【御礼番外編】派手顔悪役令嬢と元モブ男子のバレンタイン
評価15000ポイント、ブクマ1700突破御礼番外編です!
本編終了後時空。
負けられない戦いが、ここにあるー……!
「という事で、適宜アドバイスをお願いするわ。レナ」
「ガンガン頼る気満々ですねお嬢様」
「当たり前よ!万が一にでも私の大天使に不味いものをお渡しする訳にはいかないのよ!!!」
「…それでしたら無難にプレゼントだけにされたらよろしいのに…」
「お慕いしてる方には常に全力を捧げたいのよ…!存在に感謝を全力で捧げたいのよ!!」
「毎度思いますが本当に病気ですね」
そういいながら、手順を確認し必要な調理器具をまとめるレナ。有能である。
聖者バレンティノ・アウレニウス。我が国教の聖者である。
彼は100年以上前の戦争時、兵士から家族や恋人の手紙を運び続けた方である。戦時下は指揮統制の為(スパイ活動阻止の意味もある)、手紙が制限されることもあるが、仲間と協力し、手紙を届け続けた。
文字の書けないものには、代筆や変わりにちょっとした荷物を届けたという。
彼(もしくは彼ら)によって支えられた人々の支持により、死後列聖し、彼の没日は聖バレンタインデーと呼ばれ、愛するものへ贈り物をしあう日になった。
ようはバレンタインである。
これまではバレンタインには家族にちょっとしたプレゼントを送るだけであった。
そして受け取るプレゼントも家族のみ。
ここぞとばかりに送られるプレゼントや手紙には見向きもせず、何なら鼻白んでいた。
だが今年は違う。
「モブロフ様は御歳16歳…!生まれた時からお側にいたのなら全部で15回も愛と感謝をお伝え出来ていたのよ?!15回も逃していたなんて悔しすぎる………!」
「初めからそばにいたとして。そのときはお嬢様も0歳だと思うんですが。0歳児からプレゼント送り付けるつもりなんですかね」
「それだけの機会を失っていたことは、私の人生史上最大の悔恨よ!!」
「誕生日には同じこと言ってそうですね」
「という訳で!なんとしてもお伝えできなかった分も含め!16回分の愛と感謝をお伝えするのよ!!利子をつけて!!!」
「全然話聞くつもりないですね。指示はちゃんと聞いてくださいよ」
プレゼントはそれこそ大量に用意した。最高級の万年筆。鞄。クラヴァット。懐中時計。ペーパーナイフ。ストール。その他諸々…
数は16個をゆうに超えている。
それでもまだやりたいことがあった。
「殿方は手料理に弱いと聞くわ…ここでプレゼントに加えないというのは愚の骨頂!!」
「本音で話しましょうかお嬢様」
「………作ったもの、美味しいって召し上がっていただけたら……もう、夢のようだわって……」
「そっちの方が応援する気持ちになりますよ」
かあ、と顔が赤らむ。
「……だって、何かこういうの、私らしくなくて恥ずかしいんだもの」
「いやさっきの妄言の方が大分恥ずかしいですからね?」
明らかに冷たい眼差しのレナ。だがそんなものは今更すぎて、慣れすぎていた。
冷静に考えると、公爵令嬢の侍女が主人に『妄言』とぬかすことは到底おかしいのだが。
そんなことは、露にも疑問に思わず照れ隠しに叫ぶ。
「んんんー!もう!いいじゃないの!早く作るわよ!!」
3日後。
厨房には骸が2つ転がっていた。
その周りには積み上げられた黒い物体。もしくはスライム状の物体。
「お、おかしい…いくら初めてと言ったって、ここまで失敗するなんて有り得るの…?!」
「いや………お嬢様、マジなんなんですか…なんでこまでやって失敗できるんですか?なんでこれだけ張り付いて見ててこんな汚物化できるんですか?これもはや黒魔術の域でしょう…!」
げっそりと、過去で見た事がないほど窶れ、取り乱した様子のレナ。だが正直無理もない。
