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黎明のファントム 第1章

マルス誕生の7年前、ガバメント社のロボットに対抗しうるロボットを開発するため、ダグラス社内に一つの開発プロジェクトが発足した。Jナンバーシリーズ開発プロジェクトである。

 発達したロボット兵器の暴走から、世界が壊滅的な打撃を受け、国家体系が崩壊してから約100年後、世界はシティと呼ばれる拠点を中心に世界連邦を構築して復興を遂げていた。しかし、人類の淘汰を主張する武装テロリスト「セレクターズ」がシティに対する無差別攻撃を開始し、世界は再び不穏な空気に包まれる。

 連邦歴109年、プレストシティにあるダグラスインダストリーの一室に、ダグラスインダストリーを代表する技師である、スミス、敷島、上原が集められていた。集めたのはダグラスインダストリーのCEO、ジム・ダグラスである。

「皆さんに集まっていただいたのは、これから重要な開発をお願いしたいと思いまして・・・ 少々、無茶な要求かもしれませんが、話だけでも聞いていただけませんか」

 三人はとにかく話を聞こうと頷いた。

「今、軍事の世界ではガバメント社のロボット兵器が大量に導入されている。しかし、このロボットは単純な殺戮破壊兵器であり、人類を無差別に殺戮する可能性もある。そこで、ガバメント社のロボット兵器に対抗できるロボットを1年以内に開発してほしい」

 一つ咳払いをして、上原が意見を述べる。彼女はダグラスインダストリーで人工頭脳を開発する女性技術者である。

「開発はいいですが、会社として利益をもたらすものでなければいけません。今、軍事はガバメント社の独占状態です。連邦軍司令部はガバメント社の兵器の導入を推奨し、それ以外の会社の兵器は採用を原則、禁じられています。そのような中で、利益を得られるようになるのですか」

 ジムは率直な意見を妨げようとはしない。

「ごもっともな指摘です。会社である以上、利益を得なければならない。現状では売り込む余地はほとんどないが、かといって、チャンスがこないとも限らない。いざ、チャンス到来と言うときに、肝心の駒がなければ勝負にならない。だから、準備が必要なのだ」

「なるほど」

「それに、これは私個人の懸念でもあるのだが、ガバメント社のロボットが暴走したとき、どのように対処すべきか。100年前のロボットはそれほどの性能ではなかったから、なんとか人間でも戦えたが、それでも人類の大半を殺戮するのに十分だった。現状のガバメント社のロボット相手では、人間がかなうはずもない。奴らに対抗しうるのは、それ以上の性能をもつロボットだけだ。それも、人間のために戦ってくれるロボットだ。私がロボットを開発しようとしているのは、それが最大の理由だ」

 話を聞いていた敷島が口を開く。

「人工頭脳の開発は、スミス博士と上原博士にお願いしなければなりませんが、ロボット本体の開発はやってみましょう。実は、3種類のロボットの素案があります。今度の経営者会議で開発の承認を得ようと検討していたものですので、すぐにでも、開発プランを提案できます。一年以内にガバメント社のロボットに対抗しうるロボットを開発するというのなら、その3種類を同時に開発し、どれがベストか試作モデルで確認した方が良いでしょう。それで予算はいかほどですか」

「必要十分な予算は確保する。開発のための人員、リソースも可能な限り割り振ろう。敷島博士、開発スタッフは好きに招聘して良い。私が取り計らおう」

「ありがとうございます。では、頑張ってみましょう」

「スミス博士と上原博士はいかがですか?」

「敷島博士が頑張るのなら、我々もやります。いや、やりがいのある仕事だと思います。是非やらせていただきたい」と、スミスも同意した。

「では、私もやらせていただきます」と上原も言った。

「ありがとう。皆さんの力があれば、必ず実現できるものと信じる。敷島博士、その3種類のロボットの素案はいつ提示できますか」

「明日にでも」

「では、スケジュールを調整し、経営者委員会を招集するようにする。そのときはよろしくお願いします」


 招集された経営者委員会での席上、敷島は3体のロボットの開発プランをプレゼンしていた。ジム・ダグラスが依頼する前から、敷島は十分に検討していたようで、かなり具体的なプランであった。

「以上、Jナンバーシリーズ開発の提案です」と敷島はプレゼンを終えた。

「3種類のロボットすべてではなく、どれか1種に絞れないか。その方が開発リソースの節約になる」という意見が出された。もっともである。敷島の答えは明確だった。

「今回は、なるべく早くガバメント社のロボットに対抗しうるロボットを開発することを優先します。この3種類のロボットはそれぞれコンセプトが違います。しかし、どのタイプが実際に有効かどうかは作ってみないと分かりません。だから実際に3種類を作ってみるのです」

「しかし・・・ その1号機と2号機はいいとして、3号機は身長155センチ、まるで子供じゃないですか、そんなもの、作ってなんになるんですか」

「これは、新しい試みです。ロボットの機動性能は体の大きさ、重量に反比例します。重武装のロボットと対峙したとき、機動性能で圧倒すれば良いのではないかという考えに基づき構想しました。もちろん、活動時間などの制約も厳しくはなりますが、メリットがデメリットを上回れば有効かと」

「面白い」という図太い声が響く。経営の重鎮ラルフ・カーペンターだった。

「3種類とも特性が分かれている。それぞれに長所・短所があるだろうが、開発してテストしてみなければ決定的なことは分からない。ならば、3種類とも開発すべきだと私は思う。3種類とも有能で、すべて製品化できればなお良い。開発を主導する敷島博士の負担が懸念材料ではあるが、博士がやるというのなら、我々は全力を挙げてサポートする。それで良いのではないか」

 カーペンターの影響力は大きい。会議の流れは決まった。

「一つ確認したいことがあります」と経営監査委員会の委員長であるアリス・ダグラスが発言した。

「開発するのは良いとして、どのように利益と結びつけますか?」

 これにはプロジェクトの発案者であるジム・ダグラスが答えた。

「まずは民間軍事会社を興す。開発したロボットを主戦力として派遣するようにする。さらに、警察のテロ対策部に売り込む。テロ対策部はすでに我が社のロボットを導入しているから、実現性は高いだろうと考えている。あとは・・・ 正規軍への採用を目指す。もし、プレストシティの政権交代がおこればチャンスはある」

「防衛軍の刷新がなければ無理なのでは」とアリスの意見は辛辣だ。

「その点は、野党の牧原党首と話し合ったことがある。防衛軍が当てにならない以上、政権をとれば、別の軍組織を立ち上げる計画らしい。その場合、実働戦力の確保が困難なため、ロボットによる戦力提供を牧原党首に内々に依頼されている。つまり、来年の総選挙で政権交代があれば、十分な需要が発生する。逆に言えば、それまでに、提供できるロボットを開発する必要があるのだ」

「分かりました。需要は十分にあるということですね」

「そのとおりだ」

「ならば経営監査委員会としても問題ないと考えます」

 ジム・ダグラスは宣言した。

「では、Jナンバーシリーズの開発プロジェクトを発足する」

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