第16色
第16色
休校が明けて数日。世間はすっかり元の様相に戻っていた。と言っても、これは詭弁だ。実際、失われた命は還らず、人々に植え付けられた不安は根を遺し、堕ちたものは上がることすら出来ない。戻る、なんてことは魔法でも使わない限り無理なのだ。
だからこそ人々は忘れる。在ったことを無かったかのように。
「優季も、忘れればいいのに」
カナエが言う。優季の隣で。振り向いたところで視線は合わない。信号待ちの交差点。未だ赤い信号をカナエは見ていた。
「正直、どうすればいいか分からない」
視線を落とす。昨日の雨が、水溜まりになっていた。ゆらゆら揺れる水面に、時折優季が映る。それがどんな表情になっているのか、自分では分からなかった。何も、分からなかった。正しいのか、間違っているのかなんて。見ていることしか出来なかった。文字通り、視ていることしか。
「それでいいんだよ」
カナエが呟く。表情はわからない。
「理解らなくても、いいんだよ」
再度、同じ様に繰り返す。いつになく、冷たい声で。いつもと同じ、柔らかな音で。
「甘え……は……頼……くれ……いのに」
カナエの言葉をバスが連れ去っていく。けれど聞き返すことはしなかった。妙に晴れやかな顔をしていたから。
優季が視線を上げる。赤かった信号が、青へと変わった。時間は嫌でも進み始める。
それが当たり前のように。
順当に。




