第1章 第20話 どうやら受講者で溢れているらしい
- 魔素の世界 -
横殴りの大雨の中、オルタスはポルファス王国の王宮までの道のりを急いで戻っていた。
あの“死を纏う者”は、あまりにも危険すぎる。
隣国モルカットと同様、ポルファス王国もきっと無事では済まないであろう。
供回りの騎士たちには、二手に分けた上で指示を出した。
一方は、領地にワクニ村が入るヤークション領の領主“フクダン伯爵”の下に火急の知らせを入れる役目として、早馬を駆けさせた。
もう一方には、ワクニ村で生き残った村人を保護しながら、フクダン伯爵の下まで無事に送り届ける役目を任せたのであった。
フクダン伯爵は、善政を敷く領主として知られている存在だ。
かの御仁であれば、ワクニ村で生き残った村人を無下に扱うことはあるまい。
「ルース・・・。」
死を纏う者が、何度も槍を若き騎士に突き刺した姿が思い起こされる。
死を纏う者はシモンと名乗った。
いまから50年前、反逆の罪で公開処刑されたという記録が残っていたはずである。
すると、いまも生きており復讐を企てたとは考えにくい。
あの異形の仮面の奥に冷たく光る赤い眼は、人間のものとは思えなかった。
オルタスは、首を振って余念を取り除く。
自分がどれだけ考えたところで、答えが出るはずはない。
王宮に戻れば王宮魔導士がいる。
彼であれば、きっとこの答えを教えてくれるであろう。
そして自分は、すぐにでも戦の準備を整えなければならないのだ。
オルタスは馬の手綱を鞭打つと、その速度を上げた。
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- 異世界免許教習所 -
僕らはコマゾーに連れられて、受講者がいる教室に向かっていた。
角を曲がると、そこには見覚えのある姿があった。
「ミッチー!」
ミアがミックに向かって勢いよく突撃していった。
それをミックはあっさりとかわす。
「ミックさん!」
「ミック!」
僕とポランもミックに駆け寄っていく。
「ミックさん、昨日はありがとうございました!」
「ほんと助かったでやんス!」
ミックは少し照れ臭そうにしながら、さりげなく手を振って応えた。
そこにミアがプリプリ怒って戻ってくる。
「ちょっとミッチー! 乙女を抱きとめるくらいしなさいよっ!」
「あぁ、すまん。トンボが飛んできたかと思った。」
「ウキーッ!」
そう怒りながらも、ミアはちょっと笑っている。
「ミッチー、昨日は皆を助けてくれて、本当にありがと。」
「あぁ。」
ミックは右手でポリポリと頭を掻いた。
ミックは午前中に1つの仕事を済ませたらしく、今からまた次の仕事に向かうとのことであった。
さすが、ルーキーは仕事ができる。
コマゾーとミックは何やら情報交換を始めていた。
すると、コマゾーは傾奇者が着ていそうな羽織りの袖から“何か”を取り出して、それをミックに手渡した。
「悪いな大賢者。助かるよ。」
「ふむ。お前さんでは、ちと荷が重い仕事だにゃ。」
「わかっている。」
「無理だと思ったら、逃げることも大事だにゃ。」
「あぁ。」
どうやらミックは、かなり難しい仕事を引き受けたようだ。
ミックはコマゾーから受け取った“何か”を大事に腰のポシェットにしまった。
「新入り、またな。」
「はい。ミックさんもお気をつけて!」
ミックは歩き去ろうとして、チラッと横目でゼフェルを見た。
そして何かを言いかけたが、右手で頭を掻くと無言でそのまま歩いて行った。
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- 魔素の世界 -
一方、その頃。
ウォルス、ジーニャ、エレンの3人は、2頭の馬が曳く馬車に乗って移動していた。
御者はウォルスが引き受けており、雨に打たれながら手綱を握っている。
美女2人は馬車の中で優雅にお茶をしていた。
ジーニャが、御者台の小窓を開けてウォルスに話し掛けた。
「それにしても、馬が無事で良かったさね。」
「これが“天翔ける馬”であれば最高じゃったがのう。」
「そのでぶっ腹だと、天翔ける馬には乗れやしないさね。」
「ガハハッ。お腹もそうじゃが、そもそも足がたわんわい。」
ウォルスは、ヒト系-ホビットである。
身長が低い為に馬にまたがるのは難しい。
滅亡したモルカットの貴族のものであったと思われる馬車を拝借した3人は、大雨の中を先に進んだ。
「それで、どこに向かっているのさね。」
「とりあえず、ポルファス王国の“ヤークション”にでも行ってみるかのう。」
「ふぅん。まあ、任せるさね。」
それを聞いたジーニャは、御者台の小窓から入ってくる雨を嫌って、小窓をピシャリと閉めた。
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- 異世界免許教習所 -
教室と聞いていたことで、僕は学校の教室をイメージしていた。
目の前に見えてきたのは、巨大なドームである。
その見た目は、屋根付きコロッセオと表現したら良いだろうか。
「でっか。」
僕は屋根付きのコロッセオを見上げた。
中からは、マイクで話しているかのような声が、微妙に漏れ聞こえてきている。
「さっき教えた8つの世界は覚えているかにゃ?」
「はい。」
僕は、コマゾーに教えてもらった8つの世界を思い出す。
●精霊の世界:精霊が主となっている世界 ※統一呼称=精霊系
●万物の世界:竜族が主となっている世界 ※統一呼称=竜獣系
●真祖の世界:魔族が主となっている世界 ※統一呼称=魔物系
●秘宝の世界:巨人が主となっている世界 ※統一呼称=巨漢系
●魔素の世界:魔法が主となっている世界
●逸脱の世界:合成が主となっている世界
●料飲の世界:人間が主となっている世界 ※統一呼称=ヒト系
●科学の世界:動力が主となっている世界
「ここは、“料飲の世界”の学科教室だにゃ。」
「学科は集団教習だから、どうしても大きな建物になるでやんス。」
「えっ?じゃあ、このドーム状の大きな教室が全部で8つあるの?」
「もちろん、あるでやんス。」
「MAPを見たら? その方が早いでしょ。」
僕はMAPを見た。
目の前の巨大ドームには、“教室・漆”と表示されている。
僕が見ることが出来るMAPの範囲は、せいぜいが半径200m程度だ。
目の前の教室・漆と、その横に“教室・捌”の一部が表示されている。
「受講者の数はとても多いにゃ。だから、時間帯で分けた単元毎に総入れ替えするにゃ。」
「あの。受講者って、いったい何人いるのですか?」
「数えきれないくらいにゃ。」
「8つの世界の全ての霊体がここに集まってくるでやんス。」
「空虚の空間から辿り着く“ゲート”は、いつも大渋滞よ。」
「そんなに大量の受講者がいて、トラブルにならないのですか?」
「受講者はみな知恵はあれど自我がないにゃ。だからトラブルはないにゃ。」
MAPの中には、数えきれないほど無数な数の“黄色印”が表示されていた。
その中央には、“青色印”が3つある。
「その黄色印が、“敵意を持たない”知恵を持つ者を示すでやんス。」
「中は、ミライが嫌いな“幽霊”みたいなもんがウジャウジャよ。」
ミアが悪そうな顔をして、ニヤリと笑った。
僕らは、料飲の世界の学科教習を行っている教室・漆の中に入ることになった。




