二の巻き
あたし達は困難の最中に居た。
萊ちゃんがシーカーを辞めたいと言う。
鬼を相手にパニックを起こし、羽生さんの怪我の原因になった事からトラウマになったらしい。
全員がその事情には理解を示し、むしろあたし達は萊ちゃんを慰め続けた。
謝る必要はない、と。
ただ、リーダー不在の状況でメンバーが減る。
同時に羽生さんも防具の問題で一時、戦線離脱状態であった。
こう成っては迷宮に入るのは無謀だ。
「萊ちゃんの大鎧を羽生さんの装備に直せへんかなぁ?」
苦肉の策では有るけれど、余った装備を有効活用すべきだと思い口にした。
「ああ、確かに。それなら行けそうだ」
全員が“気が付かなかった”と言う顔をして頷いた。
これで羽生さんの離脱は避けれた。
とは言っても、今度は萊ちゃんが一人残り皆を送り出す側に成る。
これはこれで精神的に厳しい物がある。
少し配慮が足りなかった。
顔を青くした萊ちゃんを見て後悔する。
「萊、ちょっと良いか?」
そう言って羽生さんは萊ちゃんを連れてファミレスの外に誘い出した。
「あたし余計な事言ったなぁ……」
「仕方あらへんよ、萊ちゃんと羽生さんの二人が抜けたらどうにも成らんし」
「彼女には申し訳無いが、ここが正念場では有るな」
現実問題として、自衛隊を除けばあたし達が対迷宮対策の主力だと自負している。
それが瓦解すれば日本全土が氾濫の災禍に見舞われる。
「萊ちゃんのフォローもやけど、ウチ等は絶対に怪我出来ひんね」
カラッと繚華ちゃんが笑った。
彼女の言う通りだ。
あたし達が怪我をしたら萊ちゃんのPTSDが悪化してしまう。
「責任重大やね」
「日本も成湖君の心も我々に掛かってる訳だ」
厦海さんの言葉に小さく笑ってしまう。
批判されるかも知れないけれど、あたし達にとってはどちらも同じだけ大事なのだから。
無事に、完璧に迷宮を黙らせる必要がある。
その為にはどうしてもリーダーの復帰が欠かせない。
フランスに渡って、迷宮に潜り続けた彼の戦力が必要だった。
「後は祟目さんやね」
「取り敢えず、契約は延長せずに日本に戻ると言っていたんだね?」
厦海さんの問いに頷いた。
「色々準備が有るからって、関空には来ないで一度東京に戻るんやって。それから急いでこっちに合流するて言うてた」
「なんだろうな、彼の準備と言う言葉が妙に怖いのは俺だけだろうか?」
その言葉に三人揃って苦笑する。
概念武器なんて海とも山とも知れない物を考案して、本当に効果と結果を出してしまう人だ。
そんな人の準備と言う言葉に警戒してしまうのは仕方が無い。
「そう言えば、帳さんはどうしてはるん?」
「帳さんも合流したいとは言うてたんやけど、安全に同行出来る言う確証が得られてからって事に成ってる」
今の鬼相手に戦闘力の無い彼女は連れ回せない。
そして、萊ちゃんの大鎧を羽生さん等に調整する際に、帳さん用も用意する事に成った。
出来る事はすべてやる。
それが迷宮を抑え込んだ日々で学んだ事だ。
「しかし彼は本当に連絡をよこさない男だな」
「前にこないな事言うてました。「自分が頑張っている時、仲間も頑張っていると確信してる。だから特に連絡しようと思わない」やって」
「独立独歩。立派な事なんだが、彼は一人で立ち過ぎる傾向が有る。時には誰かと肩を並べる事も良い物なんだがな」
祟目さんも一人で生きられるとは考えていないとは思うけれど、自立心が強いと言うのか。
誰かに頼るのが苦手に見える。
現在不在の我らがリーダーを想って溜息が出る。
そんな話をしている内に目元を濡らした萊ちゃんと羽生さんが戻ってくる。
