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第9話 Paradise Lost −失楽園−

ーおかしいのは、僕だ。



…僕がいるこの世界…競争と偏見と無関心の世界


…これらは全て僕も含めてぜんぶ”データ”だったんだ!


はーっは笑!!ドパガキも、

あのバスの差別主義者…ざまあみろ!お前もとっくにデータになってんだぞ!


エリサに謝れ!


…エリサ?エリサ!?


エリサ!!だよな!?


…だったらエリサと触れ合えるじゃないか!


僕も彼女も同じデータなんだろう!?


「エリサ…。」


僕は口ずさんだ後、すがるような想いで…震えながら尋ねた。



「な、なぁEDEN。ま、まとめるとαメタバースの下にミラバースがある。って事でいいんだよな?…ならその2つの世界の人達が互いに触れ合う、…って事はできないのか?」


EDENは高笑いをしながら話した。


「ーおかしなことをおっしゃいますわね。三上博士。科学者のあなたにそんなことを言われるとは驚きです。…きっとお疲れなのでしょう。

それは、そもそもレイヤーが違います。重なり合う事はしても干渉など絶対にあり得ません。…大丈夫ですか?あまりお具合が良くないのでは?」


最後の望みも絶たれた。


「…はは…そうか。神かARGOか知らないけど、僕には本当に何もくれないんだな。…兄弟なんて元々知らないけど、両親がいなくなった上に恋人には触れられない。はは…自分の身体にだって。 …」


(もしかして…僕は…。)


僕には一つの仮説があった。最後に聞いてみたいと思った。


もう何を聞いても驚かないと思うから。


「…あの巨大施設にいた床の上…あそこに居るのがここの人達なんだな…。」


EDENが静かな声で応えた。

「ーやはりお調子が良くなさそうですね。ーそろそろセッションをやめましょう。最後にお応え申し上げます。

はい。その通りです。彼らはつくば市全13万市民、αメタバースの実験対象者達です。ARGOが科学技術の街、つくばを選定しました。

世間には人工アマテラス粒子の実験で街ごと吹き飛んだと報道してあります。」


(やっぱりな。終わった。すべて。)


僕は気が抜けてしまった。


「…わかったよ。いろいろどうも。」


EDEN

「お安い御用です。ゆっくりお休みください。

…そういえば来週のARGO知能会議には出席なさいますか?またその後にお話ししましょう。」


「うん、またな、アディオス。」


EDEN

「アディ…?」切断。


…しばらく、何も考えられなかった。


なにがなんだかわからない。ここがデータの海で、僕はその中のアルゴリズムに過ぎない…だと?…ならここは監獄じゃないか。


唯一の資産の”右腕”を眺めた。


ー失笑。


僕はアパートから飛び出した。


「この景色…全部データなんだと?」


僕はいきなり走り出し、普段行かないような路地裏を見た。


ーちゃんと路地裏だ。


…当たり前だ。システムは僕の動きより早く先回りして世界を構築する。そして僕の動き出す瞬間も知覚できる。


(これは…苦笑 。詰んだ…か?)


僕はふら付きながら道行く人に話しかける。


「ねぇ、あなた‥人間ですか?それともNPCプログラムなの?」


話しかけられた人は飛び退いた。


「ヒッ! え?なんなの? ヤダ!!」


怯えて走って逃げていった。


辺りの人たちがざわつきはじめた。


同じく僕の心も。


(…やっぱり彼らは全員NPCなんじゃないか?僕にここを現実だと信じ込ませるための。)


「おい!お前たち!僕はもう秘密を知ってるんだ!!変な演出はやめろ!僕を放っておけ!!」


僕はその場から逃げ出した。


ーいったいどこへ行くって言うんだ?


この世界は現実と同じで無限だ。

どこまで行っても次々とすべてが再現される。…現実と同じ場所が同じ感触とクオリティで。


「わーっはっは!凄い!こりゃ凄いね!!」


僕は公園の芝生に頭から突っ込んで転げまわった。


ー新芽の若々しい匂い。


考えてみれば、現実でも僕と世界は等しく原子で構成されている。なんだ、ただ”データ”か ”原子”かの違いだけじゃないか!


「はは…別にどうってこと…」


ーでも、ここはいずれ確実に崩壊する。


恐らくそう遠くないうちにコンセントを引き抜かれる。


現実と違ってこの場所は神ではなくARGOが支配者なのだ。


「くそ!くそ!くそ!!」


僕は拳を振り回し、やり場のない怒りをぶつけた。


拳が風を切る感覚も、その拳の重みに引っ張られて痛む肩の関節も…ハハ、よくできてるじゃないか!?

αメタバースとミラージュメタバースのレイヤーをしっかりと分ける丁寧さも!



あぁ…ARGO…



最高の存在だ。



あぁ、負けたよ。



「エリサ…。」



そして僕は気を失った。



(続く)



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