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三吉友美の事件簿 Fの悲劇  作者: 大瓦 啓介
8/12

7 ダイニングにて

某駅弁大学の同好会「推理小説を書こう会」は春本らが設立した同好会で、春本はその後輩たちの面倒をよくみている。特に村上金吾・丸山竜兵を気に入ったらしく、その関係から錦戸涼治・前田秋奈・小嶋優布子らも学生時代からよく出入りしていた。


なかなか就職が決まらなかった小嶋を秘書に雇い入れてからは、4人はかなり頻繁に出入りするようになった。


母屋から新館書斎に移動することと、今回の図書館に寄贈するための本の整理を頼まれた5人は、前夜から泊り込むことになった。


村上金吾30歳・作家・フリーター=「推理小説を書こう会」の23代目会長=ある雑誌に短編が掲載され、小説家の卵からひよこになったばかり==面倒見がよくリーダー格


丸山竜兵30歳・基本フリーターだが、ここ暫くは何かと噂の絶えないキャバクラで黒服のバイト=村上の同期で、力量的には一番潜在能力をもっていると春本から太鼓判を押されている=やれば出来る子の典型で、やれば何でも器用にこなすが、ずば抜けたモノグサで、殆どのものが先送りになる。


錦戸涼治29歳・二級建築士=24代目会長・不法滞在の東南アジア系外国人を使用して問題になった建築・土建屋家業の跡を継ぐため、建築士の資格をとって図面を引いているが、作家への夢は捨てていない。


小嶋優布子24歳・春本の秘書=29代目会長・いつも周りから一言多いと言われるほど口数が多い。


前田秋奈28歳・東南アジアからの輸入商社のOL=同好会の25代目会長、卒業後はOLとして就職するも、小説は書き続け、毎回コンテストには応募している。



春本は数年前に奥さんを亡くし、現在1人暮らし。

通いの料理兼家政婦の喜多石照代が、10時から19時まで炊事洗濯掃除まで全てまかなっている。


食事を終えたのは20時を回っていたが、喜多石照代が19時に帰ったため、デザートは小嶋が用意した。

春本は、「デザートは要らない。明日は頼むよ」と言い残して自分の書斎に戻っていった。


ダイニングでは、たわいも無い話で盛り上がっていた。


錦戸がPCではなく手書きで原稿を書いているという。

「私は鉛筆派でね。シャープペンシルは使いません」


丸山が聞く。

「基本HB?」


「いやHやHBのようなH系は使わない。趣味の絵を書く時は炭が無ければ仕方なく6Bを使いますが、小学校低学年なんかが使う書き方鉛筆は、私にはわずかですが濃すぎるんです。」


「おやおや、文豪は万年筆を使うものだ、と思い込んでいたよ」と村上も口を挟む。


「うーむ、将来文豪と言われるようになるために、鉛筆じゃなく、これからは万年筆にかえようかなぁ」


すかさず前田が突っ込みを入れる。

「錦戸先輩なら万年は万年でも万年筆じゃなく万年床になりそう」


ダイニングテーブルにコーヒーとケーキを配りながら小嶋が聞いた。

「先輩たちは、最近の小説のネタや資料は何処で調べているのですか?」


村上がコーヒーをかき混ぜながら

「ネタ捜しという意味なら、以前は中央図書館を利用していたが、今はネット。過去の事跡は分かっても、図書館ではリアルタイムの本は殆ど手に入らない。本屋には最低でも週一で行くが、ここ2~3年は図書館を使ってない」


村上の左隣に座っていた前田が頷く。

「レンタルCDなどは、解禁時は大量に並べて、一定期間過ぎると減っていき、最終的には、1~2枚になる…図書館も10冊単位で入れて、順次減らしていく方法があると思うわ」


村上がチラッと前田に視線を向けて

「CDなんかは、1枚数十円で出来るが、本はそういう訳にはいかない。先ず予算の関係上も無理だろう」


前田が眼鏡を拭きながら

「だから電子書籍化をもっと進める方向にしなければ、と思いますけど。優布子ちゃん、私は英字新聞とワールドニュース、それと中央図書館のみ。地域館は専門書がほとんど無いし…」


「時計廻りでカミングアウトしているから、次は俺の番だろうね」と丸山が言う。


すかさず村上が突っ込む。

「マルが自らカミングアウトするぅ!雨が降るどころか颱風が来るんじゃないか?」


「朝から雪かもよ。ネットはたまにしかしないし、英語も出来ない。カタコトの日本語でも東南アジアやインド・韓国からの女の子の話も参考にしているが、もっばらTVのワイドショーと週刊誌と鳩目図書館かな。確かに売れている新刊書などの場合、予約しても乙佐香図書館全館で3冊位だから、80人待ちなんてざら。半年から一年ぐらいかかるけど、なんせタダだからね。タダはいいよぉ」


