第6話 渡航準備の彼女たち
《《12月第一週》》
《《第4章、『第1話(5) その夜の明美』の翌朝》》
明美と悟を真理子の部屋に残して、アンヌの部屋で一夜明かした早朝。
真理子に電話した。
「真理子、悟、帰ったわ……」
「あらあら、サッパリした声ねぇ~。何か、あった?」
「ちょっとだけ……」
「何発、やったの?」
な!なんとういう質問!な!何!
「……真理子!そんなこと言わないわよ!」
「あら?性格が変わられましたわね。昨日までだったら、『あの……4発です……』とか答えたでしょうに。で、何発?」
「……6回です……ヘロヘロ、ヘトヘトです……」
「まあ!アンヌ!6発ですって!」スピーカーフォンなので明美にはアンヌの声も聞こえる。
「真理子!いい加減にしなさい!」
「アハハハハ……ええとねえ、明美、まだ居られる?話があるのよ」
「大丈夫ですけど……何のお話ですか?」
「海外旅行に無料ご招待!」
《《2026年9月下旬、北千住「分銅屋」》》
《《『第3章、第10話 性のマンハッタン計画』》》
「父親が娘の様子を見に行くのは自然な話しよね?そうしましょう。それで、その後は……」と真理子がアンヌ先生を見た。「アンヌ、私はアメリカに行ったことがないのよ?」
「あら、そう。私は学会で何度も……そうね、『米国のトランスジェンダー研究における社会的影響調査』というのを大学の理事会に出せば、出張費がでそうね?2人分くらいは?」
「文化人類学の研究生でも?」
「社会的影響調査でしょ?民俗学も必要よ」
「アンヌ、あなた、頭いいわね?」……真理子、それはずる賢いと言います。
「凜花ちゃん、遥ちゃん、こういう悪魔二人をアメリカに輸出したら危険ね?」
「女将さん、アンヌ先生と真理子、ズルしてますよね?」
「東京都も中小企業の海外展開に対して、補助金が出るのよ。このお店、株式会社『分銅屋』なのね。それで、『㈱分銅屋の米国進出事前調査』という名目なら、200万円は出るわねえ……助手が必要よね?物理科の学生が二人?」
「女将さん、それ!私と遥!」
「そうねえ、小池百合子に掛け合いましょうか?」
「あの、ぼくは?」
私、凜花、女将さん、真理子、アンヌ先生が声を揃えた。
「お留守番!」
《《12月第一週、渡航準備》》
明美は、『海外旅行に無料ご招待!』ってなんだろう?としばらく考えていた。
まったく!真中真理子!ぜんっぜん、理解できない!
30分ほどして、廊下から騒がしい声がした。ドアが開いた。
「明美ぃ~、ただいまぁ~」
「……お帰りなさい?」
「うん」真理子がわざとクンクンと部屋の臭いを嗅ぐ仕草をした。「明美、よくルームフレッシュナーの置いてある場所がわかったわね!でも、フェロモンの香りが残っていますわぁ~。6発ですもんね!」
「……」なんて言えばイイの!
「真理子!お止めなさい!」とアンヌが助け舟を出してくれた。ちょっと、アンヌに対しては恥ずかしいのはなぜだろう?
「明美もこういうからかいができるようになったのね。前の明美だったら泣いちゃうものねぇ~。じゃ、もう止める」
「それで、『海外旅行に無料ご招待!』ってなんの話よ?まさか、明美もNYに連れていくの?」え?NY?話が読めないわ。
「あら、悪い?凜花は彩花の妹、遥は凜花の親友、明美は彩花の親友で敵、明美が必要でしょ?彩花並の知識がこっちにも必要でしょ?」
ますます話がわからなくなった。「真理子、何の話か、サッパリわかりませんが……」
「あなたが悠馬に彩花の論文を送った後、9月下旬にみんなで彩花に会いに行こうという計画を立てたのよ」
こういって、真理子は、彩花のパパがNYに出張の折に彼女の会う予定の話、アンヌが『米国のトランスジェンダー研究における社会的影響調査』というのをでっち上げて、自分と真理子との旅費を大学の補助金から引っ張る話(詐欺だよ!それ!)、分銅屋の女将さんという人が、東京都から『東京都も中小企業の海外展開』という口実で、自分と凜花と遥(コンサートに出ていた彼女たち?)の旅費を都から巻き上げる話(これも詐欺だよ!)を説明してくれた。
「それで、私もNYに行けと。彩花に会えと言うの?」
「うん。12月中旬だけど、ダメ?」
「1月上旬の卒論締切が……」
「私も同じ四年だけど、もう書いちゃったわ」
「なんとかなるかも……なんとか、します。彩花に会って聞きたいことが山程あるもの。行きます!真理子」
「じゃあ、アンヌ、今度はお金の話だけど、補助金、どうなったの?女将さんの方の話も聞いてる?」とアンヌの方を向いて尋ねた。
「私は、理事会承認が必要だったから、『特命の社会的影響調査』としてねじ込んだわ。医学部(精神皮膚科)の『持ち回り決裁』を利用したの。あの話のあった2026年9月下旬に申請して、承認に6週間くらいかかったわ。それで、経理の野郎がモタモタしやがったけど、先週、200万円、私の研究室の口座に振り込まれたわ。いつでも使える」
「女将さんの方は?」
「女将さんの話では、東京都の中小企業振興公社などが実施する補助金は、本来、募集期間が決まっているんだけど、女将さんが、ほんっとに都知事に掛け合ったみたい。なんなんでしょうね?彼女のコネって?それで、新規の募集を待たないで、『都知事特命の伝統産業海外展開枠』に潜り込ませたようよ。こっちは、先々週に振り込まれたって言ってたわ」
……この二人の話、なんなの!特に、アンヌ!そういう口実で、大学理事会から金を引っ張れるの?……私も大学院に行ったら真似しよう……勉強になります……。
「アンヌ、これでしめて400万円!」
「だけど、それって、私と真理子と恵美、女将さんと凜花に遥を前提としてなのよ?大学にも都にも明美の名前はないわよ」
「それはプライベートで同行ということで、報告なしでいいじゃん?」
「400÷5は80万、÷6だと67万円よ?」
「コンサートの契約金1500万にユーチューブの収益金があるじゃない?後は、個々人から多少、差っ引く!」えええ?あのコンサートの契約金、1500万円なの?
