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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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46.漢、愛を説く(敵にもそうだろと言う)

 うおおおぉおおおー! 雄叫びを上げてユリウスは派手に大剣をぶちかます。


 もろに受け止めた盾の隊は後ろへ引きずられていく。十人が密集しても押されてしまう。


 けれども賢國(けんこく)騎兵団にしたら、後ずさるくらいは計算のうちである。防御陣は瓦解しなければいい。ユリウスに大剣を振り切らせたタイミングで、第三将軍ガストンと第六将軍テリオが剣で打ちかかる。矢を降らせる。後続に剣や槍を持った騎兵も控えている。


 九個の賢國騎兵団が総出でユリウスを襲撃する形だ。


 さすがのユリウスでも前進は難しい。倒されないだけでも、さすがと言えた。


「惜しい、誠に惜しいな、ユリウス騎士団長は」


 打ち込んだ剣を弾き返されたガストン将軍が無念としている。


 向かってくる他の剣や槍をユリウスは払いながら応じた。


「なにがだ。俺を惜しんでくれるような婚約者はプリムラしかいないぞ」

「そっちではなく武人としてだ。それほど優れながら悪種の者たちに洗脳されてしまったことだ。亜人などに育てられなければ、ここで命を終えることもなかっただろうに」

「安心してくれ、賢國の将軍よ。名前を忘れて申し訳ないがな」


 ガストン将軍は賢國随一の剣の遣い手とされる。賢國騎兵団の中で最も重い剣を使用している。賢國内で闘神(とうしん)と正面から打ち合える唯一の人物と目されている。所謂ライヴァルと見られているわけだが、肝心のユリウスは名前を覚えていないとくる。


 ガストン将軍のいかにも荒武者とする風貌が不機嫌で染まっていく。


 そして残念ながらユリウスはちっとも相手の様子など気にしない。申し訳ないなどと、とても思っているように見えない。やっぱりとする相変わらずな内容を口走る。


「何度か対戦していたら、俺も憶えていただろう。だけどあれだ。何度戦っても印象に残らなければ無理だけどな」

「もう五回以上は戦っているわ! 一対一でやり合ったこともある」


 ショックと相まってガストン将軍は苛立ちを隠せない。しかもユリウスが戦いながらも「ホントか?」と疑ってくる。真剣だから、なお腹が立つ。指揮する立場を忘れなかったから感情を抑え、相手に続きを促す。


「それでユリウス騎士団長は、何を安心だと言うのだ」


 そんなことかとする顔のユリウスは周囲の賢國騎兵を薙ぎ払ってからだ。


「俺は亜人に育てられたが、人間だろうが亜人だろうがろくでもないヤツはいるし、もちろん良いヤツはいると考えられるぞ。だから安心してくれ」


 するとガストン将軍は何もわかっていないとばかり鼻で笑う。


「亜人を人間と同等の目線で見るなどが笑止千万だというのだ」

「なんだ、やっぱり俺の育て親は立派だったようだ。おまえの話しを聞いてつくづくそう思うぞ」


 良かった良かったと首をこくこくするユリウスが、ガストン将軍にすれば無性に憎たらしい。思わず声を荒げてしまう。


「何が言いたい、ユリウス騎士団長は」

「わからないのか、じゃあ、教えてやろう」


 ビシッとユリウスは大剣の先をガストン将軍へ向ける。


「俺の育ててくれた翼人(つばさびと)は亜人にも関わらず人間も含めての考え方だった。おまえのほうは親なのか国からかは知らんが、人間のみしか見ない考えだ。いろいろ考え方があるのは勝手だが、洗脳などとのたまうならば俺ではなくキサマのほうだろう」

