孤独の中の神の祝福
パソコンを整理していたら、高校生の時に書いたものが出てきたので投稿します。
若気の至りが見える部分が多々ありますが、よろしくお願いします。
「結局さ、自分ってなんだったんだろうって思うんだ」
というのが、そいつ―大川葵―の第一声だった。
「・・・・・えっ?」
「自分とあの人との関係ってなんだったんだろうな。」
答えを求めない、空への質問は音楽室の中にあって響いて、そしてそのことに、そいつは頓着していなかった。
もっとも、僕としても何と答えていいのか未だに分かっていなかったから、それはそれでありがたかったのだけれど。
「家族と言うには似てなくて」
「・・・・・・・・・・・・・」
「友人と言うには余りに近すぎて」
「・・・・・・・・・・・・・」
「恋人と言うには愛が足りなくて・・・・・でも愛していた」
「・・・・・」
「・・うん、愛してたんだよね」
一つ一つを確認するように、それも自己のみで完結しながら言葉が淡々と紡がれる。
「大泣きするほど思い出は深くはないけれど、気付かぬ間に涙が流れる程度にはつながっていた。どんな関係かと聞かれて、明確な立場を表明できないひどく曖昧な立場なのに、それでも、声高に自分があの人の一番だって言ってしまいたくなる衝動が襲うんだ」
そこまで一気に喋って、それからそいつはようやく僕を見た。
「結局、自分はあの人の世界で、どんな役割になっていたんだろうね?」
真っ直ぐに偽りなく僕を見つめるその瞳は、僕の知るあの人の瞳にそっくりだった。
とてもとても繊細で、ほんの少しの強さと慎ましさを秘めた瞳。
だから、僕は迷いなく(本当は僅かな躊躇と共に)答える事が出来た。
「・・・きっとさ、守護者だったんだね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
たっぷり10秒くらい明けて、奴は間抜けに一言文字を発した。
「君はあの人を守っていた。だれよりも近しくあの人を知っていて、けれど、決して踏み込み過ぎない。そういう距離間が一番いい相手だったんだと思う。」
「・・・・・・・・・」
理解できない、とでも言いたげなそいつの顔を見ながら、僕は自分の言ったことを反芻してみていた。
たぶん、間違ってはいないはず。
「・・・・・わかんないだろう、そんなこと。」
「・・・・・わかるよ、簡単に。」
「・・・な・」
「わかるよ、いつかね。」
おそらく「なぜ」と続けたかったに違いない言葉を遮りながら、僕は突き放した。
だって、多分いつかきっと、分かると思ったから。
それに。
あの人は僕が知らせる前に、そいつが気付く前に、自分で教えることも無く逝ってしまったのだから。
僕が知らせることなど望んでないだろうとも思った。
「・・・・・・・・・いつだよ?」
けれど、奴があまりに一生懸命にヒントを探ろうとするものだから、僕は情に負けて(あの人に謝って)ヒントをあげることにする。
「あの人はピアノが好きだっただろう?」
「・・・・・・・それがどうした?」
僕が話題を逸らしたと思って、奴は盛大に撫すくれている。
僕は答えてやる義務も権利も無いので、ただピアノを弾いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
パチパチパチ
やる気のない拍手が室内に木霊する。
「もうちょっと盛大に拍手してほしいんだけど、葵?」
「いや、あの人の演奏をいつも聞いていた身としては、あまりうまいと思えなくてな。」
「・・・・・・そうか。」
失礼極まりない奴の発言に突っ込むのも忘れて、僕はただ感心してしまった。
「・・・・・・・・なんだよ?」
急に黙り込んだ僕に、奴は不信感を隠そうともせず首をひねっている。
「いや・・・・」
「・・・・・・・・なんだよ。気持ちが悪いな。」
「あ・・いや・・・s」
キーンコーンカーンコーン
僕が答えようとしたちょうどその時、下校時間の到来を告げるチャイムが響いた。
なんだかそれが、あの人からの警告のように思えて、僕は急いで口を噤んだ。
「帰るか?」
「・・・・・・・・・そうだな」
不承不承という感じで奴は腰をあげる。
その様子に、僕は心中で溜息をつきながら、あの人との距離感と奴との距離感を天秤にかけて、そうして妥協点を見出した。
―道しるべを与えてやるくらい勘弁してください。-
と、あの人に言い訳をしながら、僕は奴に教えてあげた。
「さっきの曲のタイトル、葵、知ってる?」
「・・・・・・・・・いや、知らない。いつも聴いてはいたんだけど、タイトルは言わないから聞かなかった。」
その言葉に僕は「守護者」という言葉がぴったりだったことを再確認する。
あの人から何度も弾いてもらえるほど心を許されていて、でも、あの人の領域を侵さないように側にいた。
その絶妙の距離間があの人を守っていたんだろう。
「それが?」
「ん、・・・・・・・・もしもさ」
「ん?」
「もしも、その曲のタイトルが分かったら教えてくれ。」
「ん?なんでだ?」
「なんででもだ。」
「・・・・・・・・分かった。」
奴は分からないなりに頷いた。
僕の真剣な様子に気圧されたのかもしれない。
もしも、彼がその曲のタイトルが分かる日が来たら、その日彼は、きっとあの人の世界での自分の役割をはっきりと理解できるようになるだろう。
それがいつになるか分からないけど、もしも、死ぬまでわからなかったらその時は教えてやろうと思う。
その曲のタイトルが「孤独の中の神の祝福」ということを。
君は間違いなく愛されていたということを。
感想とかありましたらよろしくお願いします。




