表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/302

1-38:75年目の春です(2)

ビルジットは目の前の光景に安堵の吐息を吐いた。


「厳しい冬ではありました。しかし今年の春は希望が芽吹いていますね」


目の前に広がる苗の青々とした様子を見ながら、感動以上に安堵の思いが強かった。


昨年の秋、残念ながらあの不思議な木は実を付ける事は無かった。しかし、その後も順調に成長をしており今年の春に植えられる苗は昨年同様見るからに元気であった。

木は試験農場において根付いている為、昨年のように移動させることによって生育補助をする事は出来ない。しかし、それこそ昨年秋に行われた調査隊派遣によって持ち帰られた実の中に、同じ木と思われる芽がめぶいたものがあった。

すでに効果が確認されており、今年は更なる改革が可能と思われていた。


「ロマリエ、冬が明けての村々の状況調査はその後どうですか?」


「はい、残念ながら最北にある村3つが無くなっていました。村人の半数以上が凍死し、更には畑は凍え、再開拓は困難、その後村を維持する事は不可能と判断しました」


「そうですか、それでも村3つで済みましたか」


「まだ確認中の為、何とも言えませんが。ただ、秋まで生き延びられるかどうか不安と思われる村も多数あります」


「食料ですか?」


「食料もですが、どちらかと言えば心の部分が大きいでしょうか。今年の作物の出来次第によっては流民の増加、反乱などの可能性も否定できません」


「過去の歴史に準ずると、今年の天候はどう読んでいますか?少しは暖かくなりそうですか?」


「専門家の意見はまちまちですね。ただ、総じて歯切れが悪い物言いしかしません。恐らく予想など出来ないのでしょう」


「そうですか、調査達からの報告では無事試験場が出来たとの事でしたね。あと、思いのほか魔物からの被害は出ていないとの事でした。どうでしょうか、思い切って追加で流民達を送り込んでみては?」


ビルジットの言葉に、ロマリエは否定的な反応を示した。


「どうなのでしょうか?もし魔物の反発を受ければ今ある試験場すら崩壊しかねませんが、今出来るのは魔の森からどこまで離れた場所まで育成の効果があるのかを早急に行い、移民候補地の選定を行う事が第一と考えます」


「そうですね、今ここで焦っても仕方がありませんね」


ビルジットは素直に自分の意見を取り下げ、ロマリエに調査結果を少しでも早く出せるよう指示するのだった。


◆◆◆


調査隊責任者の面々は、今新たに入手した情報をどうするかで会議を行っていた。

試験農場を魔の森から離れるように500メートル毎に4個所造り、すでに各種の作物の植え付けは終了していた。

残念ながら新たな水源の発見には至らず、井戸を増やせていない為に水遣りには苦労している。それであっても順調に推移していると判断は出来た。

その中において、森で採集、調査している者達から思いもよらない報告が上がってきた。


「で、くどい様だが見間違いではないのだな」


「すでに3人の者が見ております。当初、慌てて保護しようと追いかけましたがまったく追いつきませんでした。更には、まるで狼達が守るかのように保護している光景も確認出来ました」


「そうか、そして、最後にその子供達の額に角が確認出来たという事だな」


「はい。それからは見かけても追跡をしない様に調査隊の面々に通達しております」


会議室にいる面々は、先日から噂され、改めて受けた報告の内容に困惑を隠せなかった。

人型の、ましてや子供のような魔物の存在を確認。こんな事を本国に報告しても信じて貰えるのか、更にはこれが人型の魔物の子供だとしたら、大人もいるのかどうか。

調査隊に寄れば子供の身体能力は調査隊の面々を楽に凌駕する可能性もあった。

その為、今後の対応を改めて検討する必要が出ていた。


「あと追加情報なのですが、その魔物が身に着けていた物が先日魔物達に盗まれた衣服ではないかとの事です」


「それは、魔物達はあえて衣類を奪ったという事か?」


「解りません、ただその可能性はあるのではないでしょうか?」


「ふむ、とにかくこちらからその魔物に接触する事は禁止してくれ。もし相手側から接触してきた場合も命に危険が感じられない限り戦闘は控えるよう通達しよう」


「それは、居ないものとして扱うと?」


「いや、ハインツ達に遠隔からの調査及び監視をさせよう。驚異度がわからん、ハッキリ言ってウサギにすら負ける兵士がいるのだ、人型の魔物などどれほどの強さか、考えたくはないな」


「わかりました、急ぎその旨を指示徹底させます」


「頼む、せっかく魔物と争う事が無く此処まで来ているのだ、可能な限り安全を確保したい」


ロイドの言葉に、他の面々も頷き同意を示した。

そして、その者達がそれぞれ指示を徹底し、その為その後も度々魔物の子供を見かける事はあっても問題が発生する事は無かった。

しかし、そのロイドの下に彼らを不安にさせる報告が届いた。


「大量の移民が現れただと!」


「はい、どうやらフランツ王国から強制的に送り込まれたようです。戦地跡にて拠点を作り始めています」


その報告に、彼らは緊張を高める。


「部隊長を集めろ!最悪戦いになるぞ!・・・魔物とフランツ、どちらと戦う事になるかは解らんがな」


75年目の情勢は更に混沌としてくる。

明日、明後日は出かけちゃいますので次の更新は早くても16日になります。

宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