小嶋が身を乗出して、

「先輩はバイト直ぐに辞めちゃうからですよ」


「辞めるんじゃない、辞めて頂けませんかと頼まれるから、やむを得ず辞めてやるのさ」

「それって、首ってことじゃないですか」


「世間的には、そうとも言うらしい」


「ネットしに来るのは…つまり、電話とか止められたんですね?」

「ピンポーン」


「なにがピンポーンですか、しっかりして下さいよ。錦戸先輩は?」


「ま、ネットかな。それと丸山先輩と同じで、出稼ぎ人の話って意外な話が有る。僕は基本的に逆から考えていく」


「それって、先ずトリックありきってことですか?」


「いや、トリックは後だ。まず死体がある。どのように殺されたのか…毒殺か撲殺か何で殺されたのかその方法を決める。あとは何時何処で誰が何のために何をどうした5W1Hを、逆から考えて話を組み立てている。幾つかのトリックのストックがあるが、トリックを使わなくても済むのなら使わないし、話に合致したトリックが必要なら組み込んでいく」


小嶋が両手をすり合わせながら

「トリックのストックがあるって、凄いですね。一つ下さい。すりすり」


「小嶋、今さらブリッ子して甘えて懐いても遅い。トリックは自分で考えろ」

「ケチ、ほんとはストックなんてないんでしょ。あーん、あるならひとつ下さいヨォ」

「ダァーメ」

「ケチ、こんな可愛い後輩がおねだりしてるのにィ。」


村上が口を挟む。

「小嶋、人のことはさておいて、自分はどうなんだ」


「悩んで分からなくなっているから聞いてるんですよ。中央図書館や鳩目図書館は春本先生から言われてお使いにいくし、ネットで予約もしてます。でも、何かピンと来ないから…。古今東西全て読めませんから、好みの作家などを読み返していますが、トリックなんて出尽くしているのではと思います。ワイドショー見ていたらそれにのめり込むし、政治や難しいニュース見ていると眠くなってそのままぐっすり。幾つか書いたモノを先生に見て貰ったら、もう少し時間軸の整理をしなさいと言われて茶いました」


「時間軸なんて初歩の初歩じゃないか。推理小説を書こう会第二九代会長としてあるまじきことだぞ」


「デヘへ、斬新なトリックとラブストーリで読者を引きつけて、一気呵成にエンディングにもっていこうと…悪戦苦闘しています」


丸山が

「お前さんの機械的トリックは机上論で、実際には、ワニの腕たて伏せだ」


小嶋は丸山の顔を見つめて

「ん…?」


「無理だ!無理だ!無理だ!だってこと」


「あーん、可愛い後輩を潰そうとしてるぅ」


「二言目には可愛い後輩というが、鏡見たことあるのか?」


手鏡を覗き込む仕草で、

「鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番可愛いのは誰でしょう?」


声を変えて、「小嶋優布子に決まっとる」

「ほら、魔法の鏡さんもお茶目な小嶋優布子ちゃんが一番可愛いって言ってますよ」


「駄目だ、こりゃ」


前田がボソッと呟く。

「でも、不思議なことに先生の秘書としてちゃんと務まっているのよね」


小嶋と前田で、テーブルの上のケーキ皿とフォークをトレイに集め、コーヒーカップを片付け始めた。

小嶋は台布巾を前田に渡して、トレイを持ち上げて台所に入って行った。

洗い物が終わった小嶋がリビングに戻ってきた時は11時を少し回っていた。

まず前田が「睡眠不足は美容の大敵」と呟きながら、自分にわりあてられた部屋に引き揚げた。


次に村上が、続いて錦戸がそれぞれ引き揚げた。


丸山がソファに寝そべったままで、小嶋に話かけた。

「もう少しこのままでいたいから、先に寝てくれていいよ。明日は本の整理で大変な一日になりそうだから」


小嶋は、胸の前で両手でバイバイしながら、「おやすみなさい」

「なんか昔のお嬢様みたいなさよならだな」


「電気消すこと忘れないで下さいね。先輩は何もかもほったらかしておくという特技がありますから」と振り向きながら付け加えた。


「小嶋ちゃんは一言多い。それがなければ良い娘なんだが…」

「ほっといて下さい。この一言がいいと言うファンがいますから」

「ファンじゃなくて不安だろ」

「何とでも言って下さい。カネない・モテない・イケてない・センスない・懲りない・凹まないという、6ナイ丸山先輩にいわれても痛くも痒くもありませんから」

「分った分った。2倍3倍になって反ってくるからなぁ、オヤスミ~」

丸山が引き上げたときは、リビングの壁にかかっている、ふくろうが飛び出る「鳩時計?」が11時30分を指していた。


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