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導く淡い光

 床に倒され、私より大きいデュークの重い身体が全身にのし掛かる圧は、どれだけ払い除けようとしても無駄な足掻きなのだと知らされる。


 そうだ、この重みを私は知っている。


 あの貴賓室で起きた事、感じた恐怖感、全てが私の脳裏にしっかりと焼き付くされていたのだ。

 池に突き落とされた時も、全身を刃物で刻まれた時も。


 こんな記憶、思い出したくなかった。

 残酷な絶望感を味わいながら死んで行くのなら、何も知らずに首を絞められたまま気を失っていたかった。


 だとしたら、デュークとジャクリンの方法は間違っていなかったわけだ。


「目を開けろ、フロタリア。 しっかりとその目で、ネヴィルではない奴に捧げて死んで行く様を見ながら逝け」


「貴方の愛するネヴィルとエマは今頃、同じ事をしているのではないかしらね?」


 人間はこんなにも残酷で、こんなにも簡単に全てを捨てられるのだ。

 いや、本当に残酷なのは私なのだろう。 私のせいで、二人は地獄へと堕ちて来たのだから。


 ここで知り合ったデュークは優しくて、私の知らない書物の世界をたくさん教えてくれた。 その表情は温和で、もしかしたら友人になれたかもしれない。

 同部屋になったジャクリンは明るくて朗らかで、塞ぐ気分をいつも上げて慰めてくれた。

 彼女がいなければ、私はこの学校を楽しむ事はできなかったと思う。


 それが全て私を追い込む為の偽りだったとしても。


 私は確かに救われたのだ、この二人に。

 だから、もういい。 ネヴィル様とエマ様が自らの幸せを選ぶのはわかっていたから。

 私にとってネヴィル様は絶対で、エマ様は温かかった。 私には彼女がネヴィル様を奪った憎むべき相手だとは思えない。

 どうしてだか、二人が笑い合う光景を思い浮かべると、心底ホッとするのだ。


「何を考えている、フロタリア」


 不思議と何も感じない。 恐怖も抗う感情すら湧いて来ない。


「貴方達には私の信念も愛情も幸福も奪う事はできません。 例え、このまま死んだとしても地獄の転生を味わったのだとしても、私はやはり幸せだったと言えます」


 下から見上げる私をデュークは無表情でジッと見下ろす。


「もういいわ。 もう、たくさんよ。 この女は今すぐ殺す。 八つ裂きにしてやるわ」


 地獄の釜で茹でられているような奇声でも発狂でもない。 まるで嫉妬に狂った怨念の声だ。


 ジャクリンは私に跨がったデュークの身体を払い除けた。

 そして代わりに跨がり、首に両手を掛けて今度こそ強く絞めに来たのだ。



 ☆ ☆ ☆



「デューク、ジャクリン。 そこまでですよ」


 意識が薄れ行く中、ジャクリンの手が止まった。 デュークも気付いたらしく辺りを見回している。

 部屋のドアは閉まったままだ。 なのに聞こえるのは声だけ。


「え、何?」


「誰だ!」


 あるはずのない靄で霞み始め、妨げられた視界で目の前すらよく把握できない。

 他には誰もいないのに妙な気配が漂う。 そう感じたのは私だけではないらしい。


「何、何なの?」


「ジャクリン、お前ではないのか?」


 声の主と気配の気味悪さが部屋中を包む。

 声は一人きりなのに、気配は数人感じるのだ。


「こんな時に冗談言わないで!」


「フロタリアか?」


「この女がこの状態で喋れるわけないわよ!」


 すると、キラキラと光る白い結晶のような何かが私達の周りを囲んで行く。


 それは最初ふわふわと浮かびながら次第に数を増やし、いつしか大きな一つの、人の形へと変化する。


「まさか、そんな……」


「デューク、何よ。 何だって言うのよ!」


「審判者だ……」


 こんな時なのに、まるで図書室で読んだおとぎ話のような、主人公の危機を救いに来る救世主のような、そんな夢を見ている気がした。


 それは明らかに数体に分離し、顔の無い人形へと形を変える。

 職人が息を吹き込むような勢いで、ついには朦朧とする私の意識ですらわかるほどに確認できた。


「フロタリア様」


 全身を黒に包み、この世の人間とは思えない風貌で彼女の回りを囲む男達。


「コ、ゼッ……」

お読み頂き、ありがとうございます。

評価、ブクマ等お待ちしています。


残りあと二話ほどです。

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