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第二部 一の巻き 大和撫子御前隊~鬼絶ちの太刀~

大和撫子御前隊、第二部を始めます。

お付き合いいただけると幸いです。

 2027年、あたし達は緊張感を負いながらテレビを見ていた。

 就職をし、シーカーだった事を思い出さない日々が続いたけれど、毎年この日は緊張してしまう。

 その緊張があたし達を毎年集まらせた。

 ネット動画を三人で笑いながら見ていてもどこか乗り切れない。

 そんな空回りした空気に苦笑していた。

 そして、残念ながら再び世界中で大地が光った。

 沖縄迷宮を鎮静化させてから一度も無かった変化が訪れた。

 訪れてしまった。

「あかん……」

 全国の迷宮を回り、戦い続けた日々が徒労に終わったのだと思うと涙が滲んだ。

 何度も地面に倒れ伏した。

 それでも戦った事が無意味に成った事が悔しかった。

 血だらけに成りながら戦い続けていた、今では国に排斥されてしまったリーダーを想うと遣る瀬無い。

「赫里ちゃん、見に行かなあかんのと違う?」

「せやねぇ、ここで泣いてても仕方ないもんな」

 繚華ちゃんと萊ちゃんは瞳に怒りを浮かべていた。


「もしもし……うん、今話とったとこ。……え? 来るん? ……分かった、皆にも言うとく……、気ぃ付けてなぁ?」

 覚悟を決めている所に、萊ちゃん宛てに電話が入った。

 やり取りの口調から羽生さんからの様だった。

「赫里ちゃん、繚華ちゃん、羽生さんからなんやけど、厦海さんと一緒に来るからそれまで待ってろって」

 羽生さん達もこの異変に動くつもりらしい。

「祟目さんはまだフランスなん?」

「年契約やからまだ向こうのはずやけど……」

 いざ羽生さんと厦海さんが合流が決まると、リーダー不在が浮き彫りとなる。

 誰よりも前に、誰よりも怪我をして、そして誰よりも無茶をして、結局彼は居場所を無くした。

 今はフランスでシーカーとして活動しているのは聞いてはいるけれど、こっちはどうするのだろう?

