15.漢、結婚式当日(その伍)
次々に舞い降りてくる分だけ死がもたらされた。
長槍に突き刺され、棍棒で殴られ、長剣で斬られ、矢で射抜かれる。黒づくめの裏の騎兵団員は為す術なく倒されていく。
祭司服の裏の騎兵団員はうめくように問う。
「おまえたちは賢國の侵攻に備えて国境へ行ったのではないのか」
ふっとイザークは、グレイがいなくて良かったとするキメ顔を決めた。
「いい加減に察したらどうだ。いやわかっているからこそ、理解したくないようだ。この結婚式が帝都に巣食う暗躍者たちを一網打尽の機会と狙っていたくらい、想像がついているだろう」
反論できないから別の話しで批難する。祭司服の裏の騎兵団員は上方へ視線を向けつつだ。
「なんということだ。神聖な礼拝堂に細工などと……この野蛮人どもめ」
天井が観音開きに作り変えられていた。ユリウスたちの頭上は、ぱっかり開いて扉がぶらぶらしている。大剣を落下させ、四人が降りてきた痕跡だった。
おいおいとヨシツネが呆れている。
「ここで襲撃かけておいてよ、よく神聖とか言えるよな。てめぇの都合で権威を利用する典型的なヤツじゃねーか」
まぁまぁとベルはなだめつつも、はっきり嘲笑を浮かべた。
「この人たち、信じるけど信念はないんじゃない。自分に良ければ、どの国でもいいみたいだし」
これには反駁があった。
「確かに我々は主を替えるかもしれない。だが人間こそとする根本は不変だ。亜人なんぞとは間違っても手を組まん」
熱り立つ祭司服の裏の騎兵団員に対し、のどかな笑い声が上がった。ふぉっほっほ、とアルフォンスが穏やかに憐れむ目つきを向ける。
「お主ら誰一人気づけなかった天井の細工はドワーフの腕前があってこそだのぉ。勝手に壁を作って世界を狭くしたせいで足元をすくわれたようだのぉ」
「確かに我々はハメられた。けれどもこの人数だ。たかだか五人に遅れは取らん」
鞘から剣が抜かれる音がした。ついに祭司服の裏の騎兵団員も戦闘体勢へ入った。
けれども過小な数の相手は怯むどころかだ。
花婿花嫁両人を囲む四人の表情は不敵を描く。
はっはっは! 肝心のユリウスは扉の開いた天井を突き抜ける高笑いした。
「旅した経験で、俺は学んだぞ。おまえたちくらいが相手ならこの人数、五人で大丈夫だ。それに四人が加わったら負けるはずがないと確信できるぞ」
なにを、と祭司服の裏の騎兵団員は訊きかけた。が、訊くまでもなかった。
どこからともなく手裏剣が飛んでくる。黒づくめとする格好の相手でも正確に急所を突いていく。用心していたはずの忍びの攻勢を、選りによって敵が体勢を整えたなかで許してしまった。
もはや方策などと考えている暇はない。ただ、殺せと命令するだけだ。
結果は語るべきもない帰結を見ていた。
※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※
礼拝堂内は血の海だった。黒づくめの格好をした屍体が累々と積み上げられている。
残るは祭司服の裏の騎兵団員、ただ一人だった。尻もちをつく体勢で、ヨシツネの剣先を前に怯えを隠せない。恐怖に支配されれば、声を失うか、もしくは気を紛らわすため喚くか。現在の相手は後者に属していた。
「結婚式でこのような蛮行を……闘神ユリウスとその妃は呪われてしかるべきだ。神聖な場でこれほどの血を流すなど、あり得ん」
剣を突きつけるヨシツネはうんざりしたように背後へ訊く。
「まだこいつ、こんなこと言ってますよ。どうします、もうやっちゃいましょうか」
答えたのはイザークだった。
「待て。いちおう今回の暗殺における情報は欲しい。尋問が終わるまで生かしておこう」
殺せ、今すぐ殺せ! と、唯一生き残った裏の騎兵団員が叫び訴えてくる。
するとメイド服の侍女が侮蔑そのもので言う。
「なんですの、あなたわ。裏に生きる者ならば敵へ証言を与えるくらいなら自害するでしょう。所持していた毒を隠し持っていないのですか?」
返事はなかった。がっくり首を落とすだけである。本来からの暗殺者ではなく、配属先とした立場だから覚悟は弱い。
いいじゃないかとユリウスがプリムラを片腕に提案してくる。
「話してくれた内容次第で今後の身をどうするかを決めるで、どうだ。俺としては死にきれないという選択も悪くないと思うぞ」
福音に相当したことは、祭司服の裏の騎兵団員が上げた顔で知れた。程なくしてやってきた警備兵に連れて行かれる姿は、絶望どころか活気さえみなぎらせている。良い証言が期待できそうだ。
連行されていく様を見送れば、イザークはさっそくだ。
「これはプリムラ王女の……いや失礼。プリムラ王妃殿下のお考えですか?」
「いえ、わたくしはこの件に関しては何も意見を述べておりません。ユリウスさま自らのお考えです」
にっこり、プリムラがユリウスの腕に乗ったまま返してくる。
ふむとイザークは左手を顎に当てる。どうやら敵の助かりたい一心へつけ込んだわけではないらしい。こちらとしては帝国と賢國の暗部を喧伝できる証言が得られればいい。真実よりも、暗躍の機関が存在した証明になる人物の口から語られるならば中身は誇大でいい。生かしておいたほうがむしろ好都合だ。だが提案者は王国へ有利になる発言を引き出したくて助けたわけでなかったようである。
ユリウスらしいな、とイザークが感心の目を向けた矢先だった。
「あの野郎、もしかして祭司でなかったりするのか。だったら俺とプリムラはまだ式を挙げてないことになるぞ。どうしてくれるっ!」
今さらそれ言うんだ、と誰もが心のなかでツッコむ。そもそも帝都に潜む裏の騎兵団を炙り出す目的を、式の前に充分なくらい確認し合った。
が、ユリウスの怒りは本物だ。ただこれくらいならイザークにすれば対処はたやすい。
「ならば、また式を挙げればいい。二人が嫌でなければだが」
はっはっは! と礼拝堂に響き渡った。
答えを聞くまでもなかったが、高笑いの本人が「何度でもやるぞ」なんて言うからヨシツネが余計なことを口走る。
「それって他の妃を迎えるというわけですか、それか何度も離婚されるとか」
これに対するユリウスの反応はもう騒がしいにもほどがあった。
「バカヤロー、プリムラだけだ」と怒りで真っ赤になって震えだしたと思ったら「でも俺のようなヤツは何度もプリムラに捨てられそうだ」とめそめそしだす。
お妃様はこれから大変そうだ、と口には出さない周囲の見解だ。
ただイザークだけは、ユリウスは面白い! であった。
こうして新たなハナナ王国は始まった。
ユリウスらしい前途多難な王の門出であった。




