1-36:74年目の秋です
秋ですよ~~ようやく秋がきましたよ!
実りの秋にちょっと浮かれている樹です!
今年もわたしは沢山の実を付けましたよ!でも、確かに花が咲いてその後実が成ってますけど受粉してるのでしょうか?
花自体も気分によってなんか違う花が咲いてますし、それ以上に実が、実が様々な種類なんです!
摩訶不思議ですね、どうなっているのか全く解りません。
まぁそれで実が成って、その後に樹や草や花が育つのでまぁいいかな?と思いますけど。
きっと深く考えると負けなのです!
今年は、森の中も大賑わいですね。
集まっていた人族も、その後特に森に悪さをする事無く半数以上が帰って行きました。
動物達も漸く落ち着いてきて、今はせっせと冬籠りの準備に邁進してます。
リスさんは隠し倉庫を見つけられたのに懲りたのか、すぐには見つからない場所に木の実などを隠しています。でも、さっきから見てるのですが以前以上に隠した木の実を見つけれなくなってませんか?
隠した傍からなんかあれ?どこだっけ?みたいな挙動をされるリスさんが多い気がしますよ?
とりあえず穏やかな秋が訪れてわたし的には満足です。
今年の冬はゆっくりと寝られるかな?・・・・とそんな事を思っていた時期がわたしもありました。
いえ、嫌な予感はしてたのです。残られた人族の方達が、子供連れの方たちの居留地にずっと一緒にいる事にも気が付いていましたよ。
みなさん協力して地面を耕している様子も見ていましたし、争いごとにならなくて良かったねって思ってました。でも秋も半ばに差し掛かろうかと言う時、なんと前以上に多くの人達がぞろぞろとやって来たのです。
ただ、みなさん見るからに兵士の人ではないですね、どの方も服装も、体型も、もっている荷物もあまり裕福そうではありませんね。またもや移民さんか難民さんぽいですね。
でも、その引率をされてる人は先日お帰りになられた人ですね。案内人をされたのでしょうか?
おや?中にはちょっと不思議な格好をしている人もいるみたいです。
馬車から何かの荷物を下し始めています。
ん?あ、苗木もありますね、なんでしょう、大事な木なのでしょうか?
ただ、残念ながら意思疎通は難しそうです。こんにちは~と意識を送っているんですけど音沙汰なしです。
うちの子達はやっぱり血縁だから意思が感じ取れるのでしょうか?
ともかく、来られた人のどの方も表情は比較的明るいです。居留地へとまっすぐ進まれていますから、もともと計画的な移民なのでしょうけど・・・あの、わたしはあまりお勧めしませんよ?
ですから、せっかくピリピリしなくなった動物さん達が、それはも警戒感満載ですよ?
オオワシさん達もぶんぶん飛んでますよ?
今まで動物さん達があの人達を攻撃しなかったのは、もちろんお食事として魅力が低かったのもあるんですが、それ以上に人数が少ないという事もあったのですよ?
絶滅させるのは忍びないとか、まぁ滅多に出会わないしとか、そんな気持ちがあったのかは知らないですけどですね。
え?なんですか?知らないのかよ!ですか?だってわたし動物じゃないですから、何となく自分達のメリットすくないから襲わないって雰囲気で知ってますけどそれぞれのメリットが何かは把握してませんよ?
する必要ないですからっていうか知っても意味ないですもの。
勘違いされているかもしれませんけど、わたし樹ですからね!動けない、喋れない、戦えない、ないない尽くしですよ?みなさんはわたしに何を求めているのでしょうか?
◆◆◆
「ロイド殿、柵を設置する範囲はこの辺りでよろしかったでしょうか?」
ゲーリックは、いつの間にか開拓調査団へと併合されていた。拠点を移してから数日後に大挙して兵士を含めた一団が訪れた時、咄嗟に皆で逃げようとした。しかし、兵士達の対応は素早く、結局逃げることは出来なかった。
その後の話し合いにおいて、彼らはまだ数ヶ月とはいえこの地に住んでいたゲーリック達の情報を重要視していた。なぜ彼らは襲われなかったのか、どうすれば森へと危険が無く入れるのか、これから様々な試行錯誤が繰り返されるだろう。しかし、今の段階においてゲーリック達は確かに一日の長があった。
その後、彼らが森で収穫した木の実などを一つずつ調査団にいる植物学者が調べ始めた。
それに合わせて調査団はこの地に村を作ろうと計画をしたいた。
その為、すでに井戸を掘り当てていたこの場所は彼らにとって重要な位置を占める事となった。
そして現在、村を囲う柵の制作と合わせて、調査団に同行していた移民達がせっせと冬麦を育てるための畑作りに邁進している。
「そうですね、現在の人員を考えればその範囲で構いません。これ以上人を増やすならその者達は別の場所に拠点を作る方が安全でしょうし」
第一次探索を行ったロイド達が、今回の調査団の中心となっていた。元々、探索者としても、戦闘力としても一流に名を連ねている。そして、一度であろうとも魔物を倒しているという実績は大きな意味を持っていた。併せてポートランド公より多額の報酬を約束されている。その報酬があれば探索者を引退する事も可能だ。その為、彼らはこの地に何としても拠点を作らなければならなかった。
「トスカ殿の様子はいかがですか?出来ればもう少し近場で井戸が欲しいのですが」
当初ゲーリック達がいた拠点では、森から近いとの判断がされていた。その為、今この場所で拠点を作っても井戸まで水を汲みに歩かなければならなかった。
「残念ながらこの近くでは厳しいみたいです」
「そうですか、そうなるとこの場所も仮の拠点となりそうですね」
「ただ、この冬を迎える前に実験を始めないと、半年を棒に振ってしまいます」
ロイドの言葉にゲーリックも頷く。
幸いにして、彼らは数人ずつのPTを組み、交代で森に入り採集を行っていた。
そして、今の所少数であれば魔物と遭遇しても襲われない事が解っている。
更にはこの冬を何とか越せるくらいの収穫を得る事が出来ていた。
「この地で作物がどのように育つか、その為の調査隊ですからね」
アンジュが植物の苗を手に歩いてきて、そう話しかける。
その苗はまだ鉢植えに植えられた状況ではあるが、葉っぱは元気よく緑色に色付いている。
「それはアプルの木か?」
「ええ、比較的寒さにも強いから持って来たの。で、問題はこれをどこに植えるかでね、思い切って森の真横に植えてみようかと」
「ふむ、どうせ植えるなら一番効果が出やすい所に・・・か」
ロイドの言葉にアンジュは大きく頷いた。