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朽名奇譚  作者: いちい
#4 黄泉の家庭科室
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図書室の忘れ物2


2014.4.28 編集しました。変更点は以下の通り。

・「図書室の忘れ物2」の前半を「図書室の忘れ物1」の後ろに移動

・「図書室の忘れ物2」の後ろに4/28の投稿分を追加。


4/28の投稿分は、◆◇◆◇◆マークから下になります。





 日誌は二学期からのもののようで、9月に始まっている。

 特に進展がない日もあり、そういう所は読み飛ばしていく。


『9月1日。

 夏休み中、また生徒が消えた。やはりこの学校は何かがおかしい。

 生徒会で調査を決定した。


 9月2日。

 学園で流れている七不思議を聞き取り調査。トイレの花子さん、テケテケ、終わらない製薬実験、理科室の狂女、ヒトクイ校舎、もう一つの校長室、そして欠番が一つ。

 ここは以前は研究所だったという噂を確認。裏付け調査を開始。


 9月11日。

 ここは以前、確かに研究所だったらしい。特に表には出せない類の研究ではなく、実際は痛み止めなどの薬や、戦闘時の恐怖を和らげる興奮剤を生成していたそうだ。

 噂は尾ひれがついただけで、生徒の失踪も偶然なのだろうか。


 9月12日。

 各七不思議の詳細を調査開始。


 9月15日。

 存外早く調査ができた。

 トイレの花子さん、テケテケは目撃情報が多い。特にテケテケの被害者は高頻度。怪我をする生徒が多数存在。

 もう一つの校長室は、ほとんど目撃情報はないにも関わらず、知名度が高い。なぜだろうか。


 9月17日。

 他の怪談の噂を収集開始。最近、手伝ってくれていた生徒会の一員が、様子がおかしい。

 胸騒ぎがする。


 9月20日。

 私は間違っていたのだろうか。協力してくれていた書記の一年生が、失踪した。

 私の責任だ。みんなには手を引くように伝える。

 考えがうまくまとまらない。


 9月21日。

 聞き込みにより、書記は最後に調理室に入っていくのを目撃されたと知る。調査対象を、終わらない製薬実験に絞る。


 9月23日。

 終わらない製薬実験の噂を収集。あらすじは以下の通り。

『以前ここがまだ研究所だった頃、不死にまつわる研究が行われていた。試作品の薬は捕虜に用いられたが、全て結果は失敗。被験者死亡。

 次第に検体が不足し、一般の人々を使用するようになる。その際、疑問を持たれないよう、薬はご馳走に仕込んで供された。

 だが、このご時世に食料などさほどあるはずもない。ご馳走の材料は、それまでに実験で死亡した人間である。

 調理室に入ると、時折女生徒が一人でいることがある。その場合、彼女の勧めるものを食べてはならない。もし食べてしまったら、死んだ挙句(あげく)、次の犠牲者を誘う材料にされてしまう。』


 9月30日。

 卒業生を訪ね、終わらない製薬実験に行きあった人物と接触。女生徒が『仁科(にしな) (つぐみ)』と名乗ったことを聞く。鶫……トラツグミからとったとでも言うのだろうか。死者を蘇らせる(ぬえ)という妖怪の伝承がある。鵺は、トラツグミの声で鳴くとされている。死者を蘇らせることと、不死の研究。永遠の生命という点での共通点か?』


