第1章 エピローグ
《ウォルス、ジーニャ、エレン編》
戦いは終わった。
ポルファス王国軍より勝鬨の声が上がる。
ジーニャは、オリオンの異形の仮面をそっと拾った。
死を纏う者が消えた場所には、持ち主を失った真っ赤な弓が落ちている。
エレンは、その弓を浄化した。
すると、弓は砕け散り、跡形もなく霧散していった。
ポルファス王国軍の勝鬨の声が続く。
ウォルス、ジーニャ、エレンの3人は、その場から静かに姿を消した。
次の日、3人は魔素の世界に転移してきた。
転移した場所は、旧モルカット王国の廃墟となった王城である。
その地下牢の一番奥には、白骨化した死骸がある。
「そう・・・これが、あの子だったのね。」
エレンが呟いた。
その白骨は、アイラである。
ジーニャは、無言のまま光魔法を使用した。
3人に見守られて、アイラの亡骸は儚く消えて失せていったのであった。
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《オルタス、マゴット編》
死を纏う者は消滅した。
ヒサシンことマゴットは、アイラとシモンの英霊が消え逝く姿を見つめていた。
自分が捧げられる祈りはない。
マゴットは、2人が恋仲にあったことを知っていた。
その2人の最後が、あの優しい光に包まれていることに涙した。
エレンが、自分に掛けられた呪いを解除してくれる。
「すまん。ありがとう。」
「いえいえ。」
エレンは、どうやら自分のことを覚えていないようだ。
きっと、何か理由があるのだろう。
若干の幼さが残る銀髪の少女と目が合った。
どうやら、彼女は自分の正体を知っているように感じられる。
その少女に対して、マゴットは無言のまま首を横に振った。
今更、再会を喜べる状況にはない。
エレンが自分のことを忘れているなら、そのままで良いのだろう。
オルタスは、この戦いを救ってくれた3人に感謝を伝えた。
そして、王宮に招待したいと申し出る。
しかし、全く興味がないようであっさりと断られた。
味方が勝鬨の声を上げる。
皆が涙ぐんでいる。
その声に紛れるかのように、3人は静かに去っていった。
「王宮魔導士殿、あの方々は、一体何者なのでしょうか?」
オルタスがマゴットに問い掛けた。
「うむ。儂にも分からんな。」
マゴットは苦笑で返した。
勝鬨が続く。
それは、勝利した喜びと誇りの叫びであった。
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《フクダン伯爵、マトバン、ミズナ、ルバーツ編》
フクダンは、私兵騎士隊長2人の壮絶な最後について報告を聞いていた。
執務室の中には、マトバンとミズナ、そしてルバーツがいる。
「そうか・・・。」
フクダンは目元を押さえた。
2人は長年に亘って、自分を支えてくれた。
そして、今夜の戦いでもヤークションを救ってくれた。
2人とも、ヤークションにとっては無くてはならない存在であった。
心から感謝しかない。
「夜は遅いが、いまから2人の家族の下に行こうと思う。私が直接出向いて知らせるべきだ。」
フクダンは立ち上がった。
そこに新たな知らせが入る。
副官のマルカーが行方不明であり、その側近が息絶えていたとのことである。
「そうか。」
それは、フクダンにとっては、どうでも良い報告であった。
今回の戦いで、民に被害は出なかった。
それでも、魔族に対する防衛が万全ではなかったとして、この教訓を活かさなければならない。
2人の私兵騎士隊長だけでなく、多くの騎士たちが民を守って倒れたのだ。
その死を無駄にしてはならない。
フクダンは、それを深く心に刻んだのであった。
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《ヒーロ、ケイル、獣人の女の子、ヴィラロア編》
フクダン伯爵夫人であるヴィラロアは、ベッドで眠る我が子の髪を愛おしそうに撫でた。
その後ろには、3人の使用人が控えている。
1人は、老齢で身なりの整った姿の執事。
