亡き王女のためのパヴァーヌ
第2弾です! 多少の百合要素を含みますので、お気を付けください。(なんとなくそうかなぁと思うくらいの程度ですが)
ガラッという音が聞こえて、ドアの方を見やると、おなじみのやつが立っていた。
例によって、たばこを吸いながら。
「よっ」
例によって、無駄に明るく。
「そんなテンション良く維持できるね?夕方だよ?」
僕としては当然の理を言っただけなのだが、彼女の顔には青汁を2杯飲んだくらいの苦みが走った。
「・・・・・そういうさー、夢のないこと言う奴は、長生きできないらしいよ?」
「・・・うん、煙草吸ってるやつにだけは言われたくないよ?」
僕がそういうと、彼女は分が悪いと思ったのか、黙って煙草に専念し始める。
「・・・・・おいしい?」
「・・・まぁまぁ」
「・・・・・・嫌なこと忘れる?」
「・・・そうでもないね」
ぽつぽつと会話を続ける間、彼女は幾度か窓から身を乗り出して、煙を吐き出した。
「・・・・・・・だいたいさぁ、なんでタバコ吸ってんの?」
「・・・だってさ、」
「・・・・・・」
「苦しそうじゃん?肺がん」
「・・・・・・・・・・・は?」
「苦しそうでしょ?」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「それで、吸ってんの?」
「うん」
至極真面目に頷く彼女をみて、どういうリアクションを取ろうかと僕は一瞬考えたが、結局、肩を竦めるだけにとどめる。
「・・・・・・・・・・・・・・・意味わかんないし」
「分かんなくていいよ、流は」
「・・・・・・・・・・・」
「うん、分かんなくていいんだよ」
多分、その瞬間に、僕は彼女の言いたいことを正確に理解していたと思う。
それでも確かめずにはいられなくて、僕は口を開いた。
「しんd・」
「ピアノ」
「・a・」
「聞く?」
ものの見事に遮られたそれが、僕の理解を後押ししていて、それはなんだか途方もなく哀しいことのように思えた。
何を言うべきかもわからなくて、ただ押し黙っている僕の答えを彼女は辛抱強く待ち続けている。
「・・・行かなくていいのか?」
精一杯の僕の答えを、彼女はひどく曖昧な笑みを浮かべて否定した。
「行けると思う?」
「・・・・・・思わない」
「・・・・でしょ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・
「・・・・・・君の弾きたい曲を」
やっとのことで沈黙を破ってリクエストした僕の目に、彼女の緩慢な仕草が映る。
「・・・なにそれ」
「だめ?」
溜まってゆく無言の時間の後で、彼女は黙ってピアノに向かった。
一度だけだからね、と呟いて。
彼女がピアノを弾く間、僕は少し遠くで立ち上る煙へと目を向けた。
清々しい秋空の中に響く彼女のレクイエムを聞きながら、僕は弔いの煙を吸い込む。
その日、彼女の弾く「亡き王女のためのパヴァーヌ」はあの人を送り出すことが出来た。
と、僕は固く信じている。