 自身を排斥したこの国に帰って……来るか、あの人なら。

 少し考えた所で彼がこの国の危急を無視出来る筈も無いと考え至る。

 彼の口癖を思い出して、小さく笑った。



 次の週末、羽生さんと厦海さんが京都に合流した。

 その間、政府は自衛隊を動員し、迷宮内部を調査。

 民間人が入って被害が出る事を恐れて立ち入りを禁止し、自衛隊に対処を命じた。

 与党議員が口を滑らせてモンスターの情報が流出し、また自衛隊側にも多数の犠牲者が出た事まで発覚。

 TVではコメンテーターがシーカーの活用を口々に言い募った。

「皆好き勝手言うてるなぁ……」

「そうやね、シーカーは犯罪者予備軍って笑って言うてたのも忘れて」

「まあ、そう言うな。そんな事奉自身が一番良く分かってたさ」

「そうだな、彼はそれ込みで、承知の上で頑張っていたからな」

 羽生さんと厦海さんがあたし達を宥める。

 祟目さんは契約期間がまだ少し残っている為に現在もフランスで活動をしているらしい。

 向こうでの変遷はスケルトンから狼男へと変わり、相当に苦労しているらしかった。

 ただ、祟目さんが参加しているフランスのシーカーグループは装備も充実していて被害も出ていないとも言っていたけれど。

 それに比べてこちらでは自衛隊に死者まで出ている。

 迷宮内部の情報も政治家の口頭での情報以外無く、あたし達もどう対応するかは未定だったりもする。

 数日前に迷宮庁から電話があり、シーカー活動の意思を確認されたがリーダー不在の為不可能と全員が返事をした。

 そんな中、氏名や顔も出さず、声も加工する条件で羽生さんがインタビューを受けて、これからその映像が流れるのをあたしの家に集まって皆で待っている所だった。

 TV画面ではキャスターがシーカーにインタビュー映像を流す旨説明し画面が切り替わる。


「現在迷宮は閉鎖されて居ますが、シーカーのピーさんは活動されるのでしょうか?」

「さあ、どうでしょう? まず閉鎖が解除されるかが不明ですし、現在私が参加しているシーカーグループも主力が居りませんので」

「では、解放されても活動はされない予定だと?」

「いえ、未定としか言えません」

「えっと、……ではピーさんは積極的には迷宮に入りたくない、と?」

「シーカーを政府が使うか、それが決まってない段階では分かりませんよ」

「そうですか。この度はインタビューを受けていただきありがとうございま……」


 モザイクや音声加工された羽生さんの短いインタビューが終わり、番組も次のコーナーに移った所でTVを消した。

「えらい短なインタビューやったなぁ」

「随分端折られたらしい、インタビュー自体一時間以上掛ったのに、使われるのはこれだけかよ。しかも微妙にニュアンスを曲げられてるし……」

 全体的に国家的な危機に対して非協力的な雰囲気だったと思ったが、どうやらTV局側の恣意的な切り貼りが行われていたらしい。

 今でもシーカーを悪者にしたいと言う意図が透けて見えて気が滅入る。

「ここまで来てるんのに、まだシーカーを悪者にしたいんやね……」

「まあ、実際の所さ。自衛隊だけで処理出来れば自衛隊が動員されるだろうし、自衛隊で手に負えないモンスターが出現してるなら俺等にどうこう出来るか? って話にもなるしな」

 萊ちゃんの呟きに羽生さんが苦笑して応じ、その言葉にあたし等も頷かざるを得なかった。

 ちらりと居間の床の間に飾られた水晶刀・薙刀に視線を移す。

 幽体をどれだけ斬ったか知れない水晶刀も新たなモンスターに効果が有るかも分からない。

 兎、狼、幽体に続いて、一体どんな敵が迷宮内には溢れてるのだろう?

 一度は活動を止められたのに、再びモンスターが出現し始めた迷宮。

 危険度が増し続けるモンスターにあたし達人類はどこまで対抗出来るのだろうか?

 そして、どこまで続くのだろうか?

 終わりの見えない災害を思い、気分が沈んでいくのが分かる。


 一月後、政府は迷宮をシーカー資格の有る人間だけに絞って解放した。

 内実は自衛隊だけでは対応しきれないとの判断だったが、ヒステリックに「民間の力も借りなければならない緊急事態」だと連呼して、今までさんざん犯罪者予備軍と嘲笑されていたシーカーの反応は鈍かった。