「あれ?」


 はやる気持ちを抑えて次のページをめくろうとするけれど、うまくいかない。ページが何かでくっついているようだ。血、だろうか。


 無理にめくるのは怖くて、私はそこで日誌を閉じた。


「なんだかおかしいわね。今とは随分七不思議の中身が違ってるわ。それに……」


 アリスは困惑げに私の顔を見上げた。

 言いたいことはわかっている。鶫君のことだろう。


『終わらない製薬実験』。この物語は、あまりにも『黄泉の家庭科室』と似すぎている。


「よく似た内容の怪談が、二つ……。しかも、人物の名前まで同じだなんて」


 性別は違うようだが、それなのに名前もいる場所も同じだなんて 、おかしい。


 何か大切なものが軋むような感覚を胸に、私は保健室を飛び出した。




◆◇◆◇◆




 家庭科室の扉を力任せに跳ね開けると、窓際に立つ鶫君は、驚いたように目を見張った。


「秊ちゃん……? どうしたの、もう日付けが変わる時間だよ?」


「あの、ね……。ちょっと、訊きたいことがあって」


 扉を閉め、その場から鶫君に尋ねる。とても、喉が渇いていた。


「鶫君、『黄泉の家庭科室』は知ってるよね?」


「うん。ボクの話だよ」


 のんびりと答える鶫君。


「……じゃあさ。『終わらない製薬実験』は?」


 表情が、一瞬にして変わる。

 いつも穏やかな鶫君とは思えないほどの変化だ。


「『終わらない製薬実験』……?」


「…………」


 間違いない。彼は、何かを知っている。


「終わらない製薬実験……。そう、ボクはまた、選ばれて、だけど、それでも、選ばれなくて……」


 うわ言のように呟く鶫君。

 焦点の合わない瞳。真っ白な顔色。固まった彼の顔のパーツの中で、口だけが動き続けている。


「鶫君……!?」


「それから、あの子が。あの子が笑ってっ!!」


「鶫君、しっかりしてよ!」


 鶫君に、急いで駆け寄る。肩を掴んで揺さぶると、ぼんやりとした目の焦点が私に合った。


「こんばんは、秊ちゃん。どうかしたの?」


「え?」


 私の困惑をよそに、鶫君は天使のように微笑んだ。


「こんな時間にどうしたの? もう、日付けが変わる時間だよ?」


 会話が、ループしている?


「鶫君……?」


 どうしちゃったの……?


 まるで彼は、さっきまでのやり取りをすっかり忘れてしまったかのようだ。取り乱した形跡は、どこにもない。

 けれど、これは……異常だ。


 途端に、天使のような鶫君の微笑が空っぽなものに見え始める。

 とても優しいのに。とても柔らかいのに。


 何もない。


 七不思議の一つである鶫君を、ここまでおかしくするなんて。『終わらない製薬実験』と『黄泉の家庭科室』には、確実に何かがある。

『49日目の日記』の噂を話すとき、Mさんも言っていた。それを書いた生徒は、真実に近付きすぎたから殺されたのだと。


 これに近付けば、皐月様の言っていた、『七不思議を調べる』ということに至れるのではないだろうか。

 知れば命を落とすほどの、真実に……。


 ……恐怖はない。



 ____だって、そうでしょ?

 絶対に見つけないといけないの。アレは、私の大切な……。



 しかし。……本当にそれで良いのだろうか。さっきのことを考えれば、私が七不思議を調べることで、鶫君に何か良くない影響があるという可能性もある。


「……ちゃん、秊ちゃん!」


 鶫君の声が、思考を割る。


「えっ?」


 気が付くと、心配そうな鶫君に顔を覗き込まれていた。


(みのり)ちゃん、どうしちゃったの? さっきからおかしいよ」


 おかしい……?


 ……そうだ、私はおかしかった。いったい何をやっていたんだろう。彼は、私が探し物を見つけるための手段にすぎないのに。


 どうして慣れあったりなんてしてしまったのか。

 鶫君は、手がかりの一つだ。それも、とびっきり有用な。


 せいぜい上手に利用して、役立てるべきなのは間違いない。


 だから私は、笑顔を作った。


「……ううん。何でもないよ」


 少し、入れ込みすぎたのかもしれない。しばらく距離を置いた方が良いだろう。


 私は再度、何でもないよと言うと、家庭科室から出て行った。


 閉ざした扉に背を預け、白いワンピースの胸元をぎゅっと、(しわ)になるくらい(つか)む。


 ……ああ、だからきっと。

 この痛む心も何かの間違いなんだ。




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