第11話 蘇生 〔完〕
「❤️彼女の妹 彼女の親友 Ⅱ」(R-15版)
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に続きます。
《《なぜ、彩花を救おうとしたの?》》
三ヶ月前の9月、自分の部屋で、ノートのページを破った。
こう書いたっけ。
宮本悠馬……私を二年前に振った男。
高橋彩華……中高以来の腐れ縁。
神宮明美……二人に翻弄された人生。
と、ノートに書いてみた。つまらない……ページを破った。
そう、2026年9月は「つまらない……ページを破った」だけ。
あの時は、そう思った。ページを破っただけだ。
今は、違う。
「二人に翻弄された人生……つまらない……だから、私は引き金を引いた」
私の過去との決別。
《《なぜ、アヤカを撃ったの?》》
私はなぜ、引き金を引いたのか。
凜花から電話が来た時、「わかった」と答えた。助けに行くつもりだった。本当に。
でも、ピア57に着いた時、私が見たのは——争奪戦だった。
ビル側とM女史側。どちらもアヤカを欲しがっていた。どちらもアヤカの研究を必要としていた。どちらが勝っても——研究は続く。
あの物質が完成すれば、学校給食のミルクに混入できる。工場の製造ラインに紛れ込める。誰も気づかないまま、次の世代の性差が書き換えられる。
ビル側が勝っても。M女史側が勝っても。
止まらない。
財団があれば、研究者は消えても研究は続く。でも——研究者が消えれば、少なくとも、あのナノ・ピコの設計図を持っている人間がいなくなる。
それが、私の「合理的判断」だった。
銃を構えた時、アヤカの前に飛び出したのは明美だった。
私はためらった。一秒か、二秒か。
でも、引き金を引いた。
明美の肩を抜いた弾が、彩花の頭蓋をかすめた。
倒れた彩花を見た瞬間——私の胸に刺さったのは、2018年12月の医務室の記憶だった。
冷たい床から運ばれてきた私の手を、ずっと握りしめてくれていた、あの日本人の少女。
リンカ、ゴメン。
でも、止めるためには、これしかなかった。
《《蘇生》》
ミシェルの銃弾で頭をかすられて、脳手術をした彩花。
意識が戻らず、医師にこのままでは植物人間になる可能性があると言われた。
凜花が真理子を揺さぶった。
「真理子!あなたなら何かできるでしょ!やってよ!何か、やって!」
「こんな状態の人間を生き返らせるって、キングダムの羌瘣じゃないのよ、私……」
「羌瘣とか、言ってないで、やって!」
「……羌瘣みたいに、寿命が短くなるわけじゃないけど、疲れるのよ?」
「いいから、やって!」
「じゃあ、凜花、パンツの中身を私の思いいどおりに一晩していい?」
「パンツだろうが、アソコだろうが、グチャグチャにしていいからやって!ついでに、遥のもやっていいから!」え?また、私も?