そばで手取り足取り、付きっきりで見ているはずなのに、気づけば料理が炭化か生焼けのゲル化している状態。
そんな作業を3日も行っているのである。正直私が1番泣きたい。
「う、うう…聖バレンタインデーはもう明日なのに…!」
「早めに練習を始めたというのに、ここまで苦戦するとは…」
「…………今までの人生で、言ったことの無いことをいうわ……」
「はいどうぞ」
「わ、わたしには無理なのかしら…?!」
「そうですね諦めましょう」
「否定してよ!ヨイショしなさいよ?!私貴女の主人なんだけど?!」
「否定できる要素がないんですよ……見てくださいよ、この廃棄の山を…」
全く自然に優しくない環境である。
再度崩れ落ちた。
「うっうう…モブロフさまぁあ……!」
「…プレゼントは充分じゃないですか…わざわざ手作り料理にこだわる必要、あります?手作りなら、刺繍を入れたハンカチもお渡しするんですよね?」
「そう…だけど…」
「普通、貴族令嬢は料理なんてしませんし。ましてや公爵令嬢がするなんて聞いたことないですし。ハイ解散解散」
「……だって……」
か細く、みっともない声だと自覚しながら言葉を紡ぐ。
「だって、いいなと、思ったんだもの」
たまたま、お忍びで連れ立って、街歩きをした時に見た風景。
平民の、それほど歳の変わらない女の子が、恋人と思しき男に差し入れを渡していた。
それに対して恋人だろう男は相好を崩し。
『幸せそう、素敵ですね』
そんな風に。とても、温かい眼差しで言っていたのを見てから。
「わたしも、あんな風に思っていただけたらって…」
密かに、ずっと憧れていたのだ。
今までの、価値観が変わるくらいに、羨ましくて、憧れて。
そんな告白を聞いたレナは。
「………………………………………はぁ~~~~~~あ……あ~もうくそ面倒くさいです」
不遜な侍女は、これまでで1番不遜な溜息と台詞をはいた。
目も据わっており、大変従者としてはあるまじき姿である。が。
「面倒くさいですけど。もうここまで来たら付き合いますので。最終手段です。メニュー変えますよ」
「え?え?」
「あと、絶っ…………対に!私が指示する動き以外はしないでください!いいですね?」
「え?レナ貴女性格変わってない?!…で、でも分かったわ…お願い!」
結局のところ、その日も遅くまで付き合う羽目になったのだ。
翌日。プライベートゾーンのサンルームにて。
これまでにないほど、カチンコチンに固まった王国の薔薇がいた。
「え、エヴァ?どうしたの?具合が悪いなら日を改めようか?」
「だ!大丈夫ですわ!無問題です!!そ、それよりモブロフ様…」
「うん?どうしたの?」
「あ、あの…今日は………」
「うん?」
「あのっ…あのっ…!」
言葉が出ず、はくはくと口を動かすだけになってしまう。ああ、もっとちゃんと、可愛らしくお伝えしたいのに…!!!
焦りから目に涙が滲んでくる。
みっ…みっともない…!
自分の不甲斐なさに、更に悔し涙が浮かびそうになる、そんな瞬間。
「落ち着いて、エヴァ」
そっと優しく手を重ねられる。
「大丈夫、ゆっくりでいいから話して?」
す き
危なかった。
今天に召される所だった。
好きが過ぎて一瞬真顔になったわ。頭もまっさらになったからいいってことにしなくては。
「エヴァ?」
一瞬の表情に固まったものの、対応を改めないモブロフ様、しゅき。
「もう大丈夫ですわ…ありがとうございます。モブロフ様」
微笑む余裕も出てきた。モブロフ、様しゅき。
「あの、今日聖バレンタインデー、ですわよね?」
「あ、うん、そうだね」
「あの…お口に合うかは分からないのですが…今日のお茶菓子は、わたくしが作らせていただきましたの…」
「…エヴァが…?」
「は、はい」
目をまん丸にして驚くモブロフ様、しゅき。
とはいえ…どきどきする…!
