第6話
二人の侍が柳川城本丸に押し入る。
一人は大石進種昌、もう一人は鳥海弥左衛門。
「どこじゃ、上様はどこじゃ」
種昌はそう叫びながら弥左衛門とともに階段を上る。
途中、近習侍たちが現れ、抜刀して襲い掛かるが、二人は虫を払いのけるように斬り捨てながら進んでいく。
やがて天守閣に着くと種昌が探している人物がいた。
柳川藩主、立花鑑寛は怯えながら、欄干にもたれかかっている。
「大石進種昌、見参仕り候」
「来るな、こっちに来るな」
立花は震える手で抜刀する。
「おそれながら、上様の御首級仕り候」
種昌は六尺一寸の長刀を横に薙ぐ。
立花の首は床に転がり、残りの胴体は欄干から外に落ちる。
鮮血が床を染める。
「師匠、一大事です」
弥左衛門が言う。
堀の外にいた軍勢が本丸に入り、階段を上っている。
先に天守閣まで登った兵たちを弥左衛門は次々に斬り捨てる。だが兵たちの数は次第に増えていく。これではきりがない。
種昌は天守閣の欄干から外を見下ろし、軍勢たちに立花を首を投げ落とす。
「みなの衆、立花鑑寛の首、この大石が打ち取ったり。下剋上じゃ。ただ今からこのおれが柳川城の主じゃ」
すると天守閣に登って来る兵はいなくなる。軍勢たちは城から離れ、ゆっくり後退しているようだ。
しかし妙な臭いがする。
気がつくと城に火が放たれ、炎上している。
炎は最初は小さかったが、次第に燃え広がり、やがて城全体が火事になっていた。
「師匠、どうしますか」
弥左衛門が言う。
「今から階段を降りても間に合いませぬ。火が強すぎで焼け死ぬだけです」
「ならばどうすればいい」
弥左衛門はそれには答えず欄干を見下ろす。下には城と反対の方角に柳川が流れている。
「川に飛び降りるか」
種昌が訊いても弥左衛門は答えない。
このままではおれたち二人は焼け死んでしまう。
意を決すると種昌はいきなり弥左衛門を脇に抱える。
「師匠、なにをするんですか」
種昌は欄干に上り、力いっぱい跳躍する。
天と地が逆転する視界。
次の瞬間、轟音とともに水しぶきが上がる。
鎧を着ているせいで体が水に浮かない。
水底まで来ると足がつく。
息はできないが歩けは前に進む。
そのうちに浅瀬になり、首が水面の上に出ると息ができる。
そのまま向こう岸まで進もうとすると強い水流に巻き込まれ、体全身が流される。
気がつくと川岸に横たわっている。
弥左衛門の体が隣にあったが意識はない。
ふらふら歩いてみると咳き込み、口から大量の水を吐く。かなり水を飲んだのだろう。
意識が次第に朦朧としてくる。
種昌は河原に腹ばいに倒れ、そのまま意識を失う。
(つづく)




