ゴブリン達の王
風邪で思うように動けず、執筆に費やす。
早く直るといいんだが。
十二階のゴブリンは、連携してはいるもののそれだけだ。単体としては、それほど脅威ではない。
追加されている魔法を使うゴブリンシャーマンは、多少上位ではあるが後衛だけに体力はさほどでもない。
十三階は、それらにホブゴブリンとゴブリンリーダーがまざる。特にリーダーは、その名の通り、指揮をとって冒険者を襲うようになる。連携ができてないと、ゴブリンの連携の前に各個撃破されてしまうだろう。
だから逆だ。
「リーダーにダメージを与えろ、先に潰せ!」
俺は大声を張り上げ、盾を打ち、ゴブリン達の気を引いた。俺を中心、最大の敵と思わせ、その隙にカサンドラが近づき、キサラが狙う。リーダーをきっちりと。
後は個のゴブリンが残るのみ。
「なんつーか、タモツって不思議だねぇ」
カサンドラは休憩中に話しかけてきた。
「臆病なくらい慎重な癖に、度胸があるって、よくわからん」
「だから30点なんだよ」
「なんだ、その30点って?」
まだそのネタ引っ張ってんのか……。
「俺は誰も失いたくないだけだよ」
「ちゃんとその中に自分も入れておいてくださいよ?」
珍しくフィオナから釘を刺された。
「当然だよ、何事も命あっての物種だからね」
などと答えつつ、そんなに確固とした保身は考えて無かった。どこか会社に振り回されてた頃から、投げやりだった部分はある。守るものが無かったんだろうな。
「今の俺は守るモノがあるからな、簡単には死なないし、死なせない」
新たに感じ始めた義務感。失いたくない相手ならば、相手にとっても自分は失いたくない存在だという可能性。献身は心地よいかも知れないが、相手に負担をかけては意味がない。
「みんなで幸せになろうよ」
そう言って皆に笑いかけた。
「なんつーか、旦那って冴えない癖にきゅんとさせんなぁ」
「これで女の子にも積極的ならねぇ」
「駄目なのかい?」
「モノはそれなりなのに、腰が重いというか……」
もうドリスとカサンドラには突っ込まない。そこは地雷だ。
「本当に、そろそろ私の番でもいいはず……」
「ボクは関係ないからな、一緒にすんなよ!」
フィオナやキサラまでもが何か呟いてる。嫁には出したくないけど、責任は取れない娘達だ。
十三階もリーダーを集中撃破する戦法で、しっかりと探索していく。
「ノートリアスだ!」
そんな中で、その声が響いた。周囲に緊張が走る。
「向かうぞ」
声のした方へ移動した。
ゴブリンの川とでも言えそうな、ゴブリンの大軍がひしめいていた。攻略サイトによると、この階のノートリアスはゴブリンキング。そのまま、ゴブリンの統治者だ。多くのゴブリンを従え、数で冒険者を蹂躙する。
八階の時と違って、平均レベルより下の俺達はフォローに徹した方がいいだろう。
「防御優先で、確実に数を減らすぞ」
「あいよ」
カサンドラがトマホークを肩に担ぎ、キサラはコクンと頷いた。
ギャギャギャ!
駆り立てられたような、ゴブリンが襲来。統率のない統率、ただ一点、冒険者を蹂躙するという意志の元の攻勢が迫ってきた。
城塞跡の壁を利用し、ゴブリンの侵攻方向を制限。現れたゴブリンを潰していく。
「おら~ネプチューンが道を作るぞ、手伝え!」
戦場に響きわたる声。来る波を受けるだけでは、ボスは倒せない。強行突破を計るらしい。
「手伝えそうか?」
キサラを振り返ると、身軽に壁を駆け上がり、そこから弓を放ちはじめた。そちらにネプチューンクランがあるのだろう。
「よし、慌てず移動していくか。ドリス、道案内よろしく」
「おお、任せなさい!」
ドリスの直感力に頼って移動を開始。
ネプチューンクランの面々は名乗りを上げただけはある。かなりの突破力で戦線を押し上げていく。
その背後に回り込もうとするゴブリンを、俺達後続が討ち取りながら追いかける。
「へぶっ」
右頬に矢を受けて、転びそうになるのを何とか堪える。キサラは何事もないように、矢を回収して後列に戻る。
魔弾、恐るべし。
そんなキサラはゴブリンの矢を回収しながら戦っているようで、戦場のあちこちを移動している。たまに近づいてきたと思ったら、さっきみたいに俺に向かって矢を撃ち込み去っていく。
(あいつ、楽しんでるんじゃないか?)
