第1章 第49話 どうやら勝利したらしい
- 異世界免許教習所 -
僕らは、異世界免許教習所に帰ってきた。
帰還の間に戻ると、すぐに空虚の空間からキントンを救い出す。
一瞬でも足を踏み入れると、記憶をどこかに持っていかれてしまう。
それが空虚の空間であり、キントンも例外ではなかった。
キントンは、大切な何かを忘れたようである。
「拙者、何か大切なことを忘れたような・・・気がするのでござる。」
しきりに首を傾げるキントンを連れて、僕らはゴラン所長の部屋に向かうことにした。
ゴランは、所長室の建物の外で待っていた。
先に戻った大賢者コマゾーから報告を受けていたからであろう。
巨体が月明かりに照らされて淡く七色に光っており、遠くから見ても目立っている。
その場には、コマゾーも待っていた。
そして、その横にもう1体、黒色のゴーレムが立っている。
みんな無言だった。
キントンがゴランたちに歩み寄る。
キントンは一言、ゴランに尋ねた。
「勝ち申したか?」
それを聞いたゴランは、巨大な腕を天に向かって高らかに上げた。
「そうか・・・そうでござるか・・・。」
キントンが泣き崩れる。
そのキントンをコマゾーと黒色のゴーレムが、優しく迎え入れた。
コマゾーが、思い出したかのようにこちらを振り返った。
そして、僕らの下に軽やかに跳ねて来る。
「よくやったのにゃ。これで仕事は達成だにゃ。」
コマゾーが杖を僕らに向けた。
すると、僕のMAPにあった仕事進行中の表示が、仕事達成に変化した。
どうやら、ミア、ポラン、ゼフェルも同じようだ。
「早速、報告に行って来ると良いにゃ。」
「よぅっしゃー!」
「よぅっしゃー!」
ミアとポランが歓喜のガッツポーズをする。
僕は、自分のステータスを見てみた・・・が、全く何も変化はない。
ミアが目を輝かせて言った。
「さあ、すぐに行くわよ!」
「どこに?」
「仕事達成の報告に行くんでやんス。」
「そこで、経験値が貰えるのよっ!」
スキップするポラン。
宙をスキップするミア。
その2人に連れられて、僕とゼフェルは“天秤の間”とやらに向かうことになった。
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- 魔素の世界 -
《ポルファス王国 西部 ヤークション城壁》
その頃。
デススペクターは消滅した。
マトバンとミズナは、すぐさま次の行動に移ると、敵を排除していった。
マトバンの双剣、ミズナの光り輝く剣、もはや2人にとって脅威となる敵はいない。
しかし、城壁の上で防戦する騎士たちには、すでに限界がきていた。
城壁を攻めてくる敵の動きは、人間の常識とは大きく異なる。
攻城兵器を使ってくるのではなく、壁をわらわらと平気でよじ登ってくるのだ。
城壁の上では、ルバーツの悲痛な叫び声が響いた。
何かが起きたようだ。
城壁に開けられた穴を塞ぐ余裕はない。
そして、城壁の上の守りは崩壊寸前である。
街中に敵がなだれ込んでくるのは、時間の問題であった。
その時。
城壁の外から喇叭の音が聞こえてきた。
それは、もう一つ。
さらに、もう一つ。
突撃を知らせる喇叭だ。
それを聞いたマトバンは笑みを浮かべた。
目の前の死の騎士を双剣で打ち倒すと、ミズナに向かって叫んだ。
「儂は先に出る。ここは任せたぞ!」
ミズナは頷いた。
「ご無事で!ここを掃討して、すぐに追います!」
マトバンは、腹の底から大声を出した。
「ここが正念場じゃっ! 皆の者!儂に続けぇぃっ!」
マトバンは、城壁に開けられた穴から外に飛び出していった。
それに続くいて、騎士たちが外に飛び出ていく。
また喇叭の音が響く。
そして、もう一つ。
やはり、もう一つ。
それは、各500騎に分かれて東南北の領内巡回に出ていた私兵騎士隊である。
その数、総勢1500騎。
城壁を守る騎士たちは、喜びに打ち震えて叫んだ。
【戦況】
□=王国騎士軍団常駐隊・私兵騎士隊
■=敵
ミズナ
〇■
ヤークション城壁 ■
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■■□■ ■□□■□■■ ■□■■■ □■■
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■■ ■■■■ ■■〇■■■ ■■■ ■■■
■■ ■■ ■ マトバン ■■■ ■■■
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□ □ □
□ □ □ □ □ □
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私兵騎士隊 私兵騎士隊 私兵騎士隊
500 500 500
城壁の上で、ルバーツは歓喜の声を上げた。
拳を大きく振り上げる。
「私兵騎士隊長殿っ!聞こえますかっ!この戦い、我らの勝利ですぞっ!」
そのルバーツの腕の中には、傷ついた1人の騎士が横たわっていた。
私兵騎士隊長である。
「すまぬが、儂を起こしてくれるか。」
ルバーツは無言で頷くと、私兵騎士隊長の身体を起こした。
その左上半身は失われている。
領地巡回に出ていた私兵騎士隊は、敵の背後から突撃を繰り出した。
そして、猛烈な勢いで敵を殲滅していく。
城壁に開けられた穴から、マトバンが飛び出してきた。
その華麗なる双剣の妙技が冴えわたる。
強敵と見られる敵は、その尽くが双剣の前に倒れていく。
さらには、光り輝く剣を持ったミズナが、城壁の穴から飛び出してきた。
一つ。二つ。
凄まじい速さで敵を斬り裂いていく。
私兵騎士隊長は、その様子を見て満足した。
このヤークションが誇る2人の至宝の雄姿は、とても美しい。
「貴殿、ルバーツ殿であったな。悪いのじゃが、頼みを聞いてはくれんかの。」
「何なりと。」
「フクダン伯爵に伝えて欲しい・・・老兵は役目を果たしました。そして・・感謝を・・・。」
肩に担いでいる私兵騎士隊長が、ずっしりと重くなった。
ルバーツは、無言のまま私兵騎士隊長をそっと優しく横に寝かせた。
一瞬だけ瞼を閉じる。
次に目を見開くと、ルバーツは鬼神の如き表情となった。
「承知!必ずや!!」
そして、敵を力任せに打ち倒していくのであった。
この城郭都市攻防戦は、ヤークション側の勝利で終わろうとしていた。
この勝利には幾つもの分岐点が存在している。
そして、運命の働きはヤークションに味方した。
この戦いでは、幾らかの敵が街中に侵入したにも係らず、民には全く被害が出ていない。
まるで、何か不思議な力で守られているかのように。
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《ポルファス王国 西部 ヤークション 地下》
ヤークションの地下深く。
そこで、“嘘つきマルカー”は目を覚ました。
マルカーは、恐る恐る辺りを見渡す。
しかし、何も見えない。
真っ暗な場所に一人。
最初は目が見えなくなったのかと思ったが、どうやら目に異常はないようだ。
ただ、何も見えない。
一面に広がる真っ黒。黒。黒。
「おーい、誰か、誰かおらんのか?」
とにかく心細い。そして恐ろしい。
すると、自分の周りに無数の気配がした。
暗闇の中でその姿は見えない。
マルカーは、その悍ましさに発狂して叫んだ。
しかし、その叫び声はどこにも届くことはない。




