9.漢、驚きの告白す(え、いつの間に)
賢國へ亡命した帝国民の主は貴族だった。上級という追加条項も付く。
特に公爵や侯爵の階級にあり、かつ騎士団長を多く輩出した家系は隣国へ移った。皇帝に近かった者たちほど、といった次第である。
先の王国侵攻戦で生き残った騎兵団は八個だった。うち五個が賢國へ移った。今さらユリウスの下に就けない、王国よりはマシとする判断か。けれど長きに渡って戦争を繰り広げた相手国である。ここまで大量の亡命者が生まれたら闇を感じずいられない。
また亜人と共生の方針も反勢力の原動力になっていた。
帝国や賢國どうこうより亜人の進出を許容しかねる理由で亡命する数は多かった。こちらは貴族階級以外の民が大きく占める。思想は政に参加していない平民階級へ意外なほど浸透していたようだ。
賢國も先の王国侵攻戦で大きな損害を受けたが、帝国民により補充は叶った。
油断はならない。
もうすぐユリウスの結婚及び戴冠を同日とする大規模な式が行われる。無事にすめば帝国の版図はハナナ王国へ正式に塗り替えられる。ロマニア帝国は完全に消滅するとなる。
式典へ向けて活気づく一方で不穏な空気も漂い出していた。
賢國に動きが見えた。まだ帝国とする国境へ兵団を集結させつつある。
先の王国侵攻戦で賢國の騎兵団は半数以下まで減らしたものの、亡命してきた帝国騎兵団が加わっている。兵数なら以前近くまで回復していそうだ。
対して王国に恭順を示した帝国騎兵団は三個だった。アスペンとシュナイダーが騎士団長に就く第三と第八だ。両方とも階級は男爵である。下級貴族であり、帝国に対する忠誠心は普通だった。イザーク辺りに言わせれば、知らない国上層部よりも直近の指揮官とする部隊だった。どちらも麾下の騎兵たちは国家より騎士団長に信任を寄せていた。第一は騎兵団統括長へ叩き上げで昇ったヘッセン騎士団長であるから、元からして信頼が篤い。
それにユリウスの第十三がいる。しかも龍人族の騎兵団も加わる。
賢國が数で圧倒しようとも、王国侵攻戦のような戦力差はないと見える。
それでも新たな王による国家誕生の阻止へ、不気味な前兆を漂わせてくる。
ヨシツネにすれば、往生際が悪いにも程がある。ベルにすれば、でも放っておけないと闘志を燃やす。復活のアルフォンスは、ふおっほっほ! と笑うだけだ。
久々に全員がそろった再会もイザークの出した深刻な話しを中心としている。
「俺も陣頭に立つべきではないか」
腕を組んでユリウスがテーブル席の奥に陣取っている。本来なら皇宮の広間で玉座に腰かけてでも良かったが、本人がまだ落ち着かないそうだ。皇帝の椅子は小さすぎて、新しいものを受注中である。まだ帝国民であった頃によく通された控えの間を使用とした。
馴れた場所というのもあるが、他にも理由がある。
「お待たせいたしました」
鈴の音を転がすみたいなプリムラの声で会議は中断となった。緑に白いエプロンをかけた軽装でワゴンを押してくる。同様にメイド服のツバキが続く。皿の料理は湯気を立てていた。厨房に比較的近いが、この部屋を選んだ理由でもあった。
うまそう、とヨシツネが挙げれば、ともかく今は食事となった。
いつもならこのまますんなりテーブルを囲むとなるが、今回はミラが付いてきている。昔から宮中に詰めるお局の位置にあれば、小言めいた具申が行われた。
「ユリウス様。先ほどお聞きしましたが、プリムラ王女殿下は妃になられても出来るだけ厨房に立ちたいとのこと。よろしいのですか」
「もちろんだ。これからの俺はプリムラの料理を楽しみに生きるとしよう」
「けれども皇妃……ではなくて王妃になられる方に下々と同様、家事を行わせるなど、宮中に務める者として心苦しさを覚えます」
「すまないが、ミラよ。王と言っても俺は所詮、成り上がり者だ。正直なところ、これからの身分に窮屈を感じることが多そうだ。そんな俺に妻が身の回りの世話を焼いてくれたら、どれほど和らぐだろうか」
わかりました、とミラが神妙に了解するだけではない。随行してきた宮女と共に下がっていく、ツバキは残して。心置きなく話せるよう配慮が示されていた。
ありがたいな、とユリウスはしみじみ口にしていた。ミラ以下宮女が消えれば、天井へ向かって声をかける。降りてこい、一緒に食おう。
返事はなかったが、すでに椅子へ座っていた。あんたたち……、とツバキの不服など意に介さずハットリとサイゾウはスプーンにフォークを握りしめている。えへへっ、とキキョウはベルの横に座っていた。
長テーブルに一同が揃って、食事をする。賑やかにならないはずがない。
盛り上がれば、お調子者が存在感を発揮しだす。
「ところで、団長ぉ〜」
ヨシツネが酒でも入っているのかような絡み方をする。ユリウスが返事をする前に質問をぶつける。
「前住んでた屋敷を見にいった時は姫さんと二人きりだったんですよね」
「そうだ。イザークの魔の手から逃れるために誰にも内緒で、プリムラとだけで行ったぞ」
魔の手でくるか、とイザーク自らの指摘は無視してヨシツネは口許を歪める。にやりとするが、とても笑いに見えない。そうっすっかー、二人きりっすかー、と意味深を強く含ませている。悪い奴と化していた。
当然ながらユリウスは反応する。
「なんだ、ヨシツネよ。何を企んでいる。せっかくプリムラが作ってくれたんだ、俺の分はやらないぞ」
料理を奪われる話しになっていた。違いますよー、と少し調子を外されたヨシツネだったが、すぐに気を取り直した。
「聞きたいのはー、例の件ですよ。団長が一時期とても悩んでいた姫さんにする愛の誓い! ってやつですよ」
あらっとプリムラがぽっと頬を染めた。
ユリウスと言えば、怒りを甦らせていた。
「そうだ、そうだぞ。ヨシツネ、キサマのせいだ。あの時、初チューの邪魔をしてくれたおかげで、その後はなかなかタイミングが取れなくなってな。えらく時間がかかってしまったではないか!」
未だ根に持たれていることも、さることながらだ。
時間がかかった? ということは……と考えた者はヨシツネだけではない。ここに集う全て者の頭を占めた。
いつ、どこで? と誰が口火を切るかだけの状態だった。
口にした者は一番早く誘惑に負けた者がした。




