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03 脱出。




 買い出しから戻って、崖の根城のキッチンに入ると、サンドイッチは跡形も無くなっていた。

 先ずは何事もなかったように、夕食を作る。

 蒸した芋を潰したものと、切り刻んだベーコンを入れたスープ。

 貧相な食事を済ませると、すぐにお酒を飲み出して馬鹿騒ぎを始める。

 お酒にお金を費やすから、食事が貧相なものになるのだ。

 でも、私達には好機。

 お皿洗いをして、何食わぬ顔をしてダイニングルームをあとにした。

 そんな私達はこそこそと、廊下の奥へと進んだ。

 根城の一番奥には、 緊急事態に備えて脱出するためのーーーー飛行船があるのだ。

 海に浮かぶ船の形で、マストではなく気球で浮き上がるもの。

 だから上空は飛行船が出るための穴がある。

 もう夜に変わった空が、見えた。満月が光を射し込む。

 門出には、いい日だ。

 私達は無言で、準備を始めた。

 この飛行船の飛ばし方なら、叩き込まれている。万が一に備えてだ。だから、手分けして作業が出来た。

 問題は、盗賊達の誰にも気付かれないこと。

 しかし、そう簡単にはいかない。


「おい、そこで何をしてる!?」


 見付かってしまった。

 盗賊の一人なら、まだよかったのだが、三人だ。

 一人を力を使って投げ飛ばし、二人を押し退けた。


「急いで!」

「無理だよ!」


 私は出入り口を抑え込む。だが、そう長くは持たない。


「なんだ!?」

「魔法か!?」


 騒いでいる連中のせいで、集まってしまう。

 急いでほしいが、無理な話。ジェットを注ぎ込んでいるわけでもないから、瞬時に浮かぶわけがないのだ。

 まずい。失敗に終わる。

 焦った。前世の脱走の失敗がよぎって、恐怖する。

 その時、ふわっと髪が舞い上がった。


 ぶぉおおっ!!!



 いきなり強風が吹き荒れて、飛行船が浮き上がる。


「アリー、バーシャン! 掴まって!!」


 すぐに私は盗賊を押さえる力を、二人を支える力に変えた。

 強風にさらわれて、飛行船は夜空を飛んだ。

 山を越えて、悠然と飛行船は空を泳ぐ。


「だ……脱走成功!!」

「わーい!!」

「よっしゃー!!」


 二人とも喜んで飛び上がった。

 誰かが舵を取っていなければ、そう私はすぐに舵を握った。

 すると、上からストンと少年が降り立つ。


「あれ!? さっきのにーちゃん!?」

「よっ!」


 気さくに、少年シャオは笑いかけた。


「えっ、あなた……どこから……」

「オレはずっと上にいたぜ」


 気球を指差すシャオ。

 私達は上を見上げたが、そんなことを聞きたいわけではない。

 何故いたのか。


「まさか、さっきの強風あなたが起こしたの?」

「ピンポンー、せーかい!」


 パチンと指を鳴らしたシャオが、また起こしたのかそよ風が私の頬を撫でた。


「治癒魔法に、船を浮かせるほどの強力な風の魔法……あなた、何者?」

「オレは精霊。こう見えてもな」


 その回答は思いもよらなくて、驚愕する。

 精霊。そんな偉大な存在が、この世界にいる。知ってはいたが、おとぎの話の領域ってくらい幻の存在だ。それが彼だとは。

 でもそれなら説明がつく。治癒魔法が使え、強風も起こせる。精霊だから。


「ビビ。まだ思い出さないのか?」

「え?」

「オレ達、前に会ったことがある」


 シャオは面白がった笑みで、私を見た。

 前に会ったことがあるだって?


「思い出しているはずだ」


 シャオが確信した様子で告げる。

「バーシャン、代わって」とバーシャンに舵を頼む。

 そして、シャオに近付いた。

 思い出しているとは、なんのことだ。

 私は前世の記憶を思い出したけれども。


「……!」


 まさか、と私は驚きで目を丸くする。


「嘘でしょ!? あなたなの!?」

「そう! オレだよ!!」


 シャオが腕を広げて見せるから、感極まって抱き付いてしまった。

 でも拒まれることはなく、全力で抱き締められて、ターンさせられる。

 だ。


「今度は一緒に、脱走に成功したな」


 間違いなく、だった。

 私は彼の生まれ変わりであるシャオを力一杯に抱き締め、一粒の涙を落とした。


「だって、約束したじゃない。幸せになるって」

「ああ、幸せになろう。一緒に」


 私達は顔を合わせて、笑い合う。

 やがて、見つめてきたシャオは、そっと唇を重ねてきた。

 前世でもしなかった、口付け。

 また一粒涙を落として、私は笑みを零した。




ビビ「それにしても、私は捨て子であなたが精霊に生まれ変わるなんて神様は不公平じゃない?」

シャオ「巡り合えただけでもラッキーだと思わなくちゃ」



 研究所から脱走する夢と飛行船を盗む夢を合わせた作品でした。



20190325

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