別の分岐をゆく秊、B
これは、『秊の願いごと2』から分岐しえた物語です。
そんなにグロくはありませんが、直球のバッドエンドです。
私は黙々と夜の校舎の出口を目指す。
いくら考えても、瑞樹と一緒にここから出る方法は思い浮かばなかった。そうしてついに、祭りの日を迎えている。
瑞樹にお別れを言いに行きたかったけれど、何を言ったら良いのかなんて分からなくて、理科準備室には行けなかった。
釈然としないまま、出口へと向かう。足取りは重い。気分は言わずもがな。推して知るべしというやつだ。
のろのろと歩いていると、前方の曲がり角の先から、何か白いものが出てくるのが見えた。また新手の怪異でも現れたのかと、身を強張らせる。
そっと薄暗がりに目を凝らす。薄暗い蛍光灯に照らされたそれは、白衣を着た人間のようだ。距離があって判別しずらいものの、体型からして女性らしいと分かる。
祭りの日に詰めている教員だろうか。
生徒が祭りの熱気に浮かされて悪さをしないように、この日には泊まり込みで数人の教師が見回りをするというのを聞いたのとがあるのを思い出した。
だが、なんとなく白衣の女性はそうではないと感じる。
形は人間と同じでも、本質は別の。もっと、存在が希薄で、危険な何か。
彼女からはどこか、非人間的な匂いがした。何か……そう、言うなれば、空気が違うというか。
知らず知らず、足が止まっていた。
こうして考えている間にも、白衣の女性は近付いて来る。
徐々に、容貌がはっきりとわかるようになってきた。白衣の彼女は、黒い髪を後ろで軽く纏めていた。両手は腰のあたりで後ろ手にまわされている。顔は伏せられていて、表情が窺えない。
わけもなく胸が不安でざわめく。
彼女は、何だ?
そして、私の前に立つと、彼女はぴたりと歩みを止めた。俯けていた顔を上げて、にっこりと、泣き黒子のある柔和な顔を綻ばせ、尋ねる。
「あなた、九重 秊さん?」
答えない方が良いと本能は告げていたが、彼女が発する凄みというか、有無を言わさぬ威圧感の前では抵抗はできない。
唇が震えながら小さく開き、質問に回答を与えてしまう。
「は、はい……」
「そう。あなたが……」
困ったように彼女は笑い、背中に手を回す。再度前に手が出されたとき、彼女は鋭い刃を持つ大鉈を、片手で握っていた。なぜかその刃には、見覚えがある気がした。
逃げたい。
そう思うのに、体は動かない。
彼女は何気ない足取りで、さらに一歩、私に近づいた。私の耳に彼女の口が寄せられる。
「あのね……。瑞樹を見捨てるような女は、必要ないの……」
そこでようやく気づく。白衣の女性が、以前瑞樹のアカシックレコードで見た、理科室の狂女であることに。
恐怖に目が限界まで見開かれる。
この後私がどうされるか。如実に想像できてしまう。
体は動かない。
物憂げで儚い容貌の彼女は、枯れかけた花のように微笑しながら、ただ少し困ったように眉尻を下げた。
「だから、消えてね?」
躊躇いのない熟れた動作で、大鉈が私に降ってくる。
私には避けることは、できない。
あるいは、避けたくないのか。
……もしかしたら、待っていたのかもしれない。瑞樹を見捨てようとした私自身に、罰が下されるのを。
私はただ、鈍く輝く鉈の刃が迫って来るのを、最期までじっと見ていた。
叶うなら、瑞樹に一言、謝りたかっ────
──ざしゅっ!