「……真理子……私もクラシックギター、弾けるの……」
「あら?じゃあ、次があったら、コンサート出る?でも、私の『ゴスロリ文化会』に入会して、パンツみせなきゃ、ダメよ?」
「ゴスロリは、悟も好きみたいだし……パンツの二枚や三枚、いまさらケチる必要もないわよ。入会する!」
「アンヌ、また一人、メンバーが増えたわね?」
「明美かぁ~。目立ちそうだね……私は地味に恵美とアラサーで……って、そういう話じゃない!じゃあ、NY直行便を手配して……」
「アンヌ、あなたぁ~、わ・た・く・しを17時間、座らせておくおつもりぃ~?」
「だって、女将さんとも相談して、大学にも都にも調査ルートで直行便ということにしたわよ」
「そんなの、変更事由申請するのよ」
「どういうルート変更なんだ?どういう変更事由なのよ?」
「ええっとね、考えたんだけど、羽田ーハワイ、ハワイで一泊、ハワイからは米国国内便でNYのJFKまで。全部プレエコクラスで。本当はビジネスにしたいけど、資金が足りないわ……」
「で、変更事由は?」
「ハワイ大学の教授にお願い済み。アンヌと女将さんの調査目的に合致する教授を紹介してもらった!で、お土産を持っていって、ご挨拶して、30分でずらがって、海岸へ、ということ……」
「……この、悪魔!」とアンヌが怒った。本当に、金勘定のできる悪魔ね、真理子は。
「それで、直行便だとフライト時間は17時間。耐えられないわぁ~。ハワイ、トランジットだと、羽田ーハワイが7時間、ハワイーNYが10時間、なんとか我慢できますわ」
「まあ、その方が私も楽だわ。わかった。女将さんに説明する。でも、金額差は?」
「トラベルサイトにもう押さえてあるけど、直行便で34万円、ハワイトランジットでホテル代含めて、41万円。差は7万円。滞在は実質NY一週間としたけど、帰国便はオプションをつけて、変更可としてあるわ。ハワイからは国内便。NYでは、イミグレ要らないわよ」
真理子がタブレットを見せた。
12/15 (火):羽田発ーホノルル着、ハワイは現地で12/15朝
12/15 (火):ハワイ滞在(1泊)
12/16 (水):ホノルル 発、JFK空港 着
12/18 (金)~12/24 (木):NY滞在
12/25 (金):JFK空港 発、ホノルル 着
12/25 (金):ハワイ滞在(1泊)、NYの調査結果をハワイ大学の教授と討議……名目よ!
12/26 (土):ホノルル発
12/27 (日):羽田着
※日付は現地時間
「なんだ、たった7万円か。それくらいなら……おい!ちょっと待て!予約を押さえてあるって、明美は?」
「もちろん、みんなと一緒に押さえたわよ」
「真理子!いつから、明美も連れていくって考えてた?」
「9月からですわよ」
「……あんた、みんな視えていたの?」
「ええ、もちろん。いけません?」視えていたって何のこと?
「明美もこの予定でいいわね?準備してよね。ハワイの水着とNYの防寒着。得意分野でしょう?」
「もう、『海外旅行に無料ご招待!』なんですから、文句なしです。おまけに、ハワイ!」
「アンヌもみんなに水着と防寒着の準備言っておいてね」
「わかった……あれ?水着……」
「明美と一緒に買いに行けばいいしぃ~、現地調達でもいいのよ」
「了解だ!」
「ところで、明美?6発、詳しく教えてぇ~」
「真理子!言わないわ!言うもんですか!」
「あっ、そう!じゃあ、悟に聞くもん!」
「わ、わかったわ……わかったわよ……あのねえ……」
私は、真理子の執拗な質問に、一挙手一投足を白状させられた。満足気に舌なめずりする真理子。
アンヌがボソッと呟いた。
「明美……悟、ちょっと、貸して……」
やれやれ。
【注意・免責事項】
※本作に登場するすべてのキャラクターは18歳以上です。
※制服・女子高生風衣装・部活動ユニフォーム等の描写はすべて演出上のコスプレ要素であり、現実の未成年を描写したものではありません。
※当シリーズの作品はすべてフィクションであり、実在の事件・人物・団体とは一切関係ありません。
※作中に描かれる出来事は、詳細な描写を意図的に抑制しています。
※本作は医療・倫理・社会的テーマを扱うフィクションであり、特定の思想・行為を推奨するものではありません。
※性的・暴力的要素を一部含みますが、描写は必要最小限に留めています。
※苦手な方は閲覧をお控えいただくことをおすすめします。
※本作は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※飲酒・喫煙の描写が含まれます。




