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異世界オレンジ国 とりかえばや物語  作者: 夢見るライオン
第二章 青年期 社交界デビュー編

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11、フアナ姫との再会

「フアナ姫がこっちに来る!!」


 ヨルダンの言葉に四人が一瞬固まった。


「な! なんじゃと? そんな訳はないじゃろう」

「そうだとも。今日は欠席だと隊長が言ってたじゃないか」


「それでも来てるんだ! 侍女を大勢引き連れてここに向かってる」


 みんなが青ざめた顔を見合わせた。

 今日は予備訓練のつもりで、そんな覚悟は出来てなかった。

 フアナ姫は滅多に紫の塔から出てこないという話だったではないか。

 シエル王太子が戻るまでは、形だけの警備だと高をくくっていた。

 

「と、とにかくオレンジサロンの中に入れるわけにはいかない」

「オレたちだけで阻止しろって言うんですか!」


「マルコは急いで王様のそばにいるルドルフ隊長の所に知らせに行け! そして各所の騎士をこちらに回してもらうんだ」

「分かりました!」

 マルコが大急ぎで舞台側に駆けていった。


 残った四人でこの場を切り抜けねばならない。


「みな、護身石は胸に入れているな? 防護のリストシールドはこの一個しかない」

 デニス副隊長は自分の左手に装着した防具を見せた。

 それぞれのグループリーダーに一個ずつ配られたものだった。


「本当はまだ告げる時期ではないと思っていたが……」

 デニス副隊長は観念したように続けた。


「カタリーナ様をお守りする最後の手段がある」

 

「最後の手段?」

 ロッテはデニス副隊長の言葉を繰り返した。


「魔力は無尽蔵にあるものではない。限度を越えると自分の命を削ることになる」

 それはホーラントのフロリスも言っていたことだった。


「フアナ姫の限度は一人の命と同量だと上部は推測している。つまりそれ以上の力を使えば、フアナ姫は自分の命を縮めることになる」


「ということは……」

 ボブが蒼白な顔でつぶやいた。


「うむ。魔力で一人の命を奪ったなら、それ以上の攻撃はせずに撤退するだろうと我々は予測している。あくまで推測値じゃがな」


「まさか、誰か一人が犠牲になるってことですか?」

 ボブが叫び、ロッテも青ざめた。


「心配するでない。まずはこの老いぼれが出よう。そして出来ればこのリストシールドに渾身の一撃を受け止める。うまく魔力をここに向けられたならいいが、少しでもれたならわしがその犠牲となろう。だが中途半端な魔力しか引き出せず、わしが倒れた後もまだ進もうとするなら、年の順じゃ。次はお前が犠牲となれ、ボブ」


 名指しされてボブはあわてた。


「そ、そんな……。オレには妻も幼い子供もいるんですよ。まずは町民騎士のヨルダンが行くべきでしょう!」

 

 ボブは体も大きく頼りになる存在だと思っていたが、崖っぷちに立つと本性が出てくるものだ。町人の命の方が自分より軽いのだと臆面もなく言い放っていた。


 ヨルダンはそんなボブを口端を上げてバカにするように嗤った。


「な、なに笑ってやがる! どうせお前は一人者なんだろう! こういう時は町人のお前の方から進んで志願するもんだ。まずはお前が犠牲になれ!」


 すっかり動揺して好き放題に言うボブだったが、さすがに一番若く西の小公子でもあるフロリスに犠牲になれとは言わなかった。しかし町民騎士たちの微妙な立場が分かったような気がする。心の中でこんな風に思っている貴族騎士たちに、ヨルダンが心を開かないのも当然だ。