貴族女性のくせに、と思われる?引かれてしまう?
そんな訳ないと思うのに、不安から嫌な想像が巡る。
「…どうしよう…」
「…え…?」
「すごく、嬉しい…!」
ぱあっと。
花開くように笑われるモブロフ様。
「くっ!!!」
「エヴァ?!」
「大丈夫ですわモブロフ様…お気遣いありがとうございます…」
「そ?そう?」
危な(ry
正気を保つために、自分のヒールで足を踏み抜く羽目になったけれど悔いはないわ。
わたくしにはまだ使命が残っているのだから!!!
「お、お口に合えばよろしいのですけれど…」
その言葉に合わせて、静かに卓に置かれる茶菓子。
それを見て、モブロフ様がまた目を見開く。
「ロフリー、チュキ?」
「は、はい…!手が込んでなくて申し訳ないのですけれど…!!」
三日月形の、素朴な小さなクッキー達は、華やかな皿の上で所在なさげに見えた。
ロフリーチュキは、バニラ風味のクッキーだ。ほろっとして素朴な甘さ。ナッツを入れても美味しいらしいがそれは断念した…手を加えようとすればするほど、リスクがあがるので仕方がない。
ーでも、やはりもう少し見栄えするものを作れば良かった…!
そう後悔が押し寄せたのに。
「…食べてもいい?」
キラキラとしたお顔でそんな風に仰って。
おずおずと差し出した皿から、優しくひとつ摘んで。
「…美味しい…!エヴァ!すごく美味しいよ!」
そんな風に満面の笑みで言ってくださるものだから。
どばーーーーーーーーーーーーー
「え!エヴァー?!」
「う、うう…!」
わたくしの涙腺は呆気なく崩壊した。
神はここに居たのだ。わたくしは悔い改めた。
「落ち着いた?」
「は、はい…お見苦しいところをお見せして…申し訳ありません…」
流石に今日は感情の振り幅が大きすぎる。
いくら色々昂ってるからといって我ながらドン引きものである。
「全然!見苦しくなんてある訳がない…素敵なプレゼント、本当にありがとう」
「も、モブロフさまぁ…」
はあ~しゅきが過ぎる!
最近は精悍なお顔が増えたけれど、今日はモブロフ様も、お近付きになって間もない頃のように、可愛らしく笑ってくださる。
「でも今日は確かにちょっと不安定だね?そんなに心配だったの?こんなに美味しいのに」
「……実はここまでくるのに3日もかかったのですわ…それに作ろうとしたものも作れなくて、無理のないように、とレシピも変わったんです」
「3日?!そんなに?!」
あううう…!今まで完璧な(少なくともスペックとしては)姿しか見せていなかったのに…!
この程度作るのに3日もかかるなんて呆れられてしまうかしら…
「そんなに…頑張ってくれたんだぁ…」
じんわりと。
感動したように言ってくださる、モブロフ様。
え?素敵すぎひん?
失敗じゃなくて、頑張ったところを見てくれるわたくしの大天使様、本当に人でいらっしゃる?天使ではない?
