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三十二の巻

 朝、迷宮脇の駐車場で待ち合わせて合流した。

 あたしを含めて繚華ちゃんも萊ちゃんも顔が青い。

 帳さんは平然としてるし、お化粧も決まってる。

 羽生さん達は怪訝そうな顔をしている。

 帳さんがここに居る理由を説明して、チームに参加して貰う提案をする。

 二人は驚いた顔をするが前向きに考える素振りをした。

「防具はお持ちですか?」

 祟目さんが防具に関する質問をして帳さんが答える。

「はい、シーカー用の防具、羽生さんのと似た物が有ります」

「それは銀板も挟んだ物ですか?」

「あ、いえ、それは無かったと思います」

 帳さんの答えに表情を厳しくして祟目さんは同行を拒否しだした。

 理由は最低限の安全性が確保されていないと言う事だった。

「ワタシじゃ、お役に立てませんか?」

 縋る様に繰り返し問うも首を振った。

 可哀そうに成ってあたしも口添えをするけれど、頑として譲らない。

 帳さんの申し出は本当にありがたい、むしろ同行を願い出たい程だけれど、と。

 それでも防具が十全じゃなければ危険過ぎる、そう言って帳さんの防具の変更案を提示された。

 羽生さんの防具をカスタマイズしてくれたお店で防具を手配、それが届いたら是非お願いしたい、と彼は言った。

 その言葉に嬉しそうに小さく笑った。


 羽生さんと帳さんが何やら打ち合わせて防具の手配を開始する。

 ついでにあたし達の人生初の二日酔いにも言及されて午前中は休む様に指示されてしまった。

「「「ごめんなさい……」」」

 説教と言うほどではないけど、お小言は貰った。

 ついでとばかりに今後の方針も打ち合わせてしまう。

 帳さんの防具は岩国迷宮の沈静化には間に合わないので、次の鹿児島迷宮からの参加。

 これには彼女も不満そうだったけど、あたし達の春休みの間に可能なのは二ヵ所、出来ても三ヵ所。

 GWに回さざるを得ない最後の迷宮がずれ込めば、氾濫が起ると祟目さんが力説した。

 概念武器が少な過ぎて間引きが十分とは思えないのはシーカーの共通認識だと思う。

 最近は迷宮の沈静化の報道も有って、シーカーが奮起してるとSNSでは見かけるけど、それでも楽観視出来る程でも無いし。

 結局この日はあたし達と羽生さんが午後から迷宮に入って調整を、帳さんは六月まで休業する準備を、祟目さんはソロで動く事に成った。

 最深部へは今日の羽生さんの調整次第では有るけれど明後日から、と言う事に成った。


「リーダーが板に付いてきたんじゃないか?」

「冗談、性に合わないって承知してるよ」

 祟目さんの方に腕を回して笑いかける羽生さんの構図に少し、少しだけドキドキ。

 我ながら平和な頭をしているな、と呆れてしまう。

 それは置いといて、確かに祟目さんを中心にあたし達は連携している。

 求心力とかカリスマ性とかは分からないけど――華は確実に羽生さんの方が有るし。

 彼の在り方とか熱量に引っ張られてる気はする。

 色物扱いも全く意に介さないのも安定感があって周りも慌てずに済んでいるし。

 多分、良いチームだと思う。

 不安要素は恋愛光線が行き交ってる事、かなぁ。

 正直、六月まで変化が無ければ問題はない、はず。

 萊ちゃんが空回ったり、繚華ちゃんと帳さんがモメさえしなければ!

 不安である。


 午後からあたし達は迷宮に入った。

 羽生さんも久しぶりの迷宮と言う事で、慎重に進む。

 萊ちゃんが羽生さんに数珠丸写しの手数が減ってる可能性を知らせた。

「本当に、迷宮は良く分からない事が起きるな」

 そう苦笑してスッと刀身を撫でた。

 ケミカルライトが無い方に進んでいき、しばらくすると幽体と遭遇した。

 反りの深く、長さや重さのある太刀は斬る事に特化している分、突きは若干不向きな形状をしている。

 羽生さんの動きもそれに則したもので、萊ちゃんや祟目さんとも微妙に違うのが興味深い。


 唐竹、右切上げ、逆胴から持ち替えて再び唐竹、後ろに飛び退いて西岸に構える。数珠丸写しの幽体への必要手数は五手。四手で倒せるかの確認をしてまだ動きを止めない幽体に突きを放つ。


 最後の突きで動きを止め、揺らぎ、粒を落として消滅する。

「数珠丸は減らなかったか」

 ヘルメットのバイザーを上げて羽生さんは振り返って苦笑をあたし達に見せる。

「上昇率とか上昇幅とかがあるんかも知れませんね」

 結局、手数が減ったのは水晶刀の一部のみらしい、理屈は分からないけど。

「しかし、分からないもんだ。最初あいつと俺達とで何が違うのかを調べていただけなのに、気が付けば概念武器なんてトンデモが飛び出して、実際に効果が出て。本当に、迷宮ってなんなんだろうな?」

 羽生さんの言葉はあたし達、全世界の人々の疑問だろう。

「一部ではガイア理論と結びついて「地球の人類への報復」って説も出てますしねぇ。実際、最初の兎は人間が作った農作物だけをターゲットにしていましたし。狼の時も……」

 国内では間引きに成功した為、ニホンオオカミの氾濫は防げたけど、全ての国が出来た訳でも無い。

 残念ながら氾濫を許し多数の犠牲者が出た国も多かった。

 ただ、確かに萊ちゃんの言う通り、人間以外の被害は特に聞いた事が無かった。

 犠牲者に目が行って単に報道されなかったのかは分からないけど。

「結局、これは人類の生き残りを賭けた戦い、なんだ」

 羽生さんの言葉にあたし達は頷いた。

 素直に頷けたのは京都迷宮を沈静化させて、この岩国迷宮も、と動いているから。

 あたし達の視野が、世界が広がったのだと思うと少しだけ大人に成れた気がした。

「まあ、その最前線に居るのが生真面目でコミュ障で、頑固で馬鹿なあいつってのが、な」

 そう笑って羽生さんは相棒を褒めた。

 それにあたし達も同意して笑う。


 時刻を確認すると十六時、そろそろ戻った方が良い時間帯だ。

 あれからローテーションの練習や、スイッチのタイミングを合わせて羽生さんの調整、あたし達の調整は万全と言っても良い所まで来た。

 不思議だった。

 自分の中にある感情を言葉にするのが難しい。

 怒りとか悲しみとかそう言う単語とは少し、いや大きく違う感情が胸を熱くする。

 迷宮を出る道すがら、色々と考え、自分と対話を繰り返した。

 洞窟の出口から外に出ると完全に日が暮れていた。

 時間を確認すると十八時、見上げた夜空を見て――京都の空と同じだなと思った。

「誰の故郷も奪わせない、か……」

 いつの間にかあたしも感化されて、日本人に成っていたのに気が付いた。

「赫里ちゃん、それあの人の口癖やんなあ?」

「せやね。せやけど萊ちゃん、これからあたし達の口癖に成る言葉や思うで」

 そう言うと彼女は意図が掴めないと言う顔で首を傾げた。


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