話は付いたのだろう。
「萊の大鎧を引き継いで迷宮に潜る」
その言葉にあたし達は頷いた。
人員的に厳しくなったけれど、胸を張って戦う理由が一つ増えた訳だ。
「どの道、奉が戻ってくるまでは無理は出来ないし、それまではブランクで鈍った体の鍛え直しの期間にしよう」
当面の予定は決まった。
出来る事をしよう。
あたしはもう一度、ちゃんと心からシーカーに戻る準備をしようと決意した。
二月後、あたし達は大江の迷宮の前に集合した。
祟目さんも帰国し、準備を終えて今日から合流する事に成っている。
「少し遅れる、てメールは来てたけど、祟目さんらしいなぁ」
「全く。ブランクが無いって事なんだろうが、帰国祝いより先に潜るってな」
本当に、リーダーは変わらない。
効率重視と言うのか、迷宮絡みだと妙に急いているのは変わらないらしい。
そんな話で笑っていると一台のトラックが駐車場に入ってくるのが見える。
荷台には小型の車? が乗っている。
助手席には祟目さんが乗っていた。
目の前にトラックが停まり、祟目さんが下りてくる。
二年ぶりに見る祟目さんは精悍さを増した、戦う人の貌に成っていた。
「申し訳ない。遅くなった。直ぐに準備する」
あたし達の顔を一瞥して直ぐに荷台から荷物を取り出してその場で、久々に見る現代具足を身に着け始めた。
二年ぶりだと言うのに、満足に挨拶も出来ないのかと溜息が漏れる。
もっとも、ここまで来てダラダラと話し始めたらその方が怖い気もするけど。
トラックのドライバーはそんなあたし達には目もくれずに、荷台から車を下ろしていく。
「車って言うか……、なんやろバギー?」
そうその車はガラスやドアも取り外された、荷台の付いた超軽量仕様の四、五人乗りのバギーだった。
「なあ、奉。これはなんだ?」
「うん、内部構造は変化が無いと報告は受けているからね。ならば最短コースも判明しているし、幽体とは違って肉体有る敵だし。こいつで跳ね飛ばして最速で終わらせてしまおうかと、ね」
出た。
祟目奉の脈絡の無い、常人の斜め上を行くぶっ飛んだ思考と行動力。
「お前……、変人度合いが増してるって自覚は有るか?」
「僕達の常識を覆す迷宮とモンスター相手に常識で戦っても仕方が無いよ。出来る事、やれる事は最大限に行使すべきだよ」
二年ぶりに見る二人の掛け合いに思わず吹いてしまう。
相変わらず噛み合ってる様な噛み合って無い様な会話が続いた。
祟目さんは会話の途中で受け取りのサインをし、防具を身に着けて運転席に乗り込んだ。
「さあ、備品はもう積んであるから、皆乗って」
「まあ、良いんやけど……」
それぞれがシートに、羽生さんは荷台に座った。
「でも、これって戦闘の時面倒なんと違う?」
そう首を傾げると祟目さんが小さく呟いた。
「出来る物なら立ちふさがってみろ」
そう言って祟目さんはアクセルを踏み込んだ。
徐々にバギーは速度を上げていく。
どんどん加速していく。
目に映る岩壁が物凄い勢いで通り過ぎていく。
「「きゃー!」」
「怖い怖い怖い怖い!」
「ちょっと! 祟目君!」
口々に驚愕の声を上げた。
「壁が近いから早く感じるだけだよ」
何でもないという風に穏やかに言い切られる。
壁が近いと言う事は、それだけぶつかったら危険だと言う事だ。
あたし達は――祟目さんを除いてだが――絶叫を上げながら迷宮内を疾走させられた。
躊躇なく走るバギーの、そのスピード感に身を固める。
我慢の限界と、一度止めてと言おうと口を開いた瞬間、ドンッ! と言う音と共に強い衝撃が生じた。