あとの2人は、メイド服を着用した若い女性である。
それは皆、ヴァンパイアであった。
「ご苦労さま。」
ヴィラロアが、メイド服を着用した若い女性2人に言った。
労われた2人は、畏まって頭を深く下げる。
ヤークションの街中に侵入した敵は、この2人のメイドが始末していた。
それによって、民には一切の被害が出なかったのである。
ヒーロは、今夜“覚醒”した。
人間とヴァンパイアのハーフ“ダンピール”としての力が目覚めたのである。
それは、執事とメイド2人も感じ取っていた。
「奥様、隣の部屋で休ませている子供2人は、如何なさいますか?」
隣の部屋で眠っている子供とは、ケイルと獣人の女の子だ。
「因みに男子は、嘘つきマルカーの倅のようです。」
「そう。」
ヴィラロアは、全く興味を示さない。
「2人のことは、ヒーロに決めさせることにしましょう。」
「仰せのままに。」
その頃、領主であるフクダン伯爵は、殉職した2人の英雄の家族の下に向かっていた。
フクダンの執務室の奥には、異物がある。
それを知るのはヒーロだけであった。
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《カモット辺境伯編》
防衛、夜襲、衝突。
カモットの策により、初日に起きた3つの戦いは全て王国軍が勝利した。
しかし、その勝利を喜ぶものはいない。
王国軍にも甚大な被害が出ているからである。
カモット、王国騎士常駐隊長、私兵騎士隊長の3人は、敵軍を慎重に分析していた。
今回の敵はイバランとマイラン、その2つの国の連合軍である。
その中でも、とくに気になるのはイバランであった。
初日最後の戦いとなったイバラン兵との衝突。
イバラン兵の質は、決して高いとはいえない。
長槍の長さを勝手に変えてしまうことが、その証左である。
王国軍としては、あの場でイバラン兵を壊滅させる必要があった。
しかし、それが叶わなかったのである。
形勢不利と判断したイバラン兵は、即座に退却の陣鐘を鳴らした。
潔き撤退を判断したのである。
イバラン兵の実力が、どうも計り知れない。
「明日は、正念場になりそうだな。」
カモットの呟きを聞いて、王国騎士常駐隊長と私兵騎士隊長は深く頷いた。
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《ラタ編》
「ラタよ。君の初陣が、あの策士カモットを相手にせねばならんのが、とても残念でならんよ。」
グラスに飲み物を注ぎながら、イバラン軍を指揮する将軍はラタに語り掛けた。
この将軍は、ごく凡庸な人物である。
しかし、部下の意見に耳を傾ける心は持っている。
そして、目の前にいる若き将校が、百年に1人の逸材と言われる才能を有していることを承知していた。
「光栄です。でも、この戦いに“意味”はないと思います。」
ラタの驚くような発言を聞き、その将軍は目を丸くした。
「それはどういうことかね?」
「はい。この戦いは、何者かに仕組まれたものだと思えるからです。」
「ほう。」
「当初、敵が我が国を攻めてくるという情報でした。その為、マイランと連合を組んだはずです。」
「そうだな。」
「それが、今日の戦いを見たところ、敵はそれほど多くの戦力を有しておりません。」
イバラン軍の将軍は、腕を組むと陣幕の天井を見つめた。
「偽の情報に踊らされているか・・・・。」
「たぶん間違いないでしょう。」
ポルファス王国が攻めてくる。
その準備が整う前に、敵国の南部を制圧すべきというのが、国からの指示であった。
それが、敵国には攻めてくる意志など無かったとなれば、今回の戦争を仕掛けたのは連合軍側となる。
それは事実であった。
実際、そう仕向けたのは、ポルファス王国の貴族であるシーラオスである。
「これは、深刻な問題になりそうかね?」
「なりますね。ですが、敵の南部を入手できれば、どこか落としどころが見えるかもしれません。」
ラタは、手に持つグラスをテーブルに置いた。
「最低でも、敵の領主カモットを捕虜にしなければなりませんね。」
すでに伏線は敷いている。
恐らくは、敵はそれに気づいていない。
今日の戦いで、戦の経験も知識も、自分はあの策士の足元にも及ばないことは痛感した。
しかし、収穫が無かったわけではない。
「明日は、間違いなく正念場になりますよ。」
「そうか。じゃあ、その計画をしっかりとご教示頂くとしようか。」
イバラン軍を指揮する将軍は、テーブルの上に地図を広げた。
2人の打合せは、深夜遅くまで続くのであった。
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《ミック編》
ミックの部屋にはモノがない。
必要最低限のモノしか置かれていないのだ。
そんな殺風景な部屋ではあるが、窓の傍には“鉢植え”が置かれている。
それはミックが置いたものでは無い。
昔、リアンが部屋に来て、ミックの部屋は寂しすぎるから、花でも置けと言って置いていったものだ。
ミックは、自分でそれを手入れしたことは無い。
そして、それを気にしたことすら無かった。
それが今日は違った。
その鉢植えが目に留まる。
ミックは、窓を開けた。
ゴーレムが手入れしているのだろうか?
考えてみれば、季節ごとに花が変わっているような気がせんでもない。
・・・・まあ、いいや。
ミックは考えることを止めた。
鉢植えの横に、バラバラになったリアンの拳銃を置く。
これ、どうするかな。
バラバラになった拳銃を組み立てることができる奴がいないか、探すしかないだろう。
だが、心当たりがない。
ミックは頭を掻いた。
そして、上着を脱ぐと、シャワーを浴びるべくバスルームに向かった。
鉢植えの花は、黄色のパンジーとビオラである。
ミックは、花の名前を知らない。
ましてや、花言葉など興味もない。
その花は、窓から入る風に優しく揺られていた。
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《キントン編》
ゴーレムは眠ることが無い。
キントンは、湖畔に座って主の像を眺めていた。
キントンは作り変えられたゴーレムである。
自分に作り変えられる前のゴーレム、云わば父親ゴーレムの素材から作り変えられた存在だ。
父親ゴーレムは、6本の腕にそれぞれ違う武器を携えた屈強なゴーレムであったと聞いている。
しかし、主を守って壮絶な最期を遂げた。
その父親ゴーレムを素材として作られた自分は、身体は小さいし武器はこの1本の刀しかない。
最初の頃は、自分の力不足を嘆く日々であったことを思い出す。
その都度、主や皆々には励まされた。
あの時、自分が“心眼一刀”を極めていなければ、きっと主の役には立てなかったであろう。
しかし。
結局は、途中で脱落してしまった。
主の像を眺め続けるキントン。
ふと、自分が空虚の空間で、何か大切なことを忘れた気がすることを思い出した。
「拙者は、何か大事なことを忘れたのではなかろうか・・・・。」
なぜか不安が込み上げる。
MAPを見ると、自分に向かって“青色”の印が近づいてきている。
キントンは、すでに“異世界免許教習所に雇われし者”となっていた。
「湖の中に入ってみるかい?」
キントンに近寄ってきたのは、黒色のゴーレムであった。
「そうでござるな。是非に。」
キントンは立ち上がり、その黒色のゴーレムにお願いした。
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《ゴラン編》
ゴランは、今日という日に何か“意味”がある気がしてならなかった。
キントンと再会できた。
リアンの拳銃が回収された。
オリオンの最期を聞いた。
そして、ついに呪物創造者の手掛かりを得た。
その名を終焉という。
奴こそが、あの戦いの首謀者であり、長年探し続けている敵である。
今日、奴の“作品”は2つ消えた。
きっと、奴はそれに気付いているであろう。
「動き出すであろうな。」
新たな物語がはじまる。
引き続き、2章をお楽しみ下さい。