「もしかして寝不足もある?不安定なのはそのせいかも」
「あ…少しだけ、そうかもしれません…」
嘘だ。レシピを変えてからも中々上手くいかず、長いこと粘っていたのだ。
確かにこの情緒不安定さは寝不足もある。とんだ失態だ。
「そっか…あのねエヴァ」
「クッキー、凄く嬉しかった。なにより、君がたくさん考えて、たくさん頑張ってくれたことが嬉しい」
「ありがとう、すごく…すごく頑張ってくれて。目一杯の大好きをくれて」
「僕もね…きっと君が思うより、ずっとずっと…大好きだよ」
そういって。
両手をとって。
労わるように、口付けてくださった。
我が人生に一片の悔いなし…!と思ったけれどやっぱり結婚したいしもっとイチャイチャしたいしイチャイチャしたいしイチャイチャしたいので天国行きは拒否した。
苦しい戦いだった。
「エヴァ、僕からも贈り物があるんだけど、受け取ってくれる?」
「まあ…!勿論ですわ!何ですの?」
「君のものに比べたら、ありきたりかもしれないけど…」
後ろを向いて、と言われ大人しく従うと、一瞬首元が軽くなり、そして。
「…ネックレス…?」
「そう。君の普段持ってるものからしたら、ちょっと格が落ちるかもしれないけど…」
先程まで首元を飾っていたものは、卓に置かれていた。
新しく首元を彩るそれ。真ん中に大きめの翠玉が。周りを彩るように、小さな琥珀と翠玉が、明るい金の鎖に散りばめられている。間を所々彩るのはオパールか。
これって…
「わたくしと…モブロフ様の色…」
琥珀だけれど深みのあるその色は、角度によって焦げ茶色にも見える。
「そう。前に僕の色の物が欲しいけれど中々ないって言っていたから」
ちょっと大学部の研究室にもお邪魔してね、いい石がないか相談してみたんだ、と照れくさそうに頬をかく。
「でも何かやっぱり茶色いって地味で…!だから少しだけ、オパールを足してみたんだ…どう、かな?」
「…うれしい…」
ぽつりと。
思わず素の声が出る。
「すてき…こんな素敵なもの、本当にいただいてよろしいのですか?」
「大丈夫だよ!君の為を思って作ったんだから…あとね、恥ずかしい話、大学の研究室の手伝いをして手に入れたものが殆どなんだ…それこそ、大丈夫、かな…」
へにょり、と眉を落とされる。
確かに。
真ん中の翠玉は別として、散りばめられているものはごくごく小さい石たちだ。いわく屑石と呼ばれるものだろう。
メインの翠玉も、普段身につけているものに比べたら、数段下の物なのかもしれない。
それでも。
「これがいい…これがいいです!モブロフ様が一生懸命選んでくださったこれが…!すごく、嬉しい…」
途方もない多幸感だ。
なにより愛しいひとが、自分のために、自分の為だけを考えて、選び抜いてくれたもの。
「ありがとうございます!モブロフ様…!」
陰りのない、満面の笑みを浮かべると、息を呑む音がした。
「ごめん、エヴァ」
「え?ー!!!」
今までになく力強く抱き寄せられ。
奪われる、唇。
え、ちょ、これ…!
も、モブロフ様が、こんな…!
ん、え、まってまって……!
~~~~~!!!!!
数瞬後、名残惜しげに、離される唇と、息。
「…~ごめん、でも、あんまり煽らないで…我慢できなくなる…」
苦しげに眉を寄せられた、少し赤くなったお顔。
どことなく、色気の漂われるそんなお顔に。
つぅ。
「「あ」」
ぐらり。
「あ!ちょ!エヴァ!えーとレナさん!レナさーーーん!!!」
限界を超え、鼻血を垂らして倒れることになった。
我慢ができなかったのは私ですモブロフ様。ごめんなさい。
それから暫く。
花を散らして「ふへへ…へへ」と時折自室で笑う公爵令嬢と。
自室に積み重なっていた貢物の量に頭を抱える元モブ男子と。
きっちり2週間の有給をもぎとって、バカンスを楽しむ侍女の姿があったそうである。
おわり!
ネタがネタだったので予定変更で早めに上げました^^;
ちょっとはイチャイチャさせられたかな…と思います!恥ずかしかった!
本当にたくさんの評価など、ありがとうございました!
【追記】
作中にある「ロフリーチュキ」はチェコのクッキーです。
三日月形のさくさくクッキーでとても美味しいです。
気を抜くと一瞬でなくなります。
興味のある方はぜひご賞味ください!
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いつもありがとうございます。
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