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第9色

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 つまり、こう言うことだ。

「優ちゃん、先日出会った"あれ"をもう一回視ておいで」

 なるほど、文字にしてしまえばこれほど簡潔なものはない。今すぐにでも解決しそうな提案だ。

 ……やはりバカだろう、あの教授。それが出来ていないからこの現状なのだ。ここまでの被害を出しているのだ。優季は項垂れる。

 全く持って理解できない。しようとすら思わない。より効率的なやり方があるだろうに、それを無視して楽しむように追い詰める。

 あくまで推測の域を出ないが、きっと彼女にとってそれらはどうでも良いことなのだろう。こちらが、クラウス・バルトリオに一切の興味を持たないように。

 そんな中で、律儀にも優季は人探しを請け負った。といっても、手掛かりはほぼ皆無。

 それでも、心当たりくらいはあった。心当たり。心残り。あの時の空白期間。あれこそ、"あれ"に出会った証拠だろう。

 確信はない。あくまで優季の推測。その上、"あれ"を前にして果たして優季が平静でいられるのか、という不安も付きまとう。

 もう、カナエやハルを巻き込みたくない。そうは思う。思うのだが、はたして、これは優季の本音だろうか。それとも、建前だろうか。

 どちらにせよ、巻き込まずに解決できるはずがない。もはや彼女らも当事者になりつつある。ハルに至っては、すでに渦中の存在とも言える。優季もそれは理解している。ならば、なぜ周りを頼らないのか。なぜ独りで解を求めるのか。

 理由は、至極単純なこと。何かあったとき、責任など負えるはずもない。どこまで行っても保身。嘘で塗り固めた外殻。それが優季の変えがたい澱みだった。

 不意に、ぽつりと優季の頬を水滴が濡らす。落ちてくる雫は次第に増え、辺り一帯に小雨が降ってきた。薄暗い夕闇の中、仄かな街灯の下を歩いていく。

 額に張り付く黒髪が鬱陶しい。緩慢な動作で、睫毛にかかった雨粒を拭う。

 優季は知らない。知らないことも知らない。今から誰に会うのかも知らない。何も知らない。理解らない。

 理解らないけれども、いや、理解らないからこそ、理解りたいと思う。

 エゴ。自己満足。そして、他人迷惑甚だしい。それでも、優季はこの方法しか知らなかった。

 つまるところ、優季が訪れたのは、あの病院だった。

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