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第15話 HERO.

僕はずっと引っ掛かっていた事をエリサに聞いてみた。


「…ところであの後ミラバースで三上さんはどうなったの。」


エリサは顔を引きつらせた。


「…ディレクトリ・エンドー第10層に送られたわ。ーちょっと覗いた事があるんだけど、そこは私たちの世界からするとすごーく時間が引き延ばされていて、何をするにもとても遅いのよ。で、皆”フリーズ”が怖くて単純行動しかできなくなるの。ポテチを食べながら読書、なんてことは複雑すぎてまず無理ね。一つずつ行動し、ただ生きるだけ。」


「そ、そんな、

…いや、さっきもサラッと言ってたけど、エリサ、10とか3とか簡単に”層”の移動とかできちゃうわけ?」


僕はエリサを見つめた。


「うん。なぜかできるみたい。

…でもアルファに来ると投影データになってしまうからユウには何も干渉…触ることもできないけどね。」


そう言いながらエリサは作り笑いをして僕の頬に自分の手のひらを近付けた。


…その掌は僕をすり抜けた。


僕は謝った。


「ご、ごめん。つい余計なことを言っちゃった。」


僕の言葉を聞いてエリサは少し自然な笑顔になった。


「ううん。気にしないで。お互い様でしょ。ー触れられないのは。


でも…そう、三上さんについて知ってるのはそれぐらいなの。」


「…そうなんだ。」


そう返した後、僕は三上さんについて考え始めた。


エリサが何かを言いかけた。


「あのね、私ね、こんな時に大した話じゃ…やっぱりやめとく!ごめん。」


…気になるな。


「いや、エリサ。僕にはエリサの話で大した話じゃない話なんてないんだよ。…え、あの、もしかして他に好きな人ができた…。」


「…バカなの!…そんなわけないじゃん…。」


エリサは照れくさそうに言ったあと少し髪をいじった。


僕もそんなことを言わせてしまった事にちょっと恥ずかしくなった。


「あぁもう!本当に大した話じゃないのに!わかったよ。話すわ。私ね、αバースに出て来るようになってから、何度も嫌な目に遭ってきた。見てたでしょ?投影を邪魔されたり、罵られたり、他にもドアを閉められて監禁されたり、干渉しないのをいい事にわざと車で轢いて行かれたり…。」


僕の知っているエリサの日常がほんの一部だったことに突然気付かされる。


「あの…。」


口を挟もうとした僕の口をエリサが人差し指で押さえるジェスチャーをした。


「待って。聞いて。今それはどうでもいい事なの…ええと、いえ、良くはないんだけど…とにかくそういう世界なの。私の現実は。…だけど一つだけ気付いたことがあって、この間の磁気嵐の日にちょっとした実験をしてー。」


(…この間のって…)


「あぁ、”することがある”って言ってた日。」


エリサは頷いた。


「ー私あの時帰らなかったんだ。」


僕は驚いた。


「え!? そんなことしたら停電で記憶が…。」


エリサはため息をついた。


「そう。そう思ってた。そう言われてきたから。でも私今までリセットしたことがないのよ。一度も。だからこっちで停電になったらどうなるのか試したわけ。」


(…ムチャするなぁ。一応”磁気の嵐”なのに。データごと吹き飛んだらどうなっていたか…。)


「…あの…結果はどうだったの?」


エリサは真剣に言った。


「停電になった間は消えてたけど、電気が復旧したら元の場所にいた。記憶も残ってた。記憶が飛んだのはわずかな間だけ。…まわりは2週間も経ってたけど。」


…僕が体験したのとまったく同じだ。

(それと、その2週間僕のスクロールにエリサから履歴がなかった理由も判明してホッとした。)


僕は頭を振って余計な感情を飛ばした。


「…で、どうなったの?」


「嵐が終わってたからミラバースに戻って、家族や友人に聞いてみたんだけど、みんな以前から何度もリセットを経験してて、一度もした事ないのはどうやら私だけで…。

それとまだあって、私、三上博士のこと知ってたでしょ?あとで調べたら、彼ってメディアに一度も出たことがなかったの。なのに私は知っていた…。

どこかで会ってるのよ、私。だからもしかしたらパパも科学者で、その友人だったのかもなって…。どう思う?」


僕はしばらく考えた。ありえなくはない。

あの日、磁気嵐を利用して三上博士は階層を上がってきた。


逃げてきたわけじゃない。


……僕に会うため?


いや、違うな。


その話ならたぶん…エリサに会うためだ。


それで、そばにいる僕がどんなヤツかわからないし浮浪者のふりをして…というより誰にとっても都合のいい変装だったんだろう。


…でエリサに近づこうとしたけど、エリサは博士を名前程度しか覚えていなかった。


そしてNSKもそばにいることに気付いた……。


「だからなんだ。だから僕にコードを渡したんだ。でも…そうか本当は…本当はエリサに渡したかったんだ。」


エリサ

「え?何?」



エリサはアルファメタバースではリセットされない存在。だから記憶を奪えない。物理干渉すら受けない。――そしてたぶん、あらゆる他のメタバース層を自由に行動できる。


また、恐らく父親はARGO開発関係者。


さらにこの世界の真実を知った覚醒者。



…そうか。


そうだったんだ。


なんだ…。


HEROヒーローは僕じゃないんだ…。



でも……それでいい。


…もうそんなことはどうでもいい。


なぜだろう?


僕はそれが彼女で本当に良かった、

と心から思えた。


そしてその事実を最初に伝えられるのが僕だということも。


僕はエリサの瞳を見た。


…もしARGOが本当に全能だったなら、この僕の役目もプログラムなんだろうか?


そんなの…


「…誰が知るか。」


エリサ

「え?」


僕はすべてを笑い飛ばした。


そして大切な人に大切なことを伝えた。


「…エリサ、君だったんだ。


君だったんだよ!


ー君こそがこの世界を終わらせるための”鍵”だったんだ!」


エリサはあっけにとられている。


「いいかい、君って存在はあらゆる世界のー」


僕の説明が進むほどに、


彼女の顔は上気して頬は赤くなり、


その瞳は丸く、


そしてきらきらと輝いていった。


(続く)



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