第8章 暗夜の流星
第一幕:庇護の地に差し込む曙光
庇護の地「不夜城」の強固な城壁の下には、日夜を問わず、四方八方から集まった人々の列で隙間なく埋め尽くされていた。
『暗夜の天使』クロードの奇跡の噂が、遠く大陸の隅々にまで轟くにつれて――。
行くあてのない流離の難民や、危険な魔物うごめく荒野を駆け巡る流浪の商人のみならず、世間から唾棄され、生きる場所を完全に失った異形の魔物たちまでもが、その神聖なる名を慕って次々と押し寄せていた。
彼らは、その強大で黒き夜の羽翼の下にこそ、自らの魂を休める最後の安寧を見出そうとしていたのだ。
だが。
人間の限りなき強欲と、権力への野心によって無残に引き裂かれたこの残酷な大陸において、真の平和というものは、決して容易に手に入るものではなかった。
周辺の帝国軍による冷酷な鉄蹄の進軍、そして各地を割拠する強欲な勢力による絶え間ない侵略。
絶えない硝煙と終わりのない殺戮が、このようやく築き上げられたばかりの桃源郷を、絶えず内側から蝕み続けていた。
第二幕:流星の下の誓いと軍勢の誕生
深閑とした夜。
クロードは、高く聳え立つ城楼の最頂部に一人で佇み、眼下に広がる城内のあちこちに点々と灯る温かな灯火を見下ろしていた。
その白骨の手掌は、胸元のなかに大切にしまわれた――日を追うごとに少しずつ黄色く色褪せていく「一家三人の記念合照」を、愛おしそうに、何度も優しく撫でる。
彼の脳裏に、あの星降る夜の光景が、再び鮮明に蘇ってきた。
あのハレー彗星が夜空を美しく駆け抜けた際、両手を合わせて静かに祈りを捧げていた、ディアンナのあの優しい姿が――。
――『クロード……私、この世界から、これ以上戦争や苦しみがなくなってほしいの……』
「ディアナ……私は、君のその願いを……この手で、必ずや果たしてみせる」
クロードは、青い神秘的な火光を激しく燃え上がらすその左眼を夜空へと掲げ、その背に大きく担いだ愛用の大型兵器「鴉狩の鎌」を、静かに引き抜いた。
この愛おしき大地と、そこに生きるすべての無垢な民を守り抜くため。
彼は、その名を慕い、守護の信念をその胸に抱いて自発的に集まった勇敢な戦士や異能者たちを組織し――ここに、黒夜の地平を照らす曙光を象徴する、新たな鋼鉄の軍勢。
――「暗夜の流星」を、正式に結成したのだった。
かつて天下にその名を轟かせた「白衣の死神」として。
クロードは、自らの培ってきたすべての技を、惜しみなく彼らに授けた。
人生の過半を死線の淵で研ぎ澄ましてきた至高の戦術と、圧倒的な戦闘技術のすべてを、彼は自らの手でこの戦士たちへと容赦なく叩き込んでいく。
彼の厳しくも深い愛に満ちた鍛錬を経て、「暗夜の流星」は、押し寄せるいかなる敵軍をも震え上がらせる、最強の死守の師団へと急速に成長を遂げていったのだった!
第三幕:魔晶の眼と死霊の浄化
『ドォォォン――ッ!!』
戦鼓の音が天を激しく揺振り、帝国軍の冷酷な鉄騎が、再び不夜城に対して猛烈な侵略の攻勢を仕掛けてきた。
だが――。
襲い来る敵の精鋭軍勢が、城壁の麓で「暗夜の流星」の勇士たちによって次々と討ち払われ、一面にその屍が累々と横たわろうとも、その戦場に勝者の狂喜に満ちた歓声が響き渡ることはなかった。
そこに降臨したのは、ただ神聖にして、あまりに荘厳なる圧倒的な「死寂」のみだった。
クロードは、漆黒と黒紫に染まる巨大な骨翼をバサリと大きく広げると、天より静かに舞い降り、倒れ伏す敵味方の戦死者たちの中心へと降り立った。
『ヴォォォォン――ッ!!』
彼がその白骨の手掌を高々と掲げた瞬間。
死霊の魔核による、死者を蘇らせる「重生(再生)」の奇跡が盛大に発動した。
同時に、その左眼腔に深く嵌め込まれた「魔晶の眼」から――まるで夜空の銀河のごとく輝かしく、眩い青色の神聖な光彩が、周囲へと爆発的に解き放たれる!
ディアンナが、かつてあの魔晶の眼の中に細やかに書き残した、あの「優しき浄化の術式」が、死霊の持つ強大な力と完全に交融する――。
幽藍の気高い光輝は、まるで慈雨の如き恵みの雨露となって、すべての戦死した敵兵の躯体を優しく包み込んだ。
そして、彼らの魂の奥底に長年深く刻み込まれていた「戦争への狂気」、「殺戮への果てなき執着」、そして「世に対するすべての呪わしい憎悪」を――根こそぎ洗い流し、完璧に、美しく浄化してみせたのだった!
第四幕:痛みなき永劫の楽園
かつては凄惨な異形を晒し、醜い憎悪と殺意に満ちていた敵兵たちが――その青い光の中で、ゆっくりと、穏やかにその眼を開いた。
彼らが再び自らの足で立ち上がったとき。
その瞳には、もはやかつての嗜血の色も、残虐な光も、微塵も残されてはいなかった。
そこにあったのは、まるで母の胎内にいるかのような、新生の平穏と、驚くほどに純粋な静寂だけだった。
彼らは、目の前に静かに立つ――神聖にして高大なる「暗夜の天使」を見据えた。
そして、次々とその身に纏っていた武器を地面へと音を立てて解き放つと、心からの深い従順と忠誠の意を示し、クロードの足元へと片膝をついた。
――この、戦争も憎悪も存在しない、真の楽園へと加わるために。
クロードは、その白骨の手掌を静かに引き取った。
死霊術と、失われた愛の記憶によって共に構築された、この血色なるユートピアを見渡し。
その枯れ沙啞な声が、穏やかな風に乗って、天地の間に朗々と響き渡る。
「……殺戮もなく、憎悪もない。……この世界において、汝らはついに、真の平和を手にすることだろう」
極限の悲哀の淵から孕まれ、しかしどこまでも純粋で、誰にも侵すことのできない圧倒的な「不夜城」の伝説は。
こうして、終わりなき暗夜の只中において――最も眩く、そして永遠の頂点へと達したのだった……。




