。
フリードお兄様がああいう、ちょっと、えー…わたくしのトラウマ案件的問題児になってしまったことから、この二人はより厳しく育てられておりました。
フランシスお兄様は優しく理知的でしたが、感情的な婚約者と反りが合わず、婚約者と会った後はいつも疲れておいででした。
ローランドお兄様は逆に剣を握るのが大好きであまりお勉強を好まれず、理知的な婚約者とよく喧嘩をしていらっしゃいました。
フリードお兄様の件から王太子は王立学園を卒業した後に決めるとされておりましたが、二人ともそこでやらかしました。
まず、ローランドお兄様です。
光魔法の才能がある少女が学園に入学してきて、その少女にのめり込んだのです。わたくしは魅了の魔法がすごく臭く感じる体質らしく、引き合わされたのですが、妙な臭いもしなかったので単純に好きになってしまったのでしょう。
もうなんというか、婚約者を蔑ろにして他の女の子に入れ込む時点でダメですが。
更に問題が出てきました。
なんと、フランシスお兄様はローランドお兄様の婚約者を好きになってしまった云々で自分の婚約者に婚約破棄を突きつけてしまったのです。
なんでですか。
婚約解消にできなかったのですか。
そんなことをお父様である陛下から事細かに聞かされたわたくしは「そういうわけで、アナスタシアを王太女とする」と疲れた顔で言われてしまいました。
呆然としていますと、慌てたようにフランシスお兄様が「何故ですか!?」と叫んだ。
「何故も何も、婚約者を蔑ろにした挙句弟の婚約者を好きになったしお前が嫌いだから婚約を破棄するなんて馬鹿なことを宣ったフランお兄様が王位につけるはずないではありませんか!!王家の婚約とは子供の約束ではありませんのよ!!」
「しかし、成績的に一番相応しいのは私だろう!?」
「もうそういう問題ではなくなってしまったと言っているのですわ!?」
わたくしだって嫌です!いくら可能性があるから高位貴族の三男で王配教育もします〜とか言われてわたくしの婚約者が優秀な成績でそれを終えていたとしてもわたくしが女王なんて荷が勝ちすぎて吐き気がします。
しかし、やらかした兄達はもう即位するには貴族からの信用がなさすぎるのです。
呼ばれていたらしいわたくしの婚約者が慌てた顔でわたくしに近づいてきました。
「アナスタシア王女殿下、お顔が真っ青ですよ。お部屋に戻られますか?」
気遣わしげに差し出された手を掴んで、わたくしは少し、安心してしまったのです。
「うわあああん、リュシお兄様ぁぁぁぁああああぁわたくし女王なんて無理ですわ!!助けてくださいませぇぇぇ!!!」
「ああもう、アーニャ。君はもう立派な淑女だろう?泣き止みなさい」
「だってだって、お兄様がみんなやらかすからぁぁぁ」
ぐずぐずと泣くわたくしを慰めるのは婚約者のリュシアン・ブローネ様です。ブローネ公爵家の三男でわたくしより5歳上の方になります。
トラウマで死にそうになっているわたくしを根気強く外へと誘ってくれたのがこの方です。ちなみに、王妃様のお兄様の子になります。
彼はフリードお兄様の側近候補として当時お側に上がっておられたのですが、フリードお兄様のやらかしで傷ついたわたくしを救ってくれたことでわたくしの婚約者となりました。
「私だってフリードリヒ殿下以外もやらかすなんて思っていなかったし、君が降嫁してくれる日を指折り数えながら屋敷を整えていたところで寝耳に水だよ」
わたくしを抱きしめながら背中を撫でるリュシアン様に安心してお顔を見上げると、額に唇が当たりました。
「私はちょっと君のお兄様方とお話があるから、部屋で待っていて?お話が終わったらすぐに向かうよ、私のアーニャ」
「はい」
優しくそう言われて、わたくしは侍女と共に謁見の間を退出いたしました。
しばらくして、リュシアン様がお部屋に来てくださり、改めて王配として国に尽くす覚悟とわたくしだけを生涯愛すると言ってくださり、リュシアン様は改めてのプロポーズをしてくださりました。
え、結局わたくし女王になるのですか?
震えるわたくしにリュシアン様は苦笑しながら「君のそういうところも可愛いよ」とおっしゃったのでした。
いえ、そういうことではないのです。
あれ?
アナスタシア
主人公。お兄様のやらかしで女王になることが決定した転生王太女さま。身分が低い側室の母を持つためまさかの事態。婚約者は王妃の甥なので後ろ盾はある。基本被害者。
リュシアン
従兄弟のやらかしでトラウマ持ちヒッキーになりかけていた姫をなんとか慰めて癒した努力の人。しかもそのやらかしのせいで次期王太子決めるの慎重になったせいで王配教育受ける羽目に。
アナスタシア王女と過ごすうちに好意を持つようになる。正直、本当は伯爵位もらってアナスタシアと気軽な夫婦生活送りたかった。
フリードリヒ
アナスタシアのトラウマスイッチ。やべぇ人。うっかり魅了を発現させてしまった男爵令嬢を故意にやったと思い込み処刑に追いやった。のちに彼女の恋人だった青年にローズマリーを刺殺され、その前で命を絶った。
ローズマリーが可哀想だが、彼女の家は違法奴隷の売買をやらかしてたことが発覚したのでどっちにしろ連座で死んでた。なお、彼女はファンタジー系恋愛小説の悪役令嬢だった。
男爵令嬢はガチの被害者。青年の行方は知れず。
フランシス
「お前との婚約は破棄する!」をやらかしてしまった第二王子。そんなことして無事でいられるわけがなかった。
なんやかんやリュシアンにガチギレされて反省した彼は外交官として以後真面目に職務を全うする。なお、新たに婚約を結び直した彼女とは生涯仲睦まじく過ごした。
元婚約者は隣国の王子に嫁いで、後に公爵夫人となる。溺愛されてこちらもそれなりに幸せになったとさ。
ローランド
物語時点で「好きな女が平民だから出奔して冒険者やるわ!アバヨ!」しちゃってる脳筋の第三王子。真実の愛とか言っちゃった人。
本当に冒険者になり、後に夫婦揃って英雄と呼ばれる事になるが、後年妹に「せめてわたくしに謝ってから出奔してくださいませ」と静かに怒られて奥さんにキレられる。「説明してきたって言ったじゃない!嘘つき!!」
王様
兄が「私はこの者との間に真実の愛を見つけた」しちゃって王位が回ってきてしまった不憫な人。言い聞かせてたのに息子までやるとは思わなかった。
本当ならアナスタシアの母親を娶って公爵家興せるはずだった。王妃は元兄の婚約者。