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第1章 第36話 どうやら僕らに試練が訪れたらしい

- 秘宝の世界 -

《導きの迷宮 地下》


迷宮の地下を進む僕らは、ついに敵モンスターと遭遇してしまった。


敵は“巨大なナメクジ”に近い姿であり、飛び出た両目が異様に大きい。

右手だけはさみが異常に発達しており、それが脅威に感じる。


僕は敵のステータスを見た。


《ドロシャッパ》

■系統種族:魔物系-ドロシャッパ  ■年齢:5  ■レベル:5

■経験値:5550/6000

■HP:100/100  ■MP:0/0

■攻撃力:40  ■防御力:5  ■魔力:0

■ちから:15

■みのまもり:5

■すばやさ:10

■きようさ:1

■かしこさ:1

【スキル】触覚

【ジョブ】なし

【称号】なし


力が15に対して、攻撃力が40と高い。

きっと、あの右手のはさみが要注意ということだろう。


見た目によらず、すばやいようだ。


「やっぱり、地下のモンスターは強いでやんスね。」

「あの右手が要注意よ!一撃でやられるわ!」


「どうする?」

「オイラが正面を引き受けるでやんス。ミライとぜー坊は横から仕掛けるでやんス。」

「OK」「はい。」


飛び出そうとしたポランをミアが制止した。


「ちょっと待って。たぶんあいつ、麻痺が効くと思う。」


ミアはそう言うと、自分の身体の“光”を消した。

途端に真っ暗になる。


「ズモォォォッ!」


暗闇の中、敵モンスターの悶え苦しむ声が聞こえた。


そして、戻ってきたミアがまたほのかに光る。

どうやら、ミアはスキル“しびれ粉”で攻撃したようだ。


「今よっ!長くは効かないから急いで!」


ドロシャッパは、痺れて身動きが取れない。

僕らは一斉に攻撃を繰り出した。


ズドンッ!

ザクッ!

ザクッ!


どうやら、僕らの攻撃はダメージを与えたようだ。


【僕らの攻撃力】

 ●僕・・・・・4(+5)

 ●ポラン・・・8(+10)

 ●ゼフェル・・4(+5)