「亜人が己の種を持ち上げるため、敢えて人間と平等などと詭弁を弄したのだろう」

「言っておくが、人間だったバカ親父も亜人は同じだと言っていたぞ。ただこっちはいい女に人種は関係ないという論調だったから、言いたくなかったんだっ!」


 自爆で締められても聞く方は困る話しだ。ガストンは将軍と呼ばれる地位まで昇り詰めた人物だから、取り敢えず流した。大事なことを忘れていない。

 ここにいる賢國騎兵団の将軍へ通達を響かせる。


「ユリウス騎士団長は悪種にすっかり染められているようだ。やはり抹殺せねばなるまい。しかも今は討つには又とない好機だ。ここは一気に決めるぞ」


 九個の賢國騎兵団が陣容を再構築する。まさにユリウスのみを標的とした陣形だ。


 傷が深くツバキに肩を支えられて立つだけのヨシツネだから察せた。もし戦闘中だったらユリウスの前面を見渡せなかった。


 このままではまずい。いくら闘神と呼ばれる団長でも十五万近くの騎兵による一斉攻撃は耐えきれないだろう。だがユリウス騎兵団のほとんどが後方から迫る帝国兵の攻勢に追われている。今は気迫と団結力で凌いでいる状態だ。


 あとどれくらい保つかな、とウイン皇弟の嘲笑も聞こえてくる。


 不意にヨシツネの耳元でルゥナーが囁く。あと一回なら変身できる、と。


「いいのかよ、それ。絶対に生きて帰れねーぞ」


 敵のど真ん中へ飛び込んで、ユリウスを狙う陣形を撹乱する。特攻であればとても生きて帰れない。ヨシツネは麾下に就くとした時点で覚悟を決めている。ルゥナーは先の旅で知り合ったばかりだ。昔の自分なら考えられない躊躇が出た。


「賢國の人間原理主義は聞き及んでいたものの、ああ大っぴらに宣言されるとなかなか腹立たしいものだ。亜人のこれからのためにも、ユリウスを生かすほうへ賭けたい」


 ルゥナーに甘えるしかないとヨシツネは腹をくくった。けれどもツバキの申し出にはそうはいかない。


「私もルゥナー様に乗せていただきたいですわ」

「バカ。ツバキを連れていけるわけないだろ」

「なぜですか。私はニンジャ。一緒のほうが確実に戦果を上げられますわ」

「そういうんじゃなくてよ」

「私は姫様のためならば命を捨てても構わない侍女であること、お忘れですの」


 わかってはいても承服は出来ないヨシツネだ。苦り切っていたら聞こえてきた。


 はっはっは! ユリウスが高笑いを轟かせてくる。


 今度は一体なんだと敵も味方もなく視線を向けた。窮地の挙句でトチ狂うなどは決してない人物だけに、何を言い出すか気がかりだ。


 おい、おまえたち! とユリウスは賢國騎兵へ呼びかける。


「俺はおまえらみたいに、ふわっとした理由で戦っていないぞ。俺はプリムラを殺そうとしたあいつを討つ。愛するプリムラのこれからを思えば、ウインの野郎は絶対このままにしておくわけにいかないからな」

「なんだ、その個人的な感情は。我々賢國の大義に対し、あまりに卑小な限りだな」


 呆れたガストン将軍だが、すぐに態度を改めた。


 大剣をユリウスが両手に持ち直す。ぐっと腰を落とし、下から薙ぎ払える体勢を取る。

 それから無骨な顔立ちに揺るぎない微笑を浮かべた。


「世の中のためなんかより、一人の女のためのほうが力は出るものだ。世間の声なんかより好きな女の顔を浮かべたほうが熱くなれるものだ。本当はおまえらだって、そうだろ?」


 返事はない。


 やや間が置かれた後、ガストン将軍が沈黙はまずいと口を開く。


「グノーシスの賢國民は人間として崇高であるべきの教えを胸に抱く。世界を正しい方向へ導くための行動を何より尊ぶ」


 すると今度はユリウスのほうが呆れ果てていた。


「なんだ、その退屈な学校の講義みたいな話しは。人を愛したことがなくて、そんなことしか言えないなら気の毒だな。だが同情しないぞ。俺はプリムラのために、ここを押し通ってウインを討つ」


 賢國が再構築した陣形を、ユリウスは睨みつける。大剣を構えから、たった一人で向かっていくつもりだ。無謀なはずだが、もしかしてと味方が思うだけではない、敵もまた、バカなと思わない。むしろ突破されるかもしれないと考えてしまう。


 一対十五万。相手にならない戦力差にも関わらず、これ以上にない緊張感がみなぎる。


 今この瞬間にも破裂しそうな対峙が展開していた。


 破ったのは、しかしユリウスでも賢國でもなかった。


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