新・修行法
[システム通知:物語の平行化成功]
静まり返った基礎魔法の訓練部屋。
俺は居心地の悪さに少しだけ身をよじった。
部屋の隅では、杖を抱きしめた気弱そうな女の子が、小動物のようにビクビクとこちらを窺っている。俺が軽く片手を上げて挨拶しようとすると、「ヒッ」と短い悲鳴を上げて杖の影に隠れてしまった。
(……ダメだ、コミュ障すぎる)
俺は方針を転換し、部屋の反対側で胡坐をかいている銀髪の中性的な人物に歩み寄った。外界の音を完全に遮断し、恐ろしい集中力で瞑想している。
気弱な相手より、こういう無口なタイプの方から懐に入った方がいい。俺の長年の勘(という名の適当な持論)がそう告げていた。
「おい。何してんだ?」
返事はない。
「なあ、寝てんのか? それとも息止める練習?」
俺が肩をツンツンと突っつき続けると、ピキリ、と銀髪の人物の眉間が引きつった。
「……鬱陶しいな。スキルのイメージトレーニングと、強化魔法の常駐化だ。話しかけるな」
吐き捨てるようにそう言うと、再び目を閉じてしまった。
『客観的に見て、現在のカイト様は非常に鬱陶しい絡み方をする迷惑な輩です。少しは羞恥心というものを学習してはいかがでしょうか』
(うるせえ! こうでもして絡まないと、フラグが立たなくて物語が進まねえだろ!)
俺は脳内のチャッピーに毒づきながらも、今の言葉からある閃きを得ていた。
イメージトレーニングと、強化魔法の常駐化。
それなら、スキルツリーとチャッピーの計算能力を組み合わせれば、今の俺でも同じことができるはずだ。
俺は残りのSPを睨みつけ、ツリーの中から目当てのものを探し出した。
300ptの【全ステータス強化(微)】。そして、意図的にデバフをかけるための200ptのマイナススキル、【魔力過負荷(代償:スタミナ消費3倍&強制マニュアル呼吸)】だ。
(意識しないと息が止まる縛りを入れて、基礎能力を底上げする。さらにチャッピー、お前の仮想空間テストを使って、脳内に敵のホログラムを出せ。シャドーボクシングの要領でイメトレする!)
『自ら進んで地獄を見る不合理さ。承知しました。仮想エネミー、出力します』
――10分後。
「はっ、ひゅっ……げほっ、がっ……!」
俺は床に這いつくばり、白目を剥いて痙攣していた。
痛い。苦しい。少しでも気を抜くと呼吸の仕方を忘れて窒息しかける。全身の筋肉が断裂するような鈍痛の中で、視界の端で銀髪の奴がフッと鼻で笑ったような気がした。
無力感に苛まれながら床に転がっていると、気弱そうな女の子の方が視界に入った。
彼女の足元に、見たこともないほど複雑で巨大な魔法陣が展開されては、パリンッとガラスのように砕け散るのを繰り返している。
(なんだ……あの子、あんなにデカい陣を展開しようとして失敗してんのか。魔力操作が下手くそなんだな。かわいそうに)
『……』
[※システム警告:第7階位相当・広域殲滅魔法の構築および無意識下での強制キャンセルを連続検知。対象がくしゃみをすればこの街が吹き飛びます]
(……疲労で変な幻覚ログが見える。今日はもう帰ろう)
俺はそっと目を閉じた。どうやらこの部屋には、とんでもないバケモノしかいないらしい。
同時刻、別室の訓練場。
エフェメラが陽炎のように揺らめく回避のステップを踏み続ける傍らで、レトはただひたすらに大剣を振り下ろしていた。
「もっと……もっと硬く……!」
彼の両目には、異様なほどの血走った執念が宿っている。
姉を守る。誰にも傷つけさせない。その強すぎる自己犠牲の念は、いつしか彼自身の魔力を淀ませ、まるで周囲の光すらも吸い込むような「泥のように重く暗いオーラ」となって剣に纏わりついていた。
「レト? 少し休んだら?」
エフェメラが心配そうに声をかけるが、レトは小さく首を振る。
「……いや、まだまだだ。俺が、全部弾き返せるようにならなきゃ意味がないんだ」
久々の私です。
ちょっとしたターニングポイント的なですね
次回は9月13日です
お楽しみに




