エピソード28 インぺリア王国へ
ミネルヴァ王女に手紙を書いてから1カ月、返事は一向に返ってこない。
もしかしたら、届いていないのかもしれない。
私は、レオドール辺境伯の元に出向いて、相談する事にした。
周りの者は止めたが、私の意志は変わらなかった。
店の事を従業員とオーレッド公爵夫人に頼み、私はアンナと共に旅立った。
レオドール辺境伯は、国境沿いの居城に住んでいらした。
そこを、訪ねる。
忙しい中、レオドール辺境伯が自らの部屋に、私達を招き入れてくれた。
「シャローラ様の婚約者を守れず、誠に申し訳ございません。重ねてお詫び申し上げます」
彼は、深々と頭を下げる。
「重ねての謝意、ありがとうございます。しかし、今日は、その事ではないのです。私は、ミネルヴァ王女にルーベルトの捜索に協力してほしいと手紙を書きました。しかし、この時世、彼女の手に渡ってはいないようなのです」
私は、言った。
「確かに、両国の関係が冷え込む今、我が国からの手紙が、かの国の王女の手に渡るとは考えにくいでしょう」
レオドール辺境伯は、そう答える。
「そこで、辺境伯に取り次ぎをお願いしたいのです」
ミネルヴァ王女への連絡を頼む。
「どうして、私なら連絡が出来ると考えたのですか?」
彼は、そう聞いてきた。
「ダニエラの一件での様子を見る限り、敵同士でありながらレオドール様とミネルヴァ王女の間には信頼の様なものを感じました。もしかして、レオドール様なら、直接の連絡が可能なのではと思ったのです」
確信は無い。
ただの勘だと言われればそうだ。
しかし、こういう時、女の勘は鋭い。
「…確かに、私とミネルヴァ王女の間には、紛争を無駄に大きくしない為に秘密の連絡網が、ございます。しかし、王女には、既に兄の事を連絡してあります。重ねて問い合わせても、無駄でございましょう」
彼は、そう答える。
そんな事が出来るなら、ルーベルトの事は既に頼んでいるだろう。
予想は出来た事だ。
でも、自分の目で見なければ、諦めがつかない。
「私が、直接、インぺリア王国側に参ります。そう王女に伝えてほしいのです」
私は、真剣な眼差しで辺境伯を見た。
「分かりました。あなたの目を見る限り、止めても無駄の様だ。出来るだけの事はしましょう」
辺境伯は、そう答えてくれた。
数日後、夕闇にまぎれて、レオドール辺境伯と手勢数人に連れられた私とアンナが、紛争地帯の中を徒歩で進んでいく。
やがて向こうに、ランタンの灯りが見えた。
インぺリア王国の兵士が数人、私達の方へ向かって歩いてくる。
アンナとレオドール辺境伯と別れ、彼等についていく。
ここからは、完全に自己責任だ。
どうなっても、辺境伯には文句を言えない。
アンナは着いてこようとしたが、私の我儘で彼女を危険に晒すわけにはいかない。
ブロワーヌ王国側に行けば、ルーベルトに会えるかもしれない。
その希望が、恐怖を上回っていた。
しばらく歩き、インぺリア王国側の国境警備隊の野営地に到着した私は、馬車に乗せられミネルヴァ王女のいる王都に向かった。
兵士達は、何も話してくれなかったが、終始丁寧な対応をしてくれた。
夜半に王都に着いた私は、郊外にある立派な宿に泊まり、王女を待つ事になる。
あの王女様ならば、必ず力になってくれるに違いない。
私は、そう確信していた。
数日後、宿の私の部屋に、前見たのと同じ地味な庶民的な服を着たミネルヴァ王女がやってきた。
溢れ出る高貴さは、そんな格好でも隠す事は出来ない。
以前よりも強く感じた。
そして何より、美しく頼りがいがあるように思える。
似た顔をしているのに、どうしてこんなに印象が違うのだろう?
「こんなところまで来るとは、相変わらず彼の事を愛しているのね。今まで公務で手が離せませんでしたが、私が必ず力になります」
ミネルヴァ王女は、私を抱きしめて下さった。
「はい。やっと自分の気持ちに気がつきました。どうか、王女のお力でルーベルトをお救い下さい」
彼女の胸の中で、お願いする。
「分かりました。私自ら捜索に出向きましょう」
ミネルヴァ王女は、はっきりと仰った。
よろしければ、評価、ブックマークしていただけると嬉しいです。
励みになります。
注)一部、国名の入れ違いがあったので修正しました。