 それでも、シーカー側も自分達が動かなければ自分や家族が氾濫に晒される事も承知している。

 あたし達も含めて、全国のシーカーは徐々に迷宮に入る様に成った。


 リーダーや帳さんを除く五人で大江山の迷宮に足を踏み入れた。

「くっ! こらキツイなぁ……」

 眼前に立つモンスターに薙刀で切りつけながら思わずボヤキが毀れてしまう。

 それは、人型で肉体を持つ日本古来の異形。

 伝承に登場する“鬼”その物だった。

 着崩した着物、赤みがかった肌、引き締まった筋肉、額に生える二本の角。

 鋭いかぎ爪を振るい、膂力に物を言わせた攻撃は人間一人位簡単に薙ぎ払われてしまう。

 数年間忘れていた肉を斬る生々しい感触に顔を顰めながら、あたし達は鬼を斬り続けた。


「一度出ようぜ、これはちょっとキツイ……」

 三匹もしくは三体の鬼を消滅させた所で、羽生さんの提案に頷いてあたし達は迷宮を出る準備を始める。

「鬼も金を落とすんだな」

「鬼は財宝を集めると言うし、日本は黄金の国とも称されたし当然と言えば当然かも知れんな」

 厦海さんが応じて転がった親指大の金塊を拾い上げる。

 迷宮に足を踏み入れて一時間。

 たった一時間であたし達は想定外の消耗を強いられた。

 肉体を持つ人型を切り伏せる事がこんなにも精神的に来る物だとは思わずに。

 人型のモンスターを斬り殺すのがこんなに苦くて吐きそうになるとは思わなかった。

「でも、政府が内部情報の公開を渋ったんも分かる気がするわ、えらいキツイもんなぁ」

 全員がまるで“人を斬り殺している気分”に成って心をかき乱されている。

 喉の奥まで競り上がってくる物を堪えてあたし達は出口を目指した。


 足早に移動して遠くに外の明かりが小さく見えた所で立ちふさがる人影が現れる。

「あと少しやのに……」

 そう呟いて薙刀を構える。

 現れた鬼はボディビルダーの様に筋肉が隆起した個体だった。

 間合いの広いあたしと繚華ちゃんが牽制をしながらその間に他のメンバーの刃が走る。

 鬼のかいなを掻い潜り脛を削り、伸ばされた両腕を羽生さんと厦海さんが斬り付ける。

 暗視装置の視界で幸いだったと思う。

 モンスターの血肉の色を認識しないで済むのだから。

 胃と心臓が締め上げられる様な時間が過ぎた所で萊ちゃんの息を飲む声が聞こえた。

 横目でちらりと見やると萊ちゃんの傍に小さな影が見えた。

 それは小さな体躯の鬼だった。

 その小さな鬼を子供と認識してしまった萊ちゃんは身を強張らせて動きを止めてた。

「萊ちゃん!」

 大鬼の前から動く訳にもいかずフォローに回れない。

 小鬼と萊ちゃんの距離が詰まった瞬間、羽生さんがその間に割り込んだ。

「萊っ!」

 一喝する声の直後にゴッと強い音を立てて羽生さんの体が弾かれた。

 小鬼の一撃で弾き飛ばされたのが分かる。

 大鬼と小鬼を交互に見ながら動けない我が身を呪う。

「夾介さん!」

 岩壁に叩き付けられた恋人の名を叫んで、萊ちゃんは小鬼に水晶刀を振り下ろした。

 その刀身は真っ直ぐに小鬼の頭蓋を割り、数秒後に膝から崩れ落ちた。

「ふんっ!」

 厦海さんの気合の籠った声に顔を大鬼に向けると、厦海さんの三鈷剣を大鬼の胸元に深々と刺し貫いていた。

 二体の鬼は息絶え、戦闘の音が止み、そして辺りを静寂が支配した。

 すぐ後にビチャビチャと水音を立てて萊ちゃんが嘔吐する。

 暫くして鬼が金塊に変じた所で厦海さんが羽生さんを背負い声を出した。

「さあ、急いで脱出だ」

「はいっ!」

 萊ちゃんに駆け寄って、二の腕を掴んで急いであたし達はその場を後にする。

 最後尾、繚華ちゃんが後方を警戒しながら殿を務めて。


 二人を引き摺る様にしてあたし達は迷宮を脱出した。

 視界が陽の光に照らされて、異境魔境から戻った事を実感してため息が漏れる。

 羽生さんを脇の治療所に運び込み診察と治療が行われた。

 ガタガタと震える萊ちゃんはベンチに腰掛けさせて声を掛け続ける。

「萊ちゃん、大丈夫?」

 応えは無く、歯が打ち合わされる音だけが耳に届く。

 子供にしか見えない鬼に怯み、羽生さんが自分の身代わりに怪我を負い、そしてその鬼を斬り殺した。

 そのストレスに精神が耐えられなかったのだと思う。

 実際あたしだって遠目に見ただけで息を飲んだ位だし。

 普通の人間の感性ならば当然の結果かも知れない。

 こんな時、チームの要が不在なのが痛い。

「祟目さん、居てくれなあたし等無理かも知らん……」

 意識せず、そう呟いた。

 一時間程経った所で羽生さんが弱々しく処置室から出てくる。

「羽生さん、歩いて大丈夫なん?」

「ああ、背中の打撲と失神だけだったから。ただ、防具がね……」

 そう言って手に持つ防具を掲げて見せると胸元の装甲に四本の切り裂き傷が有り、修復も不可能なのが判る。

「強化されてるんに、切り裂かれたんやね」

「この防具では耐えられないとなると、どうしたもんだか……」

 防具が通用しないとなると、今後の見通しが暗くなる。

 迷宮のモンスターが鬼だと言う事は、それに見合った防具が必要になる。

 しかし、鬼に見合う防具と言う物が思い浮かばない。

「う~む、しかし鬼が跋扈したと言われてる時代の鎧は君達の使ってる大鎧だ。そう考えると御前隊は最適解だったと考えて良いな。ただ、羽生君の鎧をどうするか、だな」

「いや、厦海さんなんて防具すら身に着けてないじゃないですか」

「この装束はその当時の伝統に基づいているから、大鎧と同等だと思うぞ?」

 結局、羽生さんの防具の話に戻ってくる。

 そして問題はもう一つ。

「萊ちゃん……」

 萊ちゃんは羽生さんの姿を見てボロボロと泣いていた。

 羽生さんも話を切り上げて泣きじゃくる萊ちゃんを抱き締める。

 これで落ち着いてくれると良いのだけれど、萊ちゃんの性格だとどうだろう?

 神経の細い娘だから心配だ。

 取り敢えず、再稼働した迷宮の様子見は終わった事にして、私達は引き上げる事にした。


 あたしの車で順々に送って行き、一人暮らしの萊ちゃんの部屋で羽生さんと一緒に降りた。

 萊ちゃんも心配だったし、ちょうど良かったかも知れない。

 うん、これが最善なのだと思う。

 その夜、あたしは祟目さんにメールを送った。

 日本の迷宮の情報を出来るだけ正確に知らせる必要がある。

 そして、メンバーに欠員が出るかも知れないと言う事も。

「そっか、そちらも厳しいね。こちらも中々手古摺ってはいるけれど。契約が後二ヶ月残っているから、それまでは無理はしないで。無理も無茶も無謀も駄目だ。賭けに出る時じゃないからね」

 そう念を押され、あたし達の迷宮調査は終わった。

 ベッドに横に成りながら自分の掌を見つめる。

 鬼を斬った感触に顔を顰めて、深呼吸をして心を落ち着けて瞼を閉じた。


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