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朽名奇譚  作者: いちい
#2 理科準備室のホルマリン生首
69/205

薔薇園のティータイム


あとIFエンドが2つありますが、それはまとめて24日に投稿するつもりです。




 






 美しい薔薇園の中心で、白いドレスを着た女性が優雅に座ってお茶を飲んでいる。

 繊細なデザインのガーデンデスクとチェアーは揃いで、白い。


 細腕を傾けて女性はカップの中身を飲み干すと、純白の陶磁器のポットから二杯目の紅茶を注いだ。ついで、宙からもう一脚同じデザインのカップを取り出し、紅茶を注いで向かいの空席に置く。


 一陣の風が吹き、真紅の薔薇が花弁を揺らす。


 女は靡いた長髪を手でおさえ、風の来た方角に目を向ける。

 生垣の向こうから、黒づくめの青年が歩み出て来た。


 女性はにこりと微笑む。


「ご苦労様です。ナインスファクトゲーム、楽しんでおりますわ」


 青年は眉間に皺を寄せると、

「そうか」

 とだけ言った。


 どこか不機嫌そうでもある無表情の青年とは対照的に、女は彼に上機嫌に席を勧める。


「ふふ。さあ、座ってください。ちょうど今、整備をしようかと思っておりましたの」


 女性は立ち上がり、強引に青年を席に座らせると、自身もまた席についた。


「栄えあるループ脱出の一人目が誕生したのですわ。ほら」


 女性がたっぷりと紅茶の注がれた自身のカップを青年に寄せる。

 紅茶の液面には、幸せそうに笑う一組の男女が映っている。


「……そうか」

「ここにくるまで、手に汗を握りました。まず、未来を分岐させますでしょう? 通常ならそれこそ天災級の出来事でなければ未来は別れて平行世界を作りませんのに、一個人のために頑張って分岐させてみたのですわ」


 女性は興奮した調子で身を乗り出す。


「そして、各分岐先で特定の条件をクリアしない限り、一年をループし続けるのです。今回は『願いを叶える』にしてみましたの。全てのルートでのループを終わらせるにはナインスファクトを見つけるしかありませんけれど」

「……相変わらず下品な趣味だな」

「何か言いまして?」


 ぼそりと呟いた青年に、女は笑顔で問い返した。

 何事もなかったかのように、女は続ける。


「それで、やっとループ脱出を果たした方がいらっしゃったので、仕切り直しをするのですわ」

「何のためにいちいちそんなことをするんだ。必要ないだろう?」

「いいえ。セカンドファクトを、アカシックレコードに反映させておきたいのです。時間は止めておきます。お手伝いを、お願いできますわよね?」


 憮然と青年は首肯した。


「ああ。拒否する権利なんかないからな。そうだろう、千里眼の魔女?」


 女はそれに答えることなく、美しい微笑を保ったまま、鈴を振るような声で笑う。


「ふふ。幾重にも分岐した可能性。それこそ、些細な選択肢でも分岐するようにしたあの子の未来は、願いを叶えるかナインスファクトを見つけない限り、永遠に一年間をループし続けますわ。まあ、願いを叶えたところでループから逃れられるのは、そのルートを辿った彼女だけ。他の分岐を辿った彼女は、それぞれさらなる枝分かれをしながらループを繰り返すのですけれど」


 魔女はカップを口元に持っていって傾け、喉を湿らす。

 紅茶の液面が波紋を作りながら揺れ、体積を一口分減らした。


「うふふ。ナインスファクトにたどり着くのは、そう容易くはありませんのよ? この子はどういう声で啼いて、どういうふうに踊ってくれるのでしょう。嗚呼、楽しみですわ、素敵ですわ、待ち遠しいですわ……!」


 一度言葉を切ると、白いドレスの女は笑みを陰惨なものに変えた。ここではない何処かを見据える濁った玉虫色の瞳は、めぐるましく色を変える。


「幸せな結末など、ワタクシ、見たくありませんの。無限に広がりながらも繰り返す牢獄で、絶望なさい。まだ足りませんわ。嘆きも悲しみも怨嗟も」


 青年はそこに自分の末路を見、眉をひそめた。








ちなみに、今回登場した千里眼の魔女と青年は、前作『エイプリル・フール』登場の彼らと同一人物です。奴らがなぜいきなり出てきたか疑問の方は、1章1話をよく見てみると、地味にフラグがありますよ。前作にも登場の彼は、いつも黒づくめなのです!





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