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臆病なオネエ系オスライオンの素性が気になるのかドロシーは目をキラキラさせている。


だがビアンカは暫く黙った後、首を横に振った。


「…ごめんなさいね。

 私、あなたに語れる物が見つからないわ。」


「え…?」


ドロシーは困惑した様に視線を震わせる。


深入りされたくないという拒絶ではなく、語れる物がないと言う返事の意味が少女には分からなかったのだ。


「代わりにドロシーの話を聞かせて欲しいのだけど…。」


「えっ私の?

 …うん!いいよ!」


気を使ってくれたのだろう。


一瞬だけ間があったがドロシーはにっこりと笑うと自分の事を話してくれた。



灰色の世界である元の世界。


いつも無口で眉間に皺を寄せているヘンリーおじさん。


怖がりだけど優しいエムおばさん。


そんな世界でいつも隣にいてくれるトト。



ドロシーの口から語られる止めどない話は森が暗くなり、夜の帳が降りてドロシーが眠ってしまうまで続いた。


この子は本当にお喋りが好きらしい。


自分も無口な方ではないと思うが、この年頃の女の子のお喋り好きには適わなかった。


ドロシーの話を聞くのは楽しかったが少々疲れた。


漸く眠ってくれて少しだけほっとしてしまう。


「ねーこのさ、曲がりくねった部分は何て読むのー?」


「り。」


「じゃあこの急カーブみたいなのはー?」


「ぬ。」


ドロシーが眠っている焚き火の反対側では案山子がめげる事無く小声でネロに文字を教わっていた。


地道にひらがな教室は進展していた様だ。


「はいいくよー。

 色は匂へど散りぬるを。

 はい。」


「いろはにほへとちりぬるをー。」


ネロもあしらう事を諦めたのか少しだけ丁寧に教えてやっている。


諦めないって素晴らしい。


あれだけ邪険にされたのに折れない案山子のメンタルの強さに拍手を送ってやりたくなる。


「ねーこれどう言う意味なのー?」


「人生って色々あるから悟り開くぜって意味。」


「へーそうなんだー。」


だがそもそもネロに教師役をお願いした所から間違っていたと案山子は気が付くべきだろう。


こいつは多分絶望的に教師役には向いていない。


思考の偏りが顕著過ぎる。


着ぐるみ越しのビアンカの呆れた視線に気が付いたのかネロがこちらを見る。


「ん?

 なんだい?」


「…つくづく思うけどあんたって本当に適当よね。」


「そう?

 俺としては真っ直ぐ真面目に生きて来たつもりなんだけど。」


ネロはおかしいなと首を傾げた。


今までの行動をふまえてこいつが真人間だと言える人間は少ないだろうが彼は至って真面目に生きているつもりらしい。


真面目に生きた結果が今までの行動だと言うならもうどうしようもない。


こいつは根っからの狂人なのだ。


「ねーねー、ライオン君は文字読めるのー?」


「読めるわよ?」


「うわぁ凄いや!

 あっならさ、ライオン君も教えてよー!

 僕ね、読みたい本があるんだー。」


そう言って案山子は腹の中に手を突っ込むとゴソゴソと漁り藁の中から1冊の本を取り出した。


鞄代わりになるとは便利な体である。


「なにそれ?」


「僕を作ってくれた農家のおじさんがね、コソコソ隠れていつも読んでたんだよー。

 おばさんが呼びに来た時に慌てて僕の中にしまって行ったんだー。

 僕へのプレゼントみたいだからちゃんと読みたいんだよねー。」


ビアンカが案山子の持つ本を覗き込む。


『昼下がりの団地妻~夫の親友とイケナイ』


ビアンカがタイトルを読み切る前にネロが勢い良く本を案山子から取り上げ見事なピッチングフォームで森の奥へとぶん投げた。


「あーっ!!

 僕の大事な本ー!!」


「いやあ危ない所だったよ。」


「何するのさ木こり君!」


「悪いね案山子。

 この物語は全年齢なんだ。

 全年齢には全年齢の呪いがあるんだよ。

 今のは完全にアウトだったよ。

 油断ならないね君も。

 天然マイペース野郎だと思って油断してたよ。」


…案山子がもらったと思っている本はいかがわしい物だった様だ。


あー…と落ち込む案山子に何と言えば良いか分からずビアンカはよしよしと背中を摩って慰める。

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