エピソード27 行方不明
それから1週間ほど経った、ある日。
レオドール辺境伯が、屋敷にやってきた。
身綺麗にはしているが、その顔には疲れが隠せない。
私とアンナが、彼を出迎える。
「シャローラ様。これは、まだ内密の話です。決して口外なさらぬように。しかし、あなたには直接伝えなければと参上しました」
彼が、重々しく口を開く。
「やめて!」
私は、その場を逃げ出した。
寝室のベッドに潜り込んで、耳を塞ぐ。
彼の態度から、私は何かを察した。
ルーベルトに何かあったに違いない。
そんな話は、聞きたくなかった。
彼が出征してから数日、どこかにあった不安が現実になるのが恐ろしい。
「シャローラ様、思った以上に大きな戦闘になり、ルーベルト殿下が行方不明になったそうです。兄を守れず、申し訳なかったとレオドール様が…。敵が前進して捜索も、ままならず。しかし、死んだと決まったわけではないので、気を落とされませんようにとの事です」
アンナが、寝室のドアの向こうから、レオドール辺境伯からの話を伝えてきた。
思った通りの内容。
敵の勢力圏で行方不明。
生きているはずがない。
気休めはやめて…。
不安に思っていた事が現実になってしまった。
目の前が全て、真っ暗になってしまった。
こんな時になって、やっと分った。
私は今、ルーベルトを愛している。
子供の頃から、ずっと好きだった。
でも、それを一言も伝えてあげる事は出来なかった。
せめて、出征前に言うべきだった。
もう、それも出来ない。
彼の端正で綺麗な顔が、私に優しく笑いかける。
あの笑顔を見る事は、二度とないかもしれない。
もうすぐ、二人は結ばれるはずだったのに。
何度悔やんでも、時間は元に戻らない。
私は、心を閉ざし、考えるのをやめた。
そのまま何日も、ベッドから立ち上がる事は出来なかった。
ほとんど食事もせずに、横になったままだ。
アンナが無理矢理に口に入れてくるスープと水を少し飲んだだけ。
両親や、オーレッド公爵夫人が見舞いにきてくれたが、一言も喋る事は出来なかった。
ルーベルト王子が行方不明という話は、外に一切漏らされていない。
ただ、私とルーベルトの婚約お披露目については、無期限で延期となった。
彼が行方不明になって2週間。
国境の紛争は今回も小規模で終わったが、ルーベルトが見つかる事は無かった。
そして、私を毎日見舞いにくるオーレッド公爵夫人が、ついに怒り出した。
私の顔を引っぱたく。
「気丈な、あなたは、どこに行ってしまったの!?あなたが、ルーベルトの生存を信じないで、誰が信じると言うのです!」
彼女が、大きな声で言った。
「はい…はい…」
私は、顔を両手で覆って泣き出した。
今まで出なかった涙が、溢れ出る。
胸の中にあった、少しの希望が光り出した。
そうだ、私とルーベルトが遭難した時も、二人は生き残った。
彼なら、敵地でも生き残ってくれているかもしれない。
どんなところに隠れていても、なんとかなる。
私達は、しぶといのだ。
ルーベルトが、私の事を諦めるはずがない。
必ず戻ってきて、また私を愛してくれるはずだ。
次の日、弱った足腰に鞭を入れて、私は立ち上がった。
身支度をしてくれるアンナに、私は言った。
「心配かけて、ごめんない。今日から店に出るわ。あの人が帰ってきた時に、恥ずかしいところは見せられないもの」
アンナは、泣いて喜んでくれた。
そして私は、とにかく出来る事をしようと考えた。
インぺリア王国の第3王女ミネルヴァ様に手紙を出す。
彼女なら力になってくれるかもしれない。
痩せすぎてドレスが着れなくなってしまわないように、食事にがっつく。
ダンスのレッスンも再開した。
同情されているせいなのか、店は前より繁盛している。
後は、待つしかない。
ルーベルトは、必ず戻ってくる。
私を心配させた、あいつに絶対文句を言ってやる。
不安で押し潰されそうになる気持ちを、何とか奮い立たせて毎日を送る。
彼が戻る日を信じて。
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