何か味方に撃たれるのに慣れるって嫌だなぁ。
そんな事を考えれる程度には、余裕はあった。数は多いがゴブリンで、リーダーが率いる時のような纏まりもない。
カサンドラも好き勝手に暴れ回ってる。防御優先って言ったのになぁ。フィオナがフォローしてるから、大丈夫だと信じる。
「おっしゃ、いくぜぇ!」
どうやらネプチューンクランの連中が、ゴブリンキングを見つけたらしい。最後のラッシュを掛けに出ている。
俺達も置いて行かれないようについて行く。
いくらゴブリン相手でも、集団に孤立したら危険も出てくる。他のパーティーとの距離は大事だ。
そうして進んで行くと、俺達にもキングの姿が見えてきた。ホブゴブリンよりも更に大きく、2mほどもある。生意気にも金属鎧を纏っていて、手にした大剣は両手持ちで破壊力も高そうだ。
その手前にはリーダータイプのゴブリンが並び、ネプチューンクランとやり合っている。
キングを中心とした連携がありそうだ。
ネプチューンクランは、海洋神の神ということもあり、海兵のような装備が目立つ。特にトライデントと呼ばれる三つ叉の矛を愛用するのが、伝統となっている。また、圧倒的に男が多いのも船乗り気質の表れだろう。
キングの側近を務めるリーダーは、盾を構えて守備が堅い。そこへキングのリーチの長い大剣が、なぎ払われる。
最初はそれを受け止めようと試みた奴がいたが、あっさりと宙を舞っていた。その筋力は侮れない。
「投網準備いいか? 放て!」
ネプチューンクランの後衛から、網が投げ込まれた。いくつかはキングの大剣で打ち飛ばされたが、多くはリーダーへと降りかかる。手にした剣で断とうとしているが、簡単に切れるものではないのだろう。網を切るのに気を取られたゴブリンは、トライデントに貫かれている。
キングへの道が開け、ネプチューンクランが間合いを詰める。大剣は間合いが長い分、懐に飛び込まれると弱い。
トライデントは投げ銛としても使われる短めの槍なので、接近戦の方が得意だった。
しかしキングの鎧は意外と厚く、簡単には抜けないらしい。大剣を手放したキングは、その拳を振るって男達を迎撃する。厚手の金属製グローブは、それだけで凶器。キングの怪力と合わさると、極めて危険だ。
「キサラ、やれるか?」
再び城壁に登っていたキサラに問いかける。返事は布を巻いた矢だった。
高角度で撃ち込まれた矢は防ぎにくく、掲げた盾をくぐり抜けて左頬に。
「ほぐっ」
しかし、そこからの六連射は見事だった。
振りかぶろうとした右腕の付け根、兜、兜、兜と続けて、兜をはね飛ばし、右目と左耳を射抜いた。
「よしっ」
それを見て拳を握った俺に、もう一回矢が飛んできて、額を叩いた。うん、いつでも射れる準備は大事だよね。
ネプチューンクランは、突然出来たキングの隙を、逃す事はなかった。兜を失った喉元へ、トライデントが投じられる。次々に突き刺さる矛に、立ち直る事なくキングは仰向けに倒れた。
王が倒れたゴブリン達は、蜘蛛の子を散らすように姿を消した。
「今の矢は誰だっ」
ネプチューンクランの男が振り返る。城壁の上にはキサラのみ、ちょっと目立っていた。
「ちっ、女か……」
すぐにその男は顔をしかめた。
「女にゃ、ロマンが分からねえな。無粋な真似をしやがって」
などと言ってくる。俺は爆発しそうなカサンドラを押さえて、前に出た。
「指示したのは俺だ。文句は俺に言え」
おお、怖ェ。肩幅なんか俺の倍ほどありそうな、日焼けした男。
「けっ、女に囲まれた軟派な奴にもわからんよな。次からはわきまえやがれ」
「次も同じようなら、また射させるさ。被害を出さない方がいい」
その返答に男の顔が赤くなる。
「ほぅ、言うじゃねえか。てめぇ、どこのクランだ?」
「……アラクネクランだ」
一瞬、答えていいか迷ったが、恥じることはしてない。
「覚えたぜ」
それだけ言って、身を翻して去っていった。
「あー、やな奴だったね。振り返った時は嬉しそうだったのに、キサラ見た途端あれだもん」
「やるじゃん、タモツぅ」
カサンドラに背中を叩かれると、その場に崩れ落ちた。膝が笑ってやがる。
「どこか怪我を?」
フィオナが心配してくれたけど、単に迫力負けだ。次、会ったらどうしよう……。
「早くしないと、取りっぱぐれるぞ」
キサラの言葉に振り返ると、倒したゴブリンからの略奪大会が始まっていた。
一応ギリシャ神話が中心だから、ポセイドンがよかったんだろうけど、先にネプチューンと書いていた失態。
テベスのせいだな。
まあ、気になったら改変するかも。