「ズモォォォッ!」


ドロシャッパが怒り狂った。

右手の大きなはさみを左右に大きく振り回す。


僕らはそれを何とか避けた。


ドロシャッパが動いた。

やはり、見た目によらず動きが速い。


「!?」

「!?」


ドロシャッパは逃げ出した・・・。


「え・・・?」

「はやっ!?」


僕らは唖然としてしまった。

敵モンスターが逃げ出すとは、全く思っていなかったので拍子抜けである。


「ま、まあ、こんなもんね。」

「意外と楽勝だったでやんス。」

「ミアの“しびれ粉”がなかったらヤバかったかもね。」


しかし、安堵したのは束の間であった。

僕らの前には、すぐに新手の強力なモンスターが出現したのである。


****************


異世界免許教習所ココカラ


その頃。


魔素の世界にいたウォルス、ジーニャ、エレンの3人は、異世界免許教習所ココカラに一旦戻ってきていた。


夕食の時間だからである。

3人は食堂の中にいた。


「暢気に飯を食っていて良いんかのう?」

「もしかすると今頃、ヤークションが襲撃されているんじゃないかしら。」

「ヒト系-コモンの街がどうなろうが、あちきは知らんさね。」


3人は、ツクモガミが作った夕食のハンバーグを口一杯に頬張っている。


すでに食堂の中は、仲間たちで一杯になっていた。

厨房では、ツクモガミが忙しく料理を作り続けている。


「それにしても、あのシモンが、復讐なんてするのかしら・・・。」


エレンが呟いた。


「それは、勇者だった奴のことさね?」

「そう。何か嫌な予感がするのよね。」


「しかし、50年は昔に死んだんじゃないさね?」

「そうね。あの時、間違いなく処刑されたわ。」


「それなら、とっくの前に転生しとるじゃろ。」


早々に食べ終わったウォルスは、どこからともなく酒を取り出して飲んだ。


「こりゃいかん。酒を調達しとかんと、残りが少なくなってきたわい。」

「飲みすぎさね。少しは痩せないと、太り過ぎて“オーク”と変わらないさね。」


「おいおい。オークはないじゃろう。」

「みんな思ってるさね。」

「ふふっ。」


「おいおい。エレンもそう思っとるのか。」


ウォルスはでっぷりと太ったお腹をパンッ!と叩いた。


「むむぅ。オークはショックじゃのう。」


****************


- 魔素の世界 -


一方、その頃。


シモンを名乗ったアイラは、レイス2体が曳く馬車の中で、自分の手を見ていた。

オリオンから乗っ取った身体。

オリオンの手である。


この身体は、本当に自分と相性が良い。

アイラはそう思っていた。


かつて、モルカットの地下牢で1人静かに息絶えた。


気付いた時には“真っ白な空間”にいて、自分の全てが溶けていくことを察知した。

アイラは、すぐに自分の意識と記憶、そして復讐心を“記録”した。


高レベルのレンジャーでなければ“記録”のスキルは使用できない。

これがなければ、自分は何もない無となっていたのだろう。


長い間、真っ白な空間をさ迷った。

いや、漂い続けたという表現が確かかもしれない。


どこまでも続く白、白、白。

一体、どれくらいの年月が過ぎたのだろうか。


ある日、ふと自分と同じ“何か”を見つける。

その形は“ある”ようで“ない”。

無となった霊体である。


それは、かなりの数が動いている気配がした。

それらは、1つの方向にまるで導かれるかのように流れている。


アイラは後を追った。


しばらくすると、真っ白な空間の中に“ゲート”のようなものが見えてきた。

そこに無となった霊体は入っていく。


アイラも迷わずそのゲートの中に入った。


そのゲートをくぐると、大きなてるてる坊主に小さな手足がついた姿の者が大量にいた。

その顔には黒目のない“ただの丸”が2つ。


全てが同じ姿形で、区別できるところは何もない。

どうやら、自分の姿もそうなっているようだ。


自分を含めたそれらは、ゴーレムに導かれて歩くことになった。

やがて広い空間に辿り着くと、言葉を話す黒色のゴーレムから何やら説明を受けることになった。


その説明によると、ここは異世界免許教習所であり、ここで学ぶことで希望する世界に転生できるというのだ。


世界は8つもあるらしい。


アイラは、全くの理解不能で混乱していた。

しかし、周りを見る限りは、みな無言で説明を聞いている。


どうやら、自分だけが“自我”を保っているようである。


アイラは考えた。

このまま自我を持たない“ふり”をした方が良いのだろうか。


ふと、黒色のゴーレムと目が合った。


強い。

自分では勝てない。

アイラは直感でそれを感じた。


黒色のゴーレムが、首を傾げながらアイラの下に歩いてくる。

アイラは“それら”と同じふりをした。


「何か妙な雰囲気を感じたのですが・・・気のせいですかね。」


黒色のゴーレムはアイラをジロジロと見ていたが、すぐに踵を返すと元の場所に戻った。


いまは“無”を演じるべきだ。

そうアイラは思った。


それからのアイラは、無を演じ続けて教習を受けた。

自分が希望する世界は、当然のこと元の世界である。


それは退屈な日々であった。


しばらくして、仮免許なるものを得た。

どうやら、魔素の世界を一時体験するらしい。


それからすぐに、オリオンという名の教官に引率されたアイラは、数十体の“それら”と一緒になって、魔素の世界に戻ってきたのである。


アイラは、まだ無を演じ続けるつもりであった。

しかし、魔素の世界に一時体験で辿り着いた場所は、あの憎きモルカット王国の共同墓地だったのである。


アイラの中で“憎悪”が一気に膨らむ。

その異変に気付いたオリオンは、すぐに“帰還の印綬”を使用しようとした。


それを見たアイラは、咄嗟にスキル“影縛り”を使用する。

影縛りは、オリオンの身動きを一瞬だけ封じた。


そして、そのままオリオンの身体に取り憑いたのである。

オリオンの身体の中で、アイラとオリオンの意識がせめぎ合いする。


アイラには奥の手があった。


高レベルのレンジャーは、スキル“催眠”を持っている。

アイラはオリオンの意識に催眠をかけた。


オリオンは状態異常耐性を持っている。

しかし、身体の中で意識に仕掛けられた催眠には耐えられなかった。


オリオンは最後の意識を振り絞ると、必死で“帰還の印綬”を使用した。

アイラが、それを慌てて途中で掻き消そうとする。


中途半端になった“帰還の印綬”は暴走を起こした。

数十体の“それら”と共同墓地に埋葬されていた亡骸がその暴走に巻き込まれたかと思うと、パッと目の前から消えた。


こうして、アイラはオリオンの身体を乗っ取っることに成功した。


この身体の持ち主が、シャーマンであったことは偶然の喜びであった。

復讐を成すには最高のジョブである。


しかも、いまのアイラは、シャーマンとレンジャーの2つのジョブを持っている。


レンジャーのジョブには“木霊こだま”がある。

これは、自分が行使するスキルを重ね掛けすることができる特殊なものだ。


これが、シャーマンとの相性がすこぶる良い。

幾らでも無限に“不死系モンスター”を作り出すことができるのであった。


アイラは、共同墓地に眠る亡骸を操った。

そして、モルカット王国を襲わせると、一夜にして滅亡させたのであった。


アイラは、馬車の窓から外を見た。


アイラが乗る馬車の回りには、膨大な数の不死系モンスターが行軍している。

そして、ポルファス王国の王都に向かっていたのであった。

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