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エピローグ:一緒に歩く帰り道。

最終話です。

「進路希望調査票、まだ出してないやつ、早く出せよ」


 朝のHR。

 寝ぼけ眼のままでぼーと黒板を見ていたら、教師と目が合った。


「竹永、お前もだぞ」


 急に名指しされ、「は、はい」とうわずった返事を返す。


 一週間ほど前にもらった調査票。すっかり忘れてた。

 早く提出しなきゃと思ってたけど、まだ何も決まってなかったから机につっこんでそのままにしてた。


 担任が教室から出て行く音を聞きながら、机の中のどこかに行ってしまった進路調査票を探す。


「郁ちゃんは、大学進学?」


 振り返って聞いてくる晶子に生返事で「うん」とだけ答えて、机の中でぐしゃりとつぶれた一枚の紙を見つけた。


「ぐしゃぐしゃだねえ」


 晶子ののん気な声に見届けられながら、机の上に広げた紙を手でのばす。


「どこの大学に行くの?」

「うん……なんとなくは決めたけど」


 晶子が手を口にかざして寄って来るから、あたしは耳を傾ける。


「ほーちゃんと一緒?」

「まさか!」


 大声をあげて否定して、佐村をちらりと睨んだ。

 あたしに背を向けて、向こう隣の男子と肩を叩きあってばか笑いしている。


「どこの大学行くか、教えてくれないんだよ」


 口を尖らせて晶子にささやくと、晶子は「ほーちゃんらしいっちゃほーちゃんらしいね」と呆れた声を出した。


「だから、あたしはあたしの行きたい大学を書くだけー」


 あたしも呆れた調子の声を出す。

 シャーペンを走らせ、大学名を記入していく。

 第一希望、第二希望、第三希望。


「へえ、史学科」

「うん。ちょっと興味が出てきて」


 第一希望と第二希望は共に史学科がある大学だ。

 佐村と東照宮に行ったあの日から、なんとなく歴史に興味が湧いた。元から好きではあったし、興味があるんだから、勉強してみるのも悪くない。


 もう一度しわしわになった紙を引き伸ばしていたら、影が机を黒くした。


「ほーちゃんはどこの大学行くの?」


 机の横に立っていたのは、佐村。ポッケに手を突っ込んで、あたしと晶子を見下ろしていた。


 晶子の問いに、佐村はいたずらっ子みたいな笑みを浮かべる。


「ここ」


 とん、と人差し指が指したのは。


 あたしの第二希望の大学だった。




 ***


「第一希望と第二希望を入れ替えるべきだな」


 肩にかけたカバンを揺らして、佐村は鼻歌交じりにそう言った。

 学校帰り。

 佐村に買ってもらったソフトクリームを頬張って、口を尖らす。


「東照宮に連れてったのって、そういう作戦?」

「まさかうまく行くとは思わなかったけどね」


 あたしが歴史とかに興味がないと思ったから、最初は「ペンションを見に行く」だなんて言ってたんだ。

 嫌なやつ!


「入れ替えないよ。佐村があたしに合わせれば?」

「いやいや! お前、あの大学よりこっちの大学の方がいいんだからな。カリキュラムとかしっかりしてるし。就職率だっていいんだぞ」

「そんなの知らない」

「叶う杉にだって願掛けしたんだぞ」

「そんなの知らない」


 叶う杉に何をお願いしたか聞いた時は『大学合格にカッコして別のお願いをしてる』って言ってた。


「大学合格(竹永が一緒だといいな)」とかだったわけ?


 ……照れるんだけど。


 天邪鬼のあたしは、素直に佐村と同じ大学に行きたいなんて言えない。

 だけど、なんだかんだで、希望の大学は入れ替わる予感がする……。


 なんか、腹立つ。


「そろそろ予備校の時間」


 五月過ぎてから予備校に通いだした。ちょっと遅いかもしれないけど、大学行くなら少しは勉強しないとまずい。

 腕時計を確認したら、遅刻確実の時間だった。


「そういえばさあ、旅行行ったとき、腕時計のこと聞いてきたよね?」


 まだ半分残っているソフトクリームを一気に食べようとしたら、眉間がキーンと痛くなった。


「聞いたっけ?」

「聞いたよ。『腕時計買う時は何を気にするか』って。あれ、なに?」

「ああ、あれね」


 痛む眉間を親指で押さえていたら、ソフトクリームを佐村に奪われた。

 ぱくっと食いついた唇が真っ白に染まったから、あたしはぷっと吹き出す。


「なんだよ」


 ぶうたれて、唇をぺろりとなめる。だけど、まだはしっこに残ってる。


「なんでもないから、教えてよ」

「付き合う時に気にすること」

「え!」


 あたし、なんて答えたっけ? ああ、そうだ。ずっと使えるかどうか、だ。ということは、ずっと付き合える人を選ぶってことだよね。我ながら、なんて素晴らしい答え。


 佐村は? 佐村は……


「手がかかるやつって言ってた!」

「見事に合ってるな」


 いやらしい顔をして笑うから、頬を軽く叩いてやる。ついでに口の端に残ったソフトクリームをとってやった。


 意外と手がかかるのは、佐村もだよ。


 言わないけど。


「ほら、急ごう」

「なんで?」

「予備校、遅刻するだろ」


 いつの間にか、ソフトクリームは無くなっていた。食べるのはやい。


 すっと伸ばされた手をつかむ。


「手がかかるな」

「うるさい」


 急ぎ足で歩き出す。

 ぎゅっと手をつないだまま。


 道路を照らす太陽は温かい。

 誰かと歩く道は、もっと温かい。

 つなぐ手は、もっともっと温かい。



 好きになって、気持ちを告げて、一緒に歩き出した。


 あたしの、はじめて。


 きっとこれからも増えていく、たくさんの『はじめて』。

 佐村と二人で、増やしてく。




 今日もいい天気。

 明日もきっと、晴れるだろう。





お読みいただき、ありがとうございました!

お礼の言葉を並べたら、地球一周しても足りなさそうです(笑)


リンクしてあるブログにて、後書きを書いておりますので、一読いただけると幸いです。

また、お伝えしたいことがありますので、「『空に落ちる。』終わったのか……寂しいな」という方がもしもいらっしゃいましたら、ブログにお越し下さい。


それでは、もう一度だけ。

ありがとうございました!

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