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異世界オレンジ国 とりかえばや物語  作者: 夢見るライオン
第二章 青年期 社交界デビュー編
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10、カタリーナ姫との初対面

「僕は南の舞台側だから行くね、フロリス」

「うん。私は北の回廊側だ。後でね、ステファン」


 オレンジサロンは『正妃の塔』の正面入り口から回廊を通って行ける大広間だ。

 北門と正妃の塔の中間に位置している。


 後宮の催しのすべてを行う場所で、南側は外に吹き抜けていて庭園につながっている。

 その庭園の真ん中に舞台があって、姫君たちはサロンの中に座って踊り子のダンスや楽団の音楽、さらには旅芸人の曲芸なんかも見られるようになっていた。


 現王太后が来るまでは、年に数度、季節を感じる催しを行って賑やかだったと聞いている。

 だが最近では内輪の行事を細々とやるだけだった。


 久しぶりの大きな催しに、女官たちも活気づいていた。

 さらには約二十五名の若い男たちの出現に、あちこちの建物の影から女官やら侍女やらの視線を感じる。


「デニス副隊長、ここの回廊ってもしかしてカタリーナ姫が通られるんですか?」

「おお。そうだとも。間もなく来られるはずだ」

「うひゃああ、王女さまをこんな間近に見られるなんて」

「くー、他の野郎どもに自慢してやりたいのに極秘なんだもんなあ」


 回廊にはロッテのグループの五人が配置された。

 五十代のデニス副隊長、四十代のボブ、三十代のマルコ、そしてヨルダンとフロリスだ。

 年代と力量が均等になるように絶妙にグループ分けされている。


 ボブとマルコは腕力派で大柄で筋肉質だ。

 そしてヨルダンとフロリスは細身でどちらかというと頭脳派タイプだ。

 だがちょっと力不足の二人がいるせいか、副隊長のグループになった。


「いいか。カタリーナ様が通られる時は膝をついて紳士の礼だ。顔を上げてはならんぞ」

「えー、顔を見ちゃダメなんですか?」

「こっそり横目で見るだけならいいでしょう?」

「バカもん! ダメに決まっとるじゃろうが」

「ちぇー。こんなチャンス滅多にないのに」


「あ、来られたぞ。みな、拝礼じゃ」


 回廊の向こうから紺のドレス姿の女性の群れが現れた。

 真ん中のオレンジのドレスの女性がレースのヴェールをつけているのがチラリと見えた。

 たぶんあれがカタリーナ様だ。


 五人は回廊に並んで片膝をつき頭を下げた。


 一番端で拝礼するロッテは、隣で膝をつくヨルダンの異変に気付いた。

 胸に当てた手がガタガタと震えている。


(ヨルダン? 緊張しているのか?)


 無理もない。

 町民出身のヨルダンにとっては雲の上の存在なのだ。

 こんなそばで姿を見ることなんて普通ではありえない。


 あのふてぶてしいヨルダンでも緊張するのかと可笑しかった。


 そんな五人の騎士の拝礼を受けながら、総勢二十人ばかりの姫達の集団が通り過ぎていく。

 うつむいた視線には、侍女の紺色のドレスの裾ばかりが見える。

 その隙間にオレンジ色が見えたと思った、その時。


「……」

 集団が急に立ち止まった。


「?」


 ちょうどロッテとヨルダンの前あたりだ。

 そして下げたつむじに視線を感じた。


(こちらを見ている?)


 何か気になることでもあったのか。

 五人は息を止めてかたまっている。

 空気が緊張で張り詰めていた。


「カタリーナ様、まいりましょう」


 やがて侍女の一人が声をかけて、集団が動き出した。

 そしてオレンジサロンの中へと入っていった。

 

 侍女の姿もすっかり見えなくなってから、ようやく五人は顔を上げた。


「ふぃ~。焦ったぜ。急に立ち止まるんだもんな」

「誰かが粗相したのかと思ったぞ。身が縮まったわい」


「副隊長さま、姫さまは俺の雄姿に見惚れたのではないかと思います!」

 マルコが鼻息荒く宣言した。


「何を言う。それなら俺だろう」

 ボブが対抗するように言い返した。


「バカ言うな。俺の前で止まったろう」

「違うよ。俺の前だ」


 ボブとマルコが言い合っている。

 どうやらみんな自分が見られていたと思ってるみたいだ。

 ロッテもてっきり自分だと思ったが、うぬぼれだったようだ。


「ヨルダンも自分かと思った?」

 ロッテはヨルダンに笑いかけた。

 しかしヨルダンは「ふん!」と鼻をならしてそっぽを向いてしまった。

 さっき手が震えるほどに緊張していたのが嘘のようだ。

 

(この間のことで嫌われてるのかな)


 だがロッテだけじゃなく、誰にも打ち解けてないようだ。

 しばらく人通りもなく、みんなで雑談していても入ってくる様子はない。

 いつも一人でぽつんと離れて立っていた。


「ちょっと周辺を見回ってきてもいいですか?」

 やがてヨルダンは警備に飽きたのか副隊長に申し出た。


「ああ。だがあまりウロウロするなよ。ここは後宮なんだからな」

「大丈夫です。人目につかないようにしますから」


 ヨルダンがいなくなると、話題は変わり者の彼の話になった。


「副隊長、あいつなんなんですか?」

「しょっちゅう鍛錬も休むし、誰とも打ち解けようとしないし」

「そもそも二十一部隊に町民騎士を入れる必要はあったんですかね?」

「後宮の警備なんだから素性と家柄が大事でしょう」


 みんな彼のことをあまり良く思ってないようだった。

 あの態度なら仕方ないのだろうが。


「まあ、そう言うな。上層部も考えがあってのことじゃろう。あの若さで町民から近衛騎士になったんだから腕はいいんだろう」

「あのガリガリで? ちょっと殴ったら吹っ飛んでいきそうだがな」

「剣が巧いのか? そんな風にも見えないが」

「フロリスはどう思う?」


 ボブは黙って聞いていたロッテに話を振った。


「うーん、思ったより真面目な人かもしれないけど……どこか体が悪いのかなと思ったんですが……」

 今日はそうでもないが、時々胸を押さえて苦しそうにしている。


「それそれ。顔色が悪いんだって」

「金がなくて、あまり食べれてないのかな」

「バカ言うでない。近衛騎士は充分な給金をもらってるじゃろうが。それに寮に住んでるなら食事もついてるはずじゃ」

「寮に……あいついたっけ? 影が薄いから覚えてないよ」

「町民騎士の部隊は自分たちだけで固まってるからな」


 どうやらみんなもあまりヨルダンのことは知らないらしい。


「俺はあいつ気に食わないね」

「すかしてやがるよな。一度しめてやった方がいいかもな」


 そのヨルダンが突然、血相を変えて戻ってきた。


「大変だっっ!!」

 

 どこから駆けてきたのか、それだけ言ってゼイゼイと息を切らしている。


「おい、どこまで行ってたんだよ」

「副隊長が遠くへ行くなと言っただろうが」

「上司の命令をなんだと思ってるんだ」


「それ……どころ……じゃないっ……」

 なんとか言葉を継ごうと息を整えている。


「あん? それどころじゃないだと?」

「きさま、誰に口をきいてんだ」

「一度痛い目に合わないと分からないようだな」


 ボブとマルコは、ヨルダンの胸倉を掴もうとした。

 しかし、それより早く、ヨルダンがとんでもないことを告げた。


「フアナ姫がこっちに来る!!」




次話タイトルは「フアナ姫との再会」です

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