第7話
「気がつかれましたかな」
大石進種昌が半身起こすと目の前に見知らぬ老人がいる。
板張りの薄暗い部屋だった。
魚と潮の臭いがする。
種昌はふんどし一丁の半裸で布団に寝かされている。
枕元に六尺一寸の長刀と甲冑が畳んだ衣類の隣に置いてある。
「種昌様、お怪我はありませぬか」
気がつくとお鈴がいる。
「お鈴か。どうしておぬしがここにいる」
お鈴が口を開こうとすると、遮るように鳥海弥左衛門の声。
「師匠、ご無事でしたか」
浴衣を着た弥左衛門が涼しい顔で歩いてくる。
「師匠より少し前に目を覚ましました。少しあたりを散策いたしました」
柳川に飛び込み、河原を歩いたところまでは覚えているが、その後、どうなったのか。
お鈴の説明はこうだった。
種昌が騎馬武者姿で出かけた直後、弥左衛門が家にやって来た。お鈴が事情を説明すると弥左衛門は種昌の後を追い、柳川城へ向かった。
お鈴はしばらく家にいたが、そのうちに胸騒ぎがして自分も柳川城へ足を運んだ。
すると柳川の河原で気を失った二人を見つけた。
女一人ではどうにもならないので近所の漁村に駆けつけて助けを求めた。
漁村の村民たちは二人を村まで運んでくれたが、だれも自宅に泊めてくれる者がいない。
すると種昌の顔を見た甚平と名乗る老人が「これは坊ちゃまじゃないですか」と言い、快く泊めてくれることになった。
甚平は先代の大石七太夫種次と懇意だった。
甚平の姉は種次が身請けし、女中として大石家に奉公に上がった。
「種昌様もりっぱになられましたなあ。お父様そっくりです」
甚平が言う。
「かたじけない」
種昌が言う。
「お恥ずかしい話、甚平殿のことはすっかり思い出せない」
「無理もございません。最後にお会いしたのが種昌様がまだ元服前でございますから」
「ところで」
弥左衛門が口をはさむ。
「師匠、これからどうなさいますか。家に戻っても、お尋ね者の身の上。いかがいたすおつもりか」
「……」
「もしよろしければ、拙者とともに江戸に行きませぬか」
「江戸か」
「さよう。江戸なら師匠の顔を知る者はおりますまい」
「また自分は一人になるのですか」
お鈴が言う。
種昌はお鈴のさびしげな顔を見て一人にするのは不憫だと思う。
「お鈴も連れて行く。どうじゃ、三人で江戸へ行くか」
その日から数日、種昌たち三人は甚平の家で過ごした。
種昌は「質に入れたら金になるはずじゃ」と言い、甲冑を甚平に譲り、三人は江戸へ向けて旅立つことにした。
(つづく)