「わかったわよ。キレイにアソコ、洗っといてねぇ~」
「オシラサマ、オシラサマ、聞こえ給え。
古き魂よ、汝の無念は知る。
闇の中、禁じられた身の苦しみ、
乾しき欲望、死の淵での叫び。
されど、この世に留まるは、汝自身の解放。
恨みは深く、腹に巣食う怨は果てなし。
汝の名を呼び、汝の鎖を解く。
南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。
極楽浄土から、西方浄土から、戻り給え。
悪しき怨念よ、膿を吐き、影を散らせ。
この子を離れ、汝自身を救え。
オシラサマの慈悲により、生き返れ……
散れ、消え、そして、生き返れ、生き返れ……」
《《目覚め》》
数日後、マウントサイナイの集中治療室で、彩花はゆっくりと目を覚ました。
彩花はベッドの横に座っている凜花を見て、穏やかに微笑んだ。
「あら?凜花じゃない。学校はどうしたの?」
明美が、ミシェルに撃たれた肩を吊って、彩花の側に立った。
「明美……そんなに泣いてどうしたの?……あれ?明美の彼氏の悠馬は?今日は一緒じゃないの?別れちゃったんなら、私がもらって良い?」
凜花は言葉を失った。
アンヌが病室の隅で静かにカルテを閉じた。
「二年間の記憶が……抜け落ちたわね。大学三年と四年……悠馬と付き合う前の状態に戻っている」
凜花が震える声で聞いた。
「姉ちゃん……本当に、全部忘れちゃったの?」
彩花は不思議そうに凜花を見つめ、優しい笑顔を浮かべた。
「忘れたって……何を?」
アンヌは低く息を吐いた。
「頭部外傷による逆行性健忘よ。重いケースでは、最近の記憶がまとめて失われることがある。……幸い、命に別状はないけど」
病室の外では、病院のケースマネージャーがアンヌに説明していた。
「入院費は一日あたり平均で1万ドルを超えるケースも少なくありません。学生ビザ(F-1)の場合、就学が困難になればステータスを失うリスクがあります。保険会社も、できる限り早い本国送還を強く推奨しています」
アンヌは頷いた。
「わかっています。こちらで初期の評価と安定化を図った後、日本への医療送還を手配します。精神科的なフォローも含めて、私が責任を持って引き継ぎます」
真理子はすでにその数時間前に、
「私はこれ以上、NYに用はないわ。凜花と遥、アンヌ先生、よろしくね」と言い残して、自分と女将さん、恵美、明美の帰国の便を手配していた。
残されたのは、アンヌ、凜花、遥の三人だけだった。
凜花は彩花の手を握りながら、窓の外のNYの空を見つめた。
「姉ちゃん……日本に帰ろうね」
彩花は、まるで何もかもを忘れたような、穏やかな顔で小さく頷いた。
すべてが、終わったわけではない。
しかし、少なくとも——彩花は、もう「バグ」をデバッグしようとは思わなくなっていた。
数日後、三人は彩花を伴い、日本への医療搬送便に乗り込んだ。
成田空港に降り立ったとき、彩花は久しぶりに日本の空気を感じて、ほっとしたように微笑んだ。
「ただいま……」
凜花は、姉の横で静かに涙を堪えていた。-
《《その後のミシェルとメアリー》》
ミシェルは、NY州警察ではなくFBIに拘束されていた。
取調室。FBIの査察官が、調書を開いた。
「つまり、高橋彩華を撃った動機が『あの物質』の開発にあった——キミは、それが社会に重大な影響を与えると判断し、開発者を排除して、全てを無きものにしようとしたというのだね?」
「そうです。ある財団が、密かに彩花の研究に補助金を出していました。B&M財団です……」
「……彼と彼女が関与していたのか……証拠は……」
「訴追できるほどの証拠はありません」
「なるほど……そのほかには?」
「NWOという組織の名前までは知りましたが、それが何の組織か不明です」
(米国政府が利用できるものであることは確かだな……どうしたものだろうか?)
調書が閉じられた。
しかし、回収されていないデータがある。あるいは——別の誰かが所持している?
一方、メアリーは財団M女史側の政治力によってFBIから奪回された。
彼女はナノ・ピコ計画に反対だった。彩花とは「別の船」に乗っていると、あの夜、ピーター・クーパー・ビレッジの部屋で確信した。
しかし今、財団の圧力の前で、メアリーは彩花の研究データを引き継ぐことを強いられていた。
研究者が消えても、研究は消えない。
マウントサイナイの研究棟の廊下を歩きながら、メアリーは思った。
(アヤカ、あなたはとっくに別の船に乗り換えていた。でも——その船の設計図は、まだここに残っている)
研究棟のエレベーターが静かに閉まった。
【注意・免責事項】
※本作に登場するすべてのキャラクターは18歳以上です。
※制服・女子高生風衣装・部活動ユニフォーム等の描写はすべて演出上のコスプレ要素であり、現実の未成年を描写したものではありません。
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※本作は医療・倫理・社会的テーマを扱うフィクションであり、特定の思想・行為を推奨するものではありません。
※性的・暴力的要素を一部含みますが、描写は必要最小限に留めています。
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