14.漢、結婚式当日(その肆)
かつて狼人ルゥナーが率いる暗殺団があった。表の社会へ出るに出れない事情の者を集めていく。生きる手段として裏の仕事を学ばせていくうちに大所帯となった。そこで頭領のルゥナーは個々で突出しがちな暗殺者を部隊でまとめられる人材を欲す。異世界人としたのは、偶々だ。
異世界召喚とは、どういうものか。頭領ルゥナーは探りの意味も込めて依頼してみた。裏の世界であれば、怪しげな伝手は多く持っている。
場所は伏せられていたが、だいたいの見当はついていた。
賢國だろう、と。後に賢都アドナイの外れにある経堂で行われていたと調べがついた。
帝国のユラン皇帝治世下が異世界人で占拠されていたら? 賢國との繋がりも納得できる。
召喚されたセネカは優秀だった。かつての世界では軍人というものに属していたが、暗殺団の仕事はまさに望んでいた内容だったらしい。熱意もあれば、立場も伸し上がっていく。優秀すぎたとも言える。面白くない者も出てこよう。そこを裏の暗殺団は上手く突いた。
「セネカも誰かの手に踊らされていたなど思っていないからな。暗殺団から向けられた刃は王女暗殺失敗続きの償いと考えたようだ」
プリムラを左腕にユリウスが、おまらの企みなどお見通しだぞ、と教えてくる。
祭司という仮面を被る裏の騎兵団員は歯噛みした。
「なんと、アサシンが暗殺に失敗したというのか。ゼノンとか言ったか、使えないヤツだ」
「むしろそこはセネカの反射神経と潜伏の日々を送れる能力を評価してやれ。おかげでバザールと知り合いになったから、失敗の責任でなく裏切りと見て殺害の許可になったことがわかったぞ。やはり人は簡単に命を諦めてはならんな」
はっはっは、と高笑いで締められた。
ユリウスにすれば会心の出来とする披露であったが、先方は何やら不審げに顔を曇らせている。なので、訊いた。
「どうしたんだ、何か嫌なことを思い出したか。婚約破棄でもされたか」
これまでの相手は、ふざけるな! とばかり返ってきた。今度の相手は裏の騎兵団である。よく情報収集がなされているせいか、ユリウスの定番に慌てない。ただ一点の疑問について問い質すだけだ。
「バザールとはヴァルキュリアなどと名乗っていた女が飼っていた犬なはずだが……他にもその名を持つ人物がいるのか?」
「それは教えられんな。ヤツが暗殺団の頭領をしていた時分に、配下にまで隠していた変名は今後も使うかもしれん。俺はバザールのために配慮するぞ」
ついに名前どころか本人の経歴までおかしな方向で断言していた。
不幸なことに裏の騎兵団員は、それで納得していた。誰のことか予想つくとして、隠し事くらい見切っているで終わってしまう。ユリウスの天然ぶりはどれだけのものか、見立てが甘い限りだった。
何よりそろそろ暗殺の実行に移すべきと結論へ行き着いた。
祭司服の裏の騎兵団員が不敵な笑みで、花婿へ告げる。
「さぁ、話しは終わりだ、闘神ユリウス。王座へ就く前に、逝くがいい。残念だったな、人生最高の瞬間に終わりなどとは。せめて美しき花嫁と共に逝かせるが、我らの手向けだ」
はっはっは! とユリウスの高笑いが礼拝堂内に響き渡った。
裏の騎兵団からすれば、またかと思ったが、なんとなくだ。これまでと違う響きにも聞こえる。思い過ごしでないことは、笑っている本人から伝えられた。
「いい加減に気づけ、おまえら。俺は、いや俺たちは裏の騎兵団の存在に気づいていた。おまえたちから抜け出して俺のところへ来た者もいるんだ。どうやら帝都、いやこれからの王都に潜伏している情報は得ていたぞ」
祭司服の裏の騎兵団員から笑みが消えた。
「ま、まさか、闘神ユリウスは自らの結婚式を利用してまで……」
「おぅ、わかったか。そうだ、おまえたちを誘き寄せるためだ。これが俺の、王としてやっていく覚悟だ。だがそうできたのも、我がこん……妻のプリムラの力添えあってこそだ。俺は幸せ者だぞ」
まだ優勢を信じる敵は勢い込んで言う。
「しかし結婚式では武器など持ち込めない。我らを罠にはめたと言っても、手ぶらでいかんとする。闘神ユリウスと花嫁には直ちに毒矢で逝ってもらうとしよう」
危機感ゆえ即座に実行とする。暗躍してきた裏の騎兵団だけあって、早い。
けれども王国の記録官ウィリアムは後に記す。
ユリウス王は家族並び昔からの仲間に関したら、常とする以上の強さを発揮する。
妻の、プリムラ王妃が絡めば無敵になる。
祭司服の裏の騎兵団員は当初、事態がよく呑み込めなかった。
花婿が右腕を頭上へ掲げた。
なぜかと思う間もなく、吹き矢を咥えた首が飛んでいる。ことごとく刎ねられている。斬れ味が鋭すぎたせいだろう。半瞬の間が置かれた。それから一斉に血飛沫を立てている。どさり、取り囲んでいた黒づくめ騎兵団兵の胴体は頭を追うように床へ倒れていく。
我に返った祭司服の裏の騎兵団兵は見た。
血塗られた大剣を右手に、花嫁を左腕にした、圧倒的な気を放つ闘神の姿を。
恐怖にも似た感情に心臓が鷲づかみされれば、意識を保とうと口が自然に廻る。
「バカな。結婚式は大事だろ。二人にとって神聖な儀式なはずだ。なのに自ら血で汚す真似を仕出かすなど……信じられん」
はっはっは! ユリウスが高笑いしてくる。もうまたかなどと思わない。心の底から恐ろしいと感じる。
「俺とプリムラ、出会いからして血に塗れていたからな。安心しろ、俺たち夫婦に普通は似合わない」
安心などするわけがない黒づくめの裏の騎兵団兵は戦闘体勢に入った。こちらは二百近くの数に対し、相手は男一人だ。しかも女を片腕に抱えているときている。
いくら闘神相手でもこちらの優位は動かない。
そう思った時に、新たな人影が過ぎる。
裏の騎兵団に属していれば知らないはずはない人物たちが、ユリウスを囲む形で舞い降りてきた。