 そしてヨルダンはうすら嗤いを浮かべたまま答えた。


「いいですよ、志願しても。でもそれはつまり、このグループの序列順だと思っていいんですよね。あんたがオレの部下ってことですよね」

「な! なんだと?!」


「真の騎士とは、自分を犠牲にしても部下を守るもの。そう教わりましたが?」

「う……ぐぐ……それは……」

 騎士道を問われると、ボブもさすがにそれ以上の暴言を吐けなかった。


「落ち着け二人とも。まずはわしが行く。フアナ姫の一団が見えてきたぞ。さっきと同じように拝礼の姿勢をとるのじゃ」


 デニス副隊長に命じられ、ロッテたちは進路を防ぐように横一列に並んで膝をついた。

 東の側室塔の向こうに紫の一団が見えてきている。


 濃い紫の侍女服を着た女性が十人ほどと、その真ん中に黒地に紫の花柄のドレスが見えた。

 同じ柄でできた薄いヴェールを金の環でゆるく頭に留めている。

 こちらから顔は見えないが、向こうからは見えるのかもしれない。

 それはつまり……。

 視線の先が見えないということだ。


 誰を見ているのか……。

 こちらからは分からない。

 視線を防ぐ訓練など、意味がなかったと全員が思い知った。


 そして蒼白になって並ぶ四人にまっすぐ近付いてくる。

 

 不思議な存在感だ。

 歩いてくるというより、流れてくるように見える。

 ふわりふわりと重量感のない団体が、ゆっくりとこちらに向かってくる。


 膝をつくみんなが緊張しているのが分かる。

 ボブの胸に当てた右手が震えているのが、うつむいた視線の先に見えた。

 しかしヨルダンはカタリーナ姫の時と違って、今回は落ち着いている。


「そこをおどきなさい。フアナ様がお通りになられます」


 侍女の一人の声が響いた。

 それは何の抑揚も感情も含まれていない無機質な声だった。


 デニス隊長がスッと一歩前に出て、再びひざまずいた。


「畏れながら王様からここより先には誰も通さぬよう言い付かっております。お通りになるなら王様の許可をもらわねばなりません。いましばらくお待ち願えませんでしょうか」


 とりあえず援護の騎士が来るまで時間かせぎだ。

 この間にカタリーナ姫を隠すことも出来るだろう。


「誰に物を申しておる。この方はフアナ様ですぞ。ご欠席の王太后さまのお言葉を伝えに来られたのだ。さっさとおどきなさい」


 言葉は厳しいが、口調は単調で相変わらず抑揚がない。


「申し訳ございません。王様のご命令ですので勝手にお通しするわけには参りません」


 副隊長は毅然と言い放った。


「無礼な。気にせず参りましょう、フアナ様」

 侍女たちは副隊長をよけて、通りぬけようとした。


 しかし、デニス副隊長はさらにその前に移動してひざまずいた。

 先代の王様の十七騎士だったというデニス副隊長は、やはり肝がすわっている。


「たとえどなたであろうとここを通す訳には参りません。残念ながら我らはフアナ様のお顔を見たこともございません。本物のフアナ様である確証が持てぬ限りは通せません」


 恐れ知らずのデニス副隊長の言葉に、横に並ぶボブの方がごくりと息をのんだ。


「このフアナ様がニセモノだと申すか!」

 侍女の言葉は抑揚はないものの、少し語気が強くなった。

 わざと怒らせて、渾身の魔力をここで使い切ってしまうよう仕向けている。

 まさに騎士の模範ともいえるデニス副隊長にロッテは感動さえ覚えた。


「我らには判断のつかぬことゆえ、しばらくお待ち頂きたいのです」


 そろそろ王様の元にマルコが辿り着いたことだろう。

 急いで王様とカタリーナ姫を安全な場所に逃すまで、もうしばらく足止めが必要だ。

 出来ることなら、魔力をここで無駄に浪費させたい。


 しかし……。


「わらわの顔を知っている者がこの中におる」


 一団の中心から這いのぼる、意志を持った生き物のような声が響いた。

 声自体がロッテたちの体に纏わり付いて、首を締め付けるような気さえする。

 ロッテはハッと思わず顔を上げた。


(フアナ様?)


 確かにその声は、紫の花のドレスを着た女性から聞こえた。

 だが、ロッテは瞬間的に(違う)と思った。


 正確には、二年前に会った時に聞いた声と違う。

 話し方も違う。


 二年前も妙な威圧感のある女性だったが、もっと分厚い貫禄のようなものがついた。

 たった二年でこうまで変わるものなのか……。


(ニセモノじゃないのか……)

 そんな疑いが浮かんだ。


 しかしその思いはすぐに打ち消された。


「そなた。前に会ったのう。覚えているぞ」

 そんな言葉を繰り出すフアナ姫の視線が、ロッテに向かっていることが誰の目にもはっきりと分かった。




次話タイトルは「最初の犠牲者」です

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