女神達の宴
とある出版社に派遣社員として勤めた時のこと。
今でいう『婚活』の為の本を出しているようなとこであった。
打診を受けた時、嫌な予感がした。
「女性が多いので働きやすいですよ~」と。
女性が多い職場、しかも編集部...それはトラブルが多い職場と私は認識していた(あくまで私の偏見ですので気分を害されぬようお願いします)。それでも受けたのは当時住んでいたマンションから徒歩数分、そんな近所でありながら家と電車出口は逆なので社員の方とプライベートで会うことは少ない、そんなメリットからだ。
働いてみると女性が多いどころか、役員以外は女性であった。
初日、女性社員の方に昼食に誘われた。まあ初日は...とご一緒させてもらった。昼食の会話は主に旦那様への不満。子育ての愚痴。十名程はいたかと思う。それが口々に不満を述べるのだから堪らない。
「あなたは結婚していないのでしょう?気楽でいいわね」
私は羨まれた。彼女達は少し疲れてみえた。
翌日、また別の女性社員の方から昼食に誘われた。
悩んだが、昨日一緒に食事したグループとは別のようだったので一緒にすることに決めた。数名の女性達は皆小綺麗にしていて、はた目には美しかったと思う。が、会話は恐ろしく汚かった。主に結婚批判だった。あのババアども、子供を盾にやりたい放題だ、いざとなれば家庭を理由に辞めるんだからさっさと辞めれば?そんな感じの内容であった。
「あなた、結婚はしちゃ駄目よ。自分のためにマンションを買うのよ」
私は諭された。ピンとこなかったので曖昧に笑った。
三日目、私は朝からお弁当を買っていった。どちらのグループにも関わると面倒、自己保身が働いた。するとお弁当組から声をかけられた。今度はなんだ、と思うと、どうでもいい組だった。結婚も仕事もなるようになる、そんな会話だった。
「あの人達、何をむきになっているのかしら?気楽にやってりゃいいのにね」
私は同意を求められた。さすがにこれに頷くわけにはいかなかった。
四日目以降、私は自宅が近所だとカミングアウトし、自宅で昼食をとることにした。予想通り、全員に疎まれた。
既婚者組からは、疲れを知らないと。
結婚批判組からは、目標が見えないと。
どうでもいい組からは、日和見主義だと。
それぞれが嫌味のように口にし、所詮は派遣、使えないと男性役員に集った。
十日後、私は解雇された。
異例の早さであったが、予測済みだったので私は異議を申し立てずその会社を後にした。
その後何度もその会社は募集を出していたがいっこうに埋まる気配は見えず、最後はアルバイト募集となっていたのを見かけた。
今回この話を書き起こした後、なんとなく調べてみたら今も募集を行っていた。
女神達はまだ、酒宴を続けているようだ。