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朽名奇譚  作者: いちい
#4 黄泉の家庭科室
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颯太の外面(そとづら)

 




 颯太と一緒にまず向かったのは、職員室だ。

 颯太は静かに職員室のドアをノックすると、中へと入っていった。颯太に目配せされ、私も後ろへと続く。


 この学校では、休日でも校舎が開放されている。図書室を利用したいという生徒や、熱心な部活のための配慮だとか。

 だから日曜日とはいえ、誰かしら教員が詰めているのだった。


 職員室にはちょうど教員が一人だけで、書類を整理していた。


「すいません、ちょっとお訊きしたいことがあるんですけど。今、時間大丈夫ですか?」


 言いながら、颯太は教員に近付いていく。白衣を着た、焼きそばみたいな髪の毛の男性教諭は、確か科学担当だったと思う。彼は顔を上げた。


「ん、構わないけどねえ。八木は熱心だねえ。で、何をききたいんだい?」


「この学校の学園七不思議についてなんですけど……特に、創立当初から現在までの推移なんかを調べてるんです。詳しい人とか本とか、ないですか?」


 科学教諭はぼりぼりと頭を掻いた。


「ぼかぁ結構古株だけどねえ。あんまり思い当たらないなあ……。科学の質問ならすぐに答えられるんだけどねえ、資料あるし」


 それは資料がないと専門分野の質問に答えられないということだろうか。いや、まさかね。

 それはないだろう……多分。


 ややあって、科学教諭は声をあげた。


「あれ、でも」


「なんですか?」


 科学教諭は何かを思い出すように、目を細める。


「少し前の卒業論文に、七不思議モノがあったと思うねえ。よくある題材だけど、わりかしよく書けてたから覚えてるよ」


「へえ、そうなんですか。卒論なら文集って形で、図書室に20年分くらいまで保管してありましたよね?」


「多分そうじゃないかねえ。八木はよく覚えてるもんだ。ぼかぁさっぱりで」


 先生はさりげなく教師として最低なことを言った。

 颯太はそれを笑顔で流して、職員室を辞去していく。


 颯太がドアの前で待ってくれているのに気付き、私も職員室を後にした。





 そして到着した図書室。

 颯太は書架に向かうかと思いきや、まっすぐカウンターに進んだ。


「ちょっとすいません」


 つまらなそうに読書して当番の時間をつぶしていたらしい図書委員は、本から顔を上げると真っ赤になった。


「なっ、なな、なんですか?」


「卒業生の書いた卒業文集を閲覧したいんだけど」


「それなら……そこの、壁際の本棚にあったはずです」


「ありがとう」


 颯太がにこやかに微笑む。図書委員の女の子は、恥ずかしそうに本の角を指で弄び、上目遣いで颯太を見上げた。


「あ、あのぅ、案内しましょうか?」


 それから慌てたように付け足す。


「この時間は利用者が少ないですしっ、そ、それに、場所もわかりにくいですしっ……」


 今さっき、そこの壁際の本棚だとか言ってなかったっけ? わかりにくい要素なんてないけど。

 見え見えの口実に突っ込むべきか、それともそんなベタなことを言わせる颯太を恐れるべきか……。


「いや、いいよ。場所ならわかるから」


 颯太はそう言うと、彼女にはもう目もくれず、教えられた本棚へと歩いていく。

 私も後を追った。


 ……今さらだが、保健室を出てから颯太の後についていく以外のことを、ほとんどしていない気がする。颯太の背後霊と化している自分に気づき、虚しくなった。


 上から順番に本棚を探す颯太は、すぐに卒業論文の文集を見つけた。


「これだな。一冊でこれだけの厚さがあるのに、さらに20年分か」


 颯太は一番古い一冊を手に取り、振り返った。


「姉さん。俺は古い方から読んでくから、姉さんは新しい方から頼む」


「良いけど……こんなにあったら日が暮れちゃいそうだね」


 颯太は笑った。


「ははっ、まさか全部読もうってのか? 目次を見れば、論文のテーマくらいわかるだろ?」


「あ」


「姉さんは本当に──相変わらずだな。……じゃあ、これ以上喋ってると俺が変な奴に見えるから、お喋りはこのへんにするか」


 颯太は五冊ほど文集を重ねて持ち、読書スペースとして開放されている一角に移動する。

 私も数冊を持ち、そちらへ向かう。


 朽名高等学校の図書室は、入り口近くにカウンターがあり、そのまま真っ直ぐ奥に進むと、窓に面した読書スペースがある。壁にまで本棚が設置されているとはいえ、そちら側だけは本に侵食されてはいない。


 小豆色の長方形をした長机が縦に3つ、2列になって並んでいる。

 颯太は本棚側のカウンターに一番近い席に文集を下ろし、座る。私はその向かいの席を選んだ。


 白地に和紙みたいな模様の入った表紙を開いて、文集の目次をさらっていく。

 生徒のクラスと出席番号順に整理されたそれは、テーマごとの分類ではないから探しにくい。


 時間をかけて、見落とさないように気をつけて読む。


 ぺらぺらと紙のめくれる音だけが、図書室を満たす。夏休みに登校するような生徒はほとんどいないので、貸し切りみたいなものだ。


 颯太と向かい合って、私はひたすら文集の目次をめくり続けた。